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二度目の世界で本当の自分に  作者: 夢辺 流離
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勝ち取ったもの

「……行かなきゃダメなの?」


 アンジェが心配そうに見上げながらそう言う。胸元の手は細かく震えていた。


「うん。アンジェがいたから……アンジェのおかげでそのまま連れて行かれず時間を貰えたけど、いつまでも逃げていたら“向こう“に強制的に連れ戻されると思う」


 “現実世界リアル“でヘッドマウントディスプレイをとられてしまえばそれで終わり。祖父はよく言えば竹を割ったようにまっすぐな人で、悪くいえば……自己中心的というか自由過ぎるというか。

いつ、遅いと言って剥ぎ取られてしまうかわからない。


「アンジェやレイダさんたち、カトレアさんたちに、ついでにクララや冒険者の皆がいるこの町にいたい。私の居場所……勝ち取ってみせる」


 今まで、私は現実を直視して対峙したことがあっただろうか。

うーうん、それはもういい。でも今度は絶対にこの手を離さない。


「だからアンジェ、待っててくれる?できたらレイダさんたちに今日は休むって伝えて欲しいんだけどぉっ!?」


 アンジェがリデルの顔を両手で包んで顔を近づけてくる。その視線は刺すように鋭い。


「レイダさんたちに嘘をつかせないでね」


 ドキドキしているリデルにアンジェはそれだけを返した。了解と言うことだ。それだけで百人力だ。


「行ってきます」

「いってらっしゃい」


 実のところ、居場所をアンジェに知らせ忘れていたようで、どこにいるかはわからない。なので祖父とあった場所に向かうと、どこか居心地悪そうにしていた。伝え忘れたことをさすがに気に病んでいたのだろう。


「別れは済ませてきたのか?」


 祖父が言う。やはりアンジェのことを気にかけてくれていたのか。


「お祖父ちゃん…」


 目を伏せ深く息を吸い、顔を上げると目を開く。


「勝負よ。私が勝ったらこの世界で生きることを認めて!」


★☆★      ★☆★


「勝負よ。私が勝ったらこの世界で生きることを認めて!」


 奏……と顔の造りが同じ、だがそう受け入れるには抵抗がある娘が叫ぶ。

正直言って驚いた。

声の張り、肌の艶、そして充ちた気力。昨晩見た姿とは別人のようであった。だが……、


「このワシに勝とうとは少し調子にのってはおらんか?」


 殺線を向けながら威圧してみる。

が、奏の立ち姿に淀みはない。


「私の願いを叶えるために“多少の“ハンデは乗り越えてみせる」


「ハッ。クックック、ハーッハッハ。良かろう、ならばワシは力づくでお前を連れ戻してやろう。その時にはワシの言うことを聞いてもらうぞ。ここでやるか?」


 もはや効果のない殺線を解くと自身の気力、闘気がさらに充ちるのを感じる。


「……いつも鍛練している場所がある。そこに行こう」


 地の利を味方にしようというのか?それも良かろうと思う。多少の小細工など無用である。が、奏に着いてしばらく歩いた先で、それが勘違いであったと知る。山間の拓けた地、そこは“向こう“での屋外鍛練場に似ていた。


「奏、どっちにする、刀か?」


 その問いに頷きで返す“奏“。

予想の範疇だった。


「“向こう“でなら、芯の強さならワシ、老いたワシと最盛期の“奏“、そして技ならば練磨を重ねたワシより“奏“の天稟。心技体は総合的に互角か“奏“が僅かに、だが確実に上であったろう。が、“こちら“においては技は“奏“の方が上としてもそのほかではワシの方が圧倒的であろう。勝ち目があると思っておるのか?」


