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【完結】異世界から勇者を召喚したいのにろくでもない奴ばっかり出てくるせいで世界が全く救われない  作者: ミント


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VS.オーディン

「……思い出したか、昼田勇子よ」


 問いかける老人男性の声に、私はゆっくりと目を見開く。


 ヴァルキリー様の神殿とよく似た、けれど見慣れたその場所より数倍豪華な建物の中。その中で身を起こせば、周囲にいる人々――正確には神々が、ひそひそと陰口を叩くのが聞こえる。


「全く、世話を焼かせやがって……」

「ヴァルキリーのわがままのせいでこっちはドワーフに文句を言われたりしたってのに、いいご身分だよな」

「人間の癖に生意気だぜ」


 忌々し気に鳴る罵詈雑言の数を、眼帯姿の最高神・オーディンは一言「静粛に」と言いその場を鎮める。


「……全部、思い出しました。私が聖女ではないことも、ヴァルキリー様とトールが私の記憶を書き換えたことも。フェンリル復活までに温情をもらったことも、今でははっきりと、思い出せます」


 オーディンの問いに答えるでもなく、ぐっと拳を握りしめながら自分のことを話す私。そうすると横から酷薄な笑みを浮かべた青年が現れて、「あれれれれ~?」なんてわざとらしく私に絡みついてくる。


「ヴァルキリーは『様』なのにトールは呼び捨てなんだねぇ。ずっと君を騙してくだらない茶番をしていたのに、ヴァルキリーのことは好き? それとも偽聖女やってるうちに本当に自分が聖女だとでも思いこんじゃった? どっちにせよ、本当にろくでもない奴だねぇ。君も、ヴァルキリーもさ」


 自分のみならずヴァルキリー様をも馬鹿にするようなその口ぶりに、私はキッとロキを睨み付ける。けれどロキはそうやって私が怒ることすら面白いのか、ニヤニヤと悪意で彩られた笑みを返す。トールを始めとした他の神々はそんなロキを咎めることはせず、ただ実験動物でも見るかのような冷たい眼差しを私に向けていた。

 誰1人として味方がいない、孤立無援のこの状況。だけどこの世界に来る前の私だって、同じような状況だったのだ。私は自分の胸の奥から必死に勇気を振り絞り、オーディンへと声をかける。


「ヴァルキリー様とカミラはどうなったんですか?」

「吸血鬼の小娘の方は知らぬ……だが、命に関わるようなことはしていないとだけ言っておこう。ヴァルキリーは地下牢で頭を冷やすよう言い含めてある。反省の色が見られるまで、半永久的に縛り付けておくつもりだ……」


「あー、俺も昔縛り付けられたことがある岩のあれか。上から毒が落っこちてくるから、超痛いんだよねぇ。俺でも正直しんどかったのにヴァルキリーは大丈夫かなぁ? まぁ、なんとかなるよね。なんてったって、異世界からの勇者を召喚した『戦いの女神』なんだからねぇ」


 同情するような言葉で、しかし確かな嘲笑を浮かべながら心底楽しそうに語るロキ。その言葉に私はさっ、と血の気が失せていくのを感じる。

 ヴァルキリー様。犬が怖くて、異世界から呼びだした勇者たちに翻弄されていて、それでも確かに私とカミラのことを大切にしてくれた人。そんなヴァルキリー様が今、地獄のような苦しみを味わっている。私を嘲る邪悪な神、ロキが「しんどかった」なんて言い出すほどの苦痛を。想像しただけで頭と胸の中がぎゅっ、と縮み、暗い幕が下ろされたような感覚。……正直、自分の記憶を思い出した時よりずっと辛い気持ちになる。それが「心配」という感情であること、ヴァルキリー様に情を抱いているからだこそと気がついた時にはもう、私は真っ直ぐにオーディンを見据え前に進み出ていた。


「私が、魔王フェンリルをなんとかします。立ち向かって、抵抗して、殺されてもいいので……ヴァルキリー様とカミラを解放してください。あの2人を、無事に帰してください」


 私の言葉に、周りにいる神々が一斉に口を閉ざす。眉を寄せ、一様に不快さを表すそれは最高神であるオーディンに異世界の人間が無礼な物言いをしたからだろうか。だけど、私は自分の言葉を取り消すつもりはない。覚悟を決め、震えるのをやめた足で踏ん張る私にオーディンは目を細める。その表情は、私の真意を測りかねているようだった。


「ヴァルキリー様もカミラも、私にとっては大切な存在です。私が世界を救う勇者になるなら、絶対にその2人がいる世界じゃないといけない。……私は正義感とか使命感とか、そういうものを持ち合わせていません。だからあなた方、神が私に勇者であることを望むなら。ただ2人が平穏に暮らしていける世界を、安心して穏やかに生きていける世界を、約束してください」


 それは今までの私が、漠然とだが確かに感じていた本当の「願い」だった。


 おっちょこちょいなヴァルキリー様。泣き虫なカミラ。どちらも悪いところを挙げればきりがないけれど、それでも私にとっては家族のような存在だった。これからもずっと一緒にいたい、大きな幸せなんていないからただ慎ましく何事もない日々を送りたい。そう自然に思えるほど、大事な仲間だったのだ。元の世界では決して感じることのなかった、安定感と満足感。その2人が傷つくようなことなど、あってはならない。例えその場に私がいないとしても、あの2人には笑っていてほしい。聖女でも勇者でもない、昼田勇子――ヒルダの心からの切望。それだけが、私を突き動かしていた。


「……良かろう。ただし、全ては魔王フェンリルの消滅が確認できてからだ。昼田勇子、お前が本気で2人を救いたいと願うならば、本物の勇者になるのならば。その行動をもって示してみよ。私たち神に、異世界から召喚された勇者としての矜持を表してみるがいい」


 オーディンの、静かで落ち着いた声音に私は力強く頷いてみせる。どこか不安げな表情のトールや、疑わし気に私を見つめる他の神々たち。ロキはというと「おいおい、実の娘可愛さに適当な理由こじつけて釈放するつもり~?」なんてオーディンを小馬鹿にするような態度を見せているが、オーディンはその片方だけの目で私をしっかりと見定めていた。


 本当に世界が救いたいのなら。ヴァルキリー様とカミラを救うのなら。神々が望んでいる、「世界を救う勇者」になってみせろ――そう無言で問いかけるオーディンに、私は息を飲みながらもしっかりと肯定してみせるのだった。


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