VS.変態 リベンジ
「我らが戦いの女神ヴァルキリー様、勇敢なる英雄の守護者、この世界を守りし麗しき神。どうかこの世界を救う勇者をお呼びください。お願いします、お願いします……」
「ヴァルキリー様ー! 勇者呼んでー!」
きちんと祈りの口上を述べる私と反対に、フランクな口調でお願い――もはや「お願い」というより単なる「声掛け」な気もするが――を口にするカミラ。この子もだいぶ、この神殿に慣れてきたな……悪いことではないのだけど、魔王フェンリルの脅威が迫るこの世界にとって決して良いことでもないだろうそれに私は乾いた笑みを零す。そうしているといつものピンク色の髪が印象的な美しい女神・ヴァルキリー様が鎧を身に纏った凛々しい姿で私たちの前に現れる。
「聖女ヒルダ、吸血鬼カミラ。お2人の願い、しかと聞き届けました。今すぐ、勇者を召喚いたしましょう」
ヴァルキリー様は一度こほんと咳ばらいをすると、女神の貫録を感じさせる優雅な動作で魔法円を発動させる。本当、こういう時だけは綺麗なんだけどな。今度の「勇者」は、一体どんな人たちだろう。ぼんやり、漠然とした不安を抱きつつ私は魔法円の光の向こうに目を凝らす。そこにいたのは、「勇者」にふさわしい逞しい体つきの男たち。みんなそれぞれ、筋肉があったりちょっと太めだったり色々な体格をしているけれど――
「――って、嫌ああああああっ!」
叫びながら、私とカミラは目を覆う。
召喚された勇者さまはみんな、ほぼ全裸に近い格好で神殿に立ち尽くしている。何か金属の装飾がついた革製品や、やけに肌に張り付いている水着。なぜか胸にシールを貼っていたり、逆にワサッと音がしそうなほどたっぷりの胸毛がついていたりとその系統は様々だがみんな肌の露出度が異常に高い。そのあまりに刺激が強すぎる光景にカミラは1番の天敵である太陽光を目にしたかのごとく、座り込み狂ったように叫び出す。
「ちょっとヒルダ、何なのよコイツら! どいつもこいつも変態ばっかりじゃない! なんでよりによってこんなの呼ぶのよ!? もう、なんとかしてよ!」
「何を言うそこの少女! 私たちはきちんとした場所でそれぞれの趣味を楽しみ、リラックスしていただけだ! 君たちこそいきなり我々を呼び出し、何を企んでいるのかね!?」
変態集団の矢面に立ち、無駄に堂々と言い返すのはブルマを履いた男性。……あれ? この人、ひょっとして……
「む、君はいつぞやの変態ワールドに興味のあるブルマ好きの少女だな!? なんだ、この世界に加わりたいからと言ってこんな方法を使う必要はないだろう!」
その言葉で、勝手に「ブルマ好き」と認定された私は思い出す。
そうだ、勇者召喚の儀2回目で現れた自称「節度のある変態」の変態さんだ。前回もゴスロリ少女を再召喚したけれど、まさかよりによってこの人をまた召喚(しかも似たような人をわんさか引き連れて)してしまうなんて……!
おののいている私の隣で、蹲ったままのカミラが「ちょっと……」と口を挟んでくる。
「ヒルダ、ああいうのが好きなの? その、『ブルマ』っていうのとかが好きなわけ? いや、その、人の趣味をどうこう言うつもりはないけれど……えっと、ヒルダはあんな恰好しない方がいいんじゃないかなって……」
なんだか盛大な誤解をされている!
「か、カミラ! 違うから! 私はこういうの興味ないし! ブルマとか履きたいなんて全然思ってないから! 本当、信じてカミラ! 嘘じゃないから!」
「ちょっと待ちたまえ! そこのエレガントなドレスの少女。なんでも最初から決めつけるのは良くないぞ。何事もまずは自分の目で確かめ、それからその是非を考えるべきだ! だから君もまずはレッツトライだ! 変態はいつも君を待っている!」
私の反論を勝手に遮り、持論を捲し立てる変態さん。いや、言っていることは間違ってないけどやってることが絶対アウトだから! っていうか、嫌っ、こっちに近づいてこないでよ!
「ヴァ、ヴァルキリー様早く! この人たちを元の世界に帰してください! 嫌ああああっ! ちょっ、こっち来ないでえええええっ!」
ほとんど泣き叫ぶような私の声にヴァルキリー様は慌てて、魔法円を再発動させる。変態さんたちはあっという間に姿を消したが、カミラはまだショックのあまり立ち上がることができず……私たち3人の間に、ものすごく気まずい空気が流れる。
「……ヴァルキリー様、あんな勇者を呼ぶのはもうやめてください。せめて、ちゃんと服を着ている人たちを呼んでくださいませんか……?」
女神の威厳はどこへやら、滝のように汗を流すヴァルキリー様に私はおずおずとそう口にする。ヴァルキリー様は何か言葉を返そうと酸欠の金魚のように口をパクパク空回りさせるが、さすがに何も言い返せないのか黙りこくってうつむいた。
「……ねぇヒルダ。ヒルダは本当に、ああいう恰好がしてみたいわけじゃないのよね? あんなのより前の、ロリータファッション? っていうのの方が絶対に可愛いわよ。その、だから、あの人たちの真似をしようなんて思わないでね……?」
「っだから、私は興味ないって! 別にブルマ好きでもないしあんな肌を曝け出すような恰好もしたくないから! 信じてよカミラ! ねぇ!」
大変、不名誉な誤解をしているらしいカミラに私は必死でそう訴えかける。そうやって言いあっているうちにヴァルキリー様はいつの間にか姿を消していて――神殿には私の悲痛な叫びが、こだまするのだった。




