2-(7) 隙間にうごめく闇
窓の外が夜の帳に覆われた時間。前時代的な蝋燭だけが灯された部屋に、少女はいた。
「主」
少女にそう呼び掛けるのは、藍色の髪が美しい少年で、その左腕は人としてありえない方向に捻じ曲げられていた。
少女はそんな少年を見て、自分の膝を叩く。
「おいで」
肩から下を血でしとどに濡らした少年は、その言葉にどこかほっとしたように笑う。少女に近づきその足元に腰を下ろすと、座っている少女の膝にもたれかかる様に頭を乗せた。
少女は少年の頭を撫で、反対の手を血で濡れた肩に這わした。少女の腕が辿った所から血は薄れ、折れ曲がった腕が治っていく。
腕がきれいに治っても、少年は膝から顔を上げようとはしなかった。そればかりか、むしろ少女の腰に抱きつくようにして取り縋っている。
それは少年にとって母とも言うべき少女に対する親愛の行動だ。少女が自分を咎める事は無いと知っているからこその無防備さ。
少女も少年の頭を撫でるだけで何も言わない。下から見上げてくる少年に優しく微笑みかけるだけ。
そんな穏やかな空気をぶち壊したのは携帯端末の音だった。
無機質なその音に少年が眉をひそめる。明らかに不機嫌になる少年の頭を一撫でした少女は、困った顔をしながらも電話に出た。
「もしもし、大和兄?何か用って……ふうん、足止めねぇ」
電話の相手は少女と知己のようだった。
「何?私を疑っているの大和兄。足止めしてきた人間が志斗に似ていた?顔見てないって言ったのに断言しないでよ。大体、志斗は人形なんだから」
少女は少年に悪戯な笑みを見せて、その唇に人差し指をつける。『静かにしてて』。その合図に少年が頷くのを見て話に戻る。
「志斗がいくら元人間の人形だからって、それはちょっと横暴だよ」
自分の主が自分を庇う様な発言をするのに、少年は頭をあげ耳を澄ます。
かろうじて聞き取れたのは、『情報を教えてくれ』という言葉だった。
「ゴメンだけど、この情報はオフレコなんだよ。でも1つだけ、その足止めをした人物は敵でもないし『黄昏の悪魔』の仲間ではないよ。そこは断言してあげる」
楽しそうな少女に相手は呆れているようだ。ため息交じりの声が少女を咎めても、彼女はそんな事をものともしないで相手の追及をのらりくらりと口先だけでかわしていく。
結局、相手が諦めたようで電話は切られた。
少女は見上げてくる少年にくすりと笑う。
「大和兄達が早くあの子を助けてくれると良いね」
◆ ◇ ◆ ◇
闇は動き出していた。
学園都市内部、とある廃工場にうごめく影。彼らは所謂『魔法否定派』と呼ばれる者達だった。
そんな彼らのリーダー格は、奥に配置された椅子に腰掛けるスーツ姿の男。シルバーグレイの上質なスーツは、廃工場の中ではかなり目立つ。しかし、この場に集まる人々は彼に気づかない。それこそが彼の魔法。
彼の魔法は自分より目立つものに視線を集める事。それにより彼は自分を相手に認知させない。
彼を認知できるのは彼に許された者のみだ。
「今戻りました、ボス」
黙考するように目を閉じていた彼は自分に向けられた声に目蓋を上げた。
彼の前に立っていたのは1人の少女。小鳥遊優というつい最近組織に入った少女だ。
彼女はボスの前にある机に戦利品の入ったバッグをのせ、そのまま立ち去った。
彼女が愛想がないのはいつもの事だが、今日は何かが違う。持ち前の感の良さでそれに気づいたボスは、指で近くに控えていた人間を呼ぶとこう指示した。
「あの子はもう要らん。明日あたりにでも始末しておけ」
「よろしいので?彼女はお気に入りなのでは」
「生気に満ち溢れた小娘に興味はない。誰に何を言われたか知らんが、私に向けてあんな目を向けてくるなど」
「分かりました。では彼女は『黄昏の悪魔』最初の、生身の被害者にしておきます」
「あぁ、それがいい」
ボスが頷いたのを見て、その側近は早速新たな“狩り”の準備に向かった。
ちょっと時期が空きました。最新話更新です。
今回は3人称で続いてます。どちらかというと2-(6.5)的な感じですが。
ここから物語が加速していきます。ごまかされる大和兄、命を狙われるヒロイン。
今後もよろしくお願いします。
ちょっと忙しかったのに余裕が出来たので、次回は結構早くあがると思います。
来週は予定があるので、更新の予定はまだ分かりません。分かり次第、活動報告に載せますので、ご確認ください。
誤字・脱字・感想 お待ちしてます。