 二振りの刀の片方を放る。


「その割に嬉しそうだけどね」


 その通り。祖父と孫という関係でありながら、奏の才能に嫉妬したこともある。だが、歳月を経て磨かれた技と思考、そして最盛期の肉体有り得ないものが揃った。


奇しくも二人を照らす月明かりはうっすらと青みを帯びて見えた。


 己の全てをかけて天稟の才を超えてみたいという思いが確かにある。その相手に不足があるのはやはり残念だ。


「刀を粗雑に扱って」


 苦もなく受けとった奏に遠慮なく斬りかけ、奏は音一つさせず抜刀して受ける。


 鍔競り合いの状態に持ち込む。

卑下しているわけでは決してない、ただ得意とするものが違うだけだ。例えば痛みへの耐性は女性の方が優れていると言われる。それは戦闘でも活きるかもしれない。だが、筋力という点では男の方が有利に運ぶのは否定できないだろう。


 畢竟、卑怯と言われ得ないが、“奏“の腕を認めた上でこうするしかないと判断した。

予想以上に軽い“奏“をジリジリと押しこむ。このまま体勢を崩させて殺る(とる)!と言うところで、“奏“の方が足を浮かせ、ワシの力を利用して後退さる。その際に追撃させないように、柔らかく全身を使い、逆にこちらの体勢を崩させると共に刀を逸らせている。


 こちらもできた隙をつかせないように姿勢を正すーーー。



☆★☆    ★☆★


 不意打ちじみた一撃をなんとかかわしきったものの、マイナスをゼロに戻しただけでプラスにはできていない。


 いや、同じような回避をさせてはくれないだろうから、術を一つ失ったという点でやはりマイナスか。追撃できなかったのが悔やまれる。“現実世界リアル“での祖父よりやはり身体性能スペックが高い。


 自分に有利な戦い方にもっていくところは変わっていないが、身体性能が高いせいで、容易に持ち込まれてしまう。厄介だ。


      だが楽しい。


 自然と口角が上がる。

あーあ、これは“ワイルド系女子“で済ませられないよねぇ。

っと、そろそろ腕の負担が大きい。

ああ、厄介だ♪



★☆★    ☆★☆


 ーーーしぶとい。こちらが圧倒的有利な状況にも関わらずによく粘る。

だが、


「これで終わりだぁっ!」


 再び鍔競り合いに持ち込み、弾き飛ばした先には大木が天を衝いている。

植田の流派に技はないが、自分が最も得意とする真っ向打ち落とし“雷刃らいじん“。力強く速い、シンプル故の強さがある。受けるつもりなら刀ごと、避けるにはこの一撃は速過ぎるはずだ。


 




     奏の姿が消えた。




 そして自身の首筋に刃が当てられていた。


「私の知るお祖父ちゃんならこの状態で負けを認めないなんてみっともない真似はしないと思うんだけど?」


 “奏“の刃が首に食い込もうともそのまま相打ちにもっていくことはできるかも知れなかった。だがそれで勝ったと胸を張って言えるかといえば否だ。

 ワシは殺さずに“奏“を倒すことはできなかったろう。そして“奏“はやってのけた。それが何よりも雄弁に彼我の差を表していた。


「……ワシの負けだ。だが答えろ!それだけの才を持っていながらなぜうちの流派を否定するっ!?」


 思った以上に泣きそうな声が出た。

それを聞いた“奏“は心底不思議そうに首を傾げる。


「なんのことを言っているの?私、うちの流派を嫌いになったことなんてないよ?こっちに来てからだって鍛練を怠ってないし」


 確かにそうだった。性能は落ちていたがキレはむしろ以前よりあったかもしれない。


「だっ、だがお前は自分が女だと…!」


「それは今でも変わってない。変わらない。私は女で、間違って男の体で生まれたんだ」


 ワシは何も言えず沈黙する。

やはり流派を継ぎたくないのではないかーーー。


「男じゃないと流派は継げないの?私はそれなりの成果を実践したと思うんだけど」


 ハッと顔を上げる。

確かにそうだった。ワシは“奏“に確かに倒されたのだ。


「……ワシはずっと悩んでおった。長きにわたって継いでこられたうちの流派だが、最早どこぞの小悪党を窘める以外に振るうことなどない。ワシの妻はのう、体が弱く娘、蛍子けいこを産んでからは一日起きれない日もあった。じゃが、後継ぎを残さねばという重みがあったのか2子を身篭り、母体の危険があるというのでワシは諦めようと言ったのだ。だが清はどうしても産むと言って聞かなかった。結果的には母子共に逝ってしもうた」


