不思議の国のアンジェ
「この焼き菓子はなかなかですわね。焼き加減や甘さの加減はまだまだですが紅茶と食べることを前提としてよく考えられているわ」
アンジェとクララの会話は専ら焼き菓子のことについてだった。どういうわけかアンジェはいつもより落ち着きがなくてクララの会話に合わせているようだったから、クララが余程お菓子を気に入ったのだろう。
いつまでもこうしているわけにもいかない。
私は一歩踏み出した。
□■□ アンジェ 視点 ■□■
「あら、もうこんな時間ね。ついつい長居してしまったわ」
クララ様がそんなことを急に言い出すと執事さんがやってくる。もうクララの荷物を持っている。
玄関まで案内をしてお見送りするようだ。
「またお越しくださいませ」
そんな声がしてしばらく後に執事さんが戻ってくる。
「お嬢様もそろそろ習い事の時間にございます」
へ?なんのこととばかりにしている私の荷物もすでに準備されていた。私もまた玄関まで案内され、
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
と声をかけられ送り出される……
ことはなかった。
玄関を開けてクララ様が入ってくる。
「どうでしたか?」
執事さんの声に私はアワアワしっぱなしである。
「うーん、やっぱりなりきりね。いろいろと粗が目立つわ」
クララ様はわかっているみたい。
「まぁ、立ち話もなんですので」
そう言って再びさっきの部屋へと戻る。
椅子を引いてくれるのは一緒だけど、今度は執事さんも席についた。
「まずは、内装ね。それっぽくしているけど見る人が見ればやはり分かるわ。もちろん貴方の格好もね」
「一週間じゃこれがギリギリですよ。それにお客さんは貴族の方じゃなくて庶民の方々ですよ」
ってあれ?
「クララ様、ちょっと待って!この執事さんとお知り合いなの??」
「はぁ?何行ってるのよ。リデルじゃない。こんな子が何人もいたら困るわよ」
はぁぁぁあああ?
「え?ちょっ??髪っ、髪の毛が縮んでる。」
ななな何を馬鹿なことを言ってるんだね?ちみぃ。
「それは私も気になってたわ。まさかこの茶番のために切ったりしたんじゃないわよね」
クララ様の声にわずかに険が篭っている。
「茶番はひどいなぁ」
そう言って頭に手をやると……
頭が帽子のようにとれて、ファサっと金の糸がこぼれ落ちた。
微かに汗をかいたのかいつもより色気がある。
「かつら?」
纏めて後ろに流しつつ、衿に入れていたらしい髪をかきだすといつものリデル……
じゃない。
「胸は?胸はどうしたの!?」
思わず胸元に手をやると
「んんっ」
と声が漏れて、そっぽを向いていた。
どうも敏感なところに触れてしまったらしい。
「布を巻いているから」
そうボソッと声がした。
近づいてよく見ればそれっぽい外見だが執事さんの服ではないようだった。
「はぁ、一体何をやっていますの?」
「「なんでもない」」
「ともかく、お嬢様扱いを楽しめるカフェ、ということでよろしいのかしら?」
そういうことだったんだねーあははー。
「私は執事のことは詳しくないので実際にやるとしたらクララの屋敷の執事さんに教育してもらってってことになるんだけど」
「正直に言ってこれで売りになるのかしら?って感じなのですけれど」
クララがそう言う。
「「クララ(様)にとっては不通でしょ」」
私とリデルの声が重なる。
「女性にとって大事なのは、まずは「お喋り」です。そして喉が渇いたときの飲み物と甘いもの。そして…特別扱い、そのすべてをここに置いてみた」
某海賊王風に言ってみたリデルであったがもちろんクララもアンジェも首を傾げるのみである。
「とは言え、アンジェの様子を見ていた限りちょっと手を加えた方が良さそうだけど。お菓子も砂糖を使うと高くなっちゃうし」
そう、今日出されたお菓子には、正確にはジャムとクリームには砂糖が使われていて美味しかった。が一般人に出すには料金が高すぎてしまうだろう。
「お茶事態は日頃私たちが飲むものよりほんのちょっと上質なものでいいと思う。ただいれ方はちゃんとした手続きが必要だけど」
「それでは赤字ではなくて?」
「稼ぐところは別でオプションをつけますよ」
「「オプション?」」
今度はクララ様と声が重なる。
「そう、名付けてお姫様セット。さっきまでのはお嬢様セットですので。アンジェ座って」
私は言われるままに椅子に座ると、リデルが側までやってきて片膝をつくと私の手をとって上目遣いで見上げてくる。
ドクドクと私の血流が早くなってきっと私の顔は真っ赤だろう。
私の手の甲に口づけると立ち上がって私の手を引いて壁の側へ連れて行かれる。
こんなところで何を?と思っていると私は優しく壁に背を向けるように誘導され、顔の横にトンっと音がしてままま真剣近にリデルの顔がガガガ。思わず俯いてしまった私の顎に滑らかな二本の指が触れてクイっと上に向けられる。はわわわわ。
ここここれってぇぇぇ
私は思わず目をつぶると予想していた感触は一向に訪れず、長い時間が経ったようなそうでないような。
突如フワッと体が浮き上がって不安定になる。
「きゃっ」
と声をあげてしまったが、目を開けて見ればリデルに抱き抱えられていて揺れることもなく安心する。
ってええぇえ何この状況だれか説明してぇぇえ
クララ達は知る由もないが、いわゆる「お姫様抱っこ」であった。
リデルの顔を見た私をリデルもまた見下ろしニコっと微笑んだ。
そこで私の意識は薄れていったのだが、
「これはアリですわ……。」
そんな声が聞こえた気がした。




