2-(5) 可愛らしい情報屋の物騒な笑顔 side九谷
九谷瑞希視点。
まさか、大和がブラッディ・マリオネットと知り合いだったとは。
僕は帰りの準備をしながら思考に耽っていた。考えるのは、明日情報屋に聞くべき事。
大和の様子だと度し難い性格をしている訳ではないと思うけど、順序良く簡潔に質問されたほうが相手も気分が良いだろう。そう思ってさっきから考えているのだが、なかなかに思考がまとまらない。やはり、あの衝撃の告白から未だに気持ちが立ち直っていないのかもしれない。
僕はうーんと唸りながら帰路についた。
◆ ◇ ◆ ◇
次の日、授業が終わると大和の呼んだリムジンに乗り込んだ。
「ちょっと寄りたい所があるんですがいいですか?」
「構わないよ」
振り返って聞いてくる大和に笑って返す。他の2人は頷いたようだ。
寡黙な智也が頷くだけで終わらせるのは珍しくないけど、南は珍しいと思って視線を移したら見事に固まっていた。
僕や智也は何回かリムジンに乗せてもらった事があるけれど、南は初めてだったから車内の高級感溢れる雰囲気に気後れしているみたいで、普段のフランクさが欠片も無い。
大和が寄ったのは、可愛らしい洋菓子店だった。
入り口のテント(屋根のようなもの)は水色のパステルカラーで、白色の『Sora』という文字が浮き上がって見える。若い女性がたくさんいる中に大和が入っていくと、女性特有の高い声の悲鳴が上がった。
普段人目をあまり気にしない大和も、女性達の反応に少し顔を引きつらせている。
大和はここで、ケーキを買ったようだった。
寄り道は1箇所だけで、後はこのまま情報屋の元に向かうみたいだ。
車は市街区を抜けて郊外へと向かっていく。やがて見えてきたのは、映画の舞台になりそうなお屋敷だった。
精緻な文様の刻まれた門を通ると、広大な庭の中央には大きな噴水があり、その奥にレンガ造りの洋館が建っている。外にせり出した見事なアーチの下には、2人のメイドさんが立っていた。
入り口に横付けされた