 今でも思い出せば自分自身の無力さに嫌気がさす。


「もういいではないかと思うた。再婚し、子を産ませてまで継がせるものでもあるまい、そう思ったのだ。何より、ワシには雪花ゆきか以外を嫁にする気が起きなかった。」


 そこまで言って“奏“に目をやればニマニマとこちらを見ていた。なんとなく腹が立って小突く。


「しかし蛍子も気に病んでおったのかのぅ。それなりに歳を経た頃に言いおったわ、「私が婿をとって男の子を産みます。お父さんはその子に流派を継がせるために身体を鈍らせないでください」とな。ワシは何度ももういいと言ったが蛍子は聞かなくてな。幸い静治せいじ君はいい青年じゃった。そして産まれたのが“奏“、お前じゃ。蛍子が約束を守ってくれたのはもちろんのこと、“奏“も一つ教えれば水を吸うようにものにしていってな。ワシは“奏“に伝えることが己の役目だったのだと思うた。じゃからか、“奏“にはなんとしてもと思い込んでしまい、“奏“の悩みにも耳を貸さず悪いことをした。許してくれ」



☆★☆    ★☆★


 目の前で頭を下げる祖父に息を呑む。厳格なイメージでそんなことをするとは思わなかった。そして過去の話を聞いて思う。祖母は生まれる前に亡くなっていて、話を聞いたことはなかった。写真で知るだけだった祖母を思い黙祷をして、祖父に話しかける。


「お祖父ちゃん、初代様が母子家庭だったって昔言ってたよね」


 今でもシングルマザーは大変だと思う。だが初代様の時代も苛酷だったろう。


「戦争のなかで兵器の開発が進んで技術が飛躍的に高まったように、“運体(身体の声を聞き、身体を動かすこと)“が戦って生きる中で磨かれてきたのも間違いないと思う」


 “奏“が何を言い出すのかわからないところがあるが祖父は頷く。


「でも多分うちの操体術は初代様がお母さんのために生み出したんじゃないかなぁ?」


 祖父が目を見開き、肩を掴んで揺さぶる。


「お祖父ちゃんはあまり身体に違和感がないようにして“この世界“に来たからわからないかもしれないけど、私はこのとおり、性別すら違うからね。重心の違いや身体の違和感がすごかったんだよ」


「考えてみればそうだろうな」


 祖父が顎に手を当てて頷く。


「だからこそ分かることも、逆にあったんだよ。お祖父ちゃんから教わって日課にしている型の訓練ね、もちろん技術的な意味合いもあったんだろうけど、本質は運体にあったんだよ。自分の身体を思う通りに動かすためにどうしたらいいかを掴むために。私はその意味を知ってから意識して鍛練をしました。お祖父ちゃんも鍛練を欠かしていないと見受けられますが、意識の分の差で運体の精度に差があります」


「それが勝敗の差に繋がったというわけか」

 祖父は再び驚ききって口が開いたままです。


「本当のところはわからないんですけどね。そうじゃないかな、そうだったらいいなって思うんです。お祖父ちゃん、流派の技は一子相伝ですけど、運体については教えてもいいと思うんです」


「何っ?」


「介護施設とか病院じゃ介護する人が身体を痛めてしまうことが多いと聞きます。運体について指導して、深層の力を使えたらもっと楽になると思うし、何より思うように身体が動かなくて悔しい思いをしているのってご年配の方々じゃないかなって。自分でできることが増えたら喜ばれるんじゃないかな。」


 それからいろんなことを話し合って、異郷の地で祖父とのあいだにあった溝が少しずつ埋まった。

思いもしなかったけどやっぱり“真実世界トゥルー“に来てよかったと思う。












 こんにちは。


 この流れは当初より考えていましたが、実際書いてみるとうまくいかなくてなかなか筆が進みませんでした。エタったんじゃないよ!


 とまれ結果的に一週空いてしまい、お待ちさせてしまったことは申し訳ありません。

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