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【完結】異世界から勇者を召喚したいのにろくでもない奴ばっかり出てくるせいで世界が全く救われない  作者: ミント


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VS.アイドル

「ねぇねぇ、ドワーフスマホ返してよヴァルキリー様ぁ」


 猫なで声で、甘えるようにそう話しかけるカミラにヴァルキリー様は思いきり顔を顰める。

 私たちはいつも通り勇者を召喚してください、とお祈りをしていてカミラもそれに倣っていたと思うのだが……カミラはどうやらドワーフスマホの方が重要らしい。まぁ、カミラにとって本来この世界の事情は他人事で、魔王フェンリルのことなんてよく知らないから無理もないけど……ぶりっ子っぽく語尾を伸ばすカミラをヴァルキリー様から引き離し、私は改めてヴァルキリー様に向き直る。


「ヴァルキリー様、勇者召喚の儀を始めてください。お願いします」

「……カミラのドワーフスマホ依存症を治そうとしなければなりませんね」

「それも大事ですが、この世界を救うためにも勇者を召喚するのが必要なので。お願いします」

できるだけきっぱり、断言してみせればヴァルキリー様は気まずそうに目を逸らす。


 ……異世界人のカミラと違って、ヴァルキリー様は当事者なのだから魔王フェンリルを早くどうにかしなければならない、ということはよくわかっているはずだ。ここ最近は特に、現れた勇者の集団に振り回されがちだし……神の威厳や神殿の立場、何より魔王フェンリルに怯える人々のために早くなんとかしなければと焦ってはいるのだろう。だけどそれは、聖女である私も同じ。だんまりを決め込むヴァルキリー様をジトッと見つめれば、ヴァルキリー様は魔法円を発動させる。もはや見慣れたその光には神聖さなど欠片もなく……「あぁもう、そういうのいいから早くしてくれないかな」と苛立つ私を前に異世界からの勇者たちが現れる。


 現れたのは見た目麗しい少女たちだった。

 ……最近、美少女の登場率高くない? と思ったがそこは言及しないでおこう。その少女たちはみんな、セーラー服を基調としながらフリルをたっぷり着けた可愛らしい衣装を着ている。それに呼応するように煌びやかな髪形やメイクをした彼女たちは、私たちの姿を見てそれぞれ困惑したような表情を見せる。


「あれ? ここどこ?」

「えっ、ステージじゃないよね? 私たちのライブは?」


 至極全うな反応をする彼女たちに、ヴァルキリー様は優しく話しかける。


「異世界から参られし勇者よ。安心なさい。私は戦いの女神・ヴァルキリー。魔王フェンリルからこの世界を救っていただくため、あなた方をこの場に召喚いたしました……」

「嘘っ、異世界転生!?」

「転生じゃなくて転移だよ、死んでないし……」

「どっちにせよヤバくない? ってかライブが……!」


 ……すごい! 会話がまともに成立している!


 ずっとろくに話もできない奴ばかり召喚してきたから、たったそれだけでも非常にありがたいことのように思える。あぁ、ちゃんと話が成り立つってこんなに嬉しいことなんだ……! と感極まる私と対照的に、冷静になったカミラが「ねぇ」と勇者たちへ話しかける。


「さっきから『ライブ』って言ってるけど、それって何? あなたたち、演劇でもするの?」

「はーい! 私たちは戦うセーラー服正統派アイドル、『セーラー・マシンガンズ』! 私は歌って踊ってルンルンルン♪の相戸流々です!」


 あ、やっぱり駄目だった。


 突如としてハイテンションになり、語り始めたのはツインテールの少女だ。眩しい笑顔で、「イェイ☆彡」とポーズを決めてみせる彼女と同じように他のメンバーも同じような自己紹介を始める。……普通に名前言ってくれないかな?


「それで、『ライブ』っていうのは何なの?」

「だから、今日は私たち『セーラー・マシンガンズ』の初ライブなんです! 子どもの時からいっぱい練習して、地下アイドルから這い上がっていった私たちの初ライブ! ここでデビュー曲の『ムーンらいと☆ダンガン』を歌って、私たちは伝説になるんです!」

「最近の人間ネーミングセンス壊滅してない?」


 カミラの冷めきった対応にも負けず、相戸さんたちはいかに自分たちの初ライブが重要かを訴える。

 今まで悪魔やプロデューサーの誘惑にも負けず、アイドルとして頑張ってきた。何十年にもわたる努力が報われる時が来たのだ、早く元の世界に帰りたい……ん? 何十年? この人たち、今いくつ?


 失礼なことを考えそうになったが、それを思いとどまると私はヴァルキリー様に「どうします?」と尋ねる。やっぱり今回もダメだったか、という落胆と納得にも似た諦め。それを悟ったのかヴァルキリー様は悔しそうに、それでも精一杯胸を張ると勇者たちに告げる。


「っ仕方がありません! あなた方は元の世界に戻して差し上げましょう! それでは、その、『初ライブ』というのを頑張ってきてください!」

「はーい! 応援ありがとー♡」

 最後まで愛嬌たっぷりに、笑ってみせた勇者たちは魔法円の光と共に姿を消す。……もうお決まりのパターンだな、どうすんのよこれ。そう思いながら、ヴァルキリー様の方を見てみれば……


 ヴァルキリー様はその場でくるりと一回転し、ウインクしながらニコッ、とピースサインを決める。


「……わ、私は戦うアイドル女神ヴァルキリー! 今日はちょっとダメダメだったけれど明日こそは大丈ブイ! だっ、だから許してちょんまげ! ねっ?」


 ひゅっと冷たい風が吹き、神殿の空気が氷点下にまで落ちた気がした。


「ヴァルキリー様、何それ? さっきの人たちの真似? アイドル女神っていったって全然アイドルらしいことも女神らしいこともしてないじゃない。っていうか正直ダサ……」

「うわああああ! カミラ! それ以上は言わないでください! 言うんじゃありません! もうっ、今日は、とにかく帰りますから! それじゃあっ! また明日!」


 顔を真っ赤にして、悲鳴にも似た声を上げながら姿を消すヴァルキリー様。結局、いつも通りの逃げオチか……と私は溜め息をつく。


 ……アイドルの真似をしたヴァルキリー様、私は結構可愛いと思ったけどね。


 こっそり、そんな感想を抱く私の横で「って、私のドワーフスマホはあああああっ!?」とカミラが1人で叫ぶのだった。

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