クララ視点 終幕
「クララ、あなたアンジェに何か無茶なこと言ったんじゃないでしょうね?」
唐突にそんなことを言われて、
「はぁ?」
と品のない返事をしてしまった。
「アンジェは普通の、市井の子なんだから、領主の娘に無茶を言われたら困るに決まってるじゃない。急に意識を失うなんて」
…自分が普通じゃないって自覚はあったのね。
「失礼なことを言わないでくださる?私アンジェのことは気に入っているの。嫌われるような真似なんかしませんわってなんでいきなり嬉しそうにするんですの!?」
突然目をキラキラさせながら私の手を両手で取り上下に振るリデル。
「うんうん、アンジェはいい娘なのよ。クララも分かってるじゃない!クッキーを食べる様子が小動物っぽかったりそれから…」
アンジェのかわいいところを上げ続けるリデル。
「あなた、なかなか面倒くさい性格だったのね」
思わずポロッと口をついてしまったのはそれがまごうことなく本音だったからでしょう。
はぁ、とため息をつきつつ言うべきことを言わないといけません。
「ありがとう、そのままアイディアを使えるわけじゃないけど参考になったわ。これだけのものを用意するのにそれなりにお金がかかったでしょう。かかった費用を教えてくださる?」
貴族の屋敷のものを真似ただけの内装とは言え、布地はそれなりにお金がかかるのだ。
私が言ったことを飲み込むのにわずかに時間をかけてリデルが言った。
「あ、いいのいいの。知り合いに相談したら快く手伝ってくれたから。椅子やテーブルはアンジェとお茶するのにまた使うし。……見返りにあの人達にもお嬢様ごっこしなきゃいけなくなったけど」
最後の方の呟きはよく聞こえなかったけれどリデルの目が暗くなっていました。本当に大丈夫なのかしら?
「ただの紅茶に価値をつけて儲けを出す、か。面白いわね」
今回のことで学んだことが口をついた。
それを聞いたリデルは正気に戻り、驚き、いつもの微かに笑むような表情に戻る。
「今回教えてもらったことはなかなかためになる内容だったわ。何かお礼をしたいのだけれど…」
本心からそう言うと、リデルは私をからかう時のちょっと小憎らしい表情で、
「私は何も。ただクララが学びとっただけ。それに……“友達“の相談に乗って、乗っかってちょっと遊んだだけでお礼なんてもらえないでしょ」
と言った。
“貴族たるもの感情を表情に出すべからず“
そう教えられてきた私に出来たのは顔を逸らすくらいで…。それもきっとこの娘にはきっと見られてしまったと確信する。
「…なんでアンジェは倒れたんだろう?一度医者に…」
そんな呟きが聞こえて思わず吹き出してしまった。リデルと一緒にいるときはとても“貴族の御令嬢“ではいられない。
それにどこか超然めいて見えたリデルの年相応な姿も新鮮だった。
ただの年頃の娘が二人。そんな関係は悪くなかった。そんな関係の同年代はこれまでいなかったから。できればアンジェともこんな風に出来たらと思うがあちらはもう少し時間が必要だろう。
とりあえず言わなければならないことが一つー。
「おとなしく寝かせて起きなさい。医者に運び込んだらまた倒れるわよ」
ーーーきっとまたあの抱え方をするんだろうから。不思議そうに首を傾げるリデルを前に笑いをこらえるのが大変だった。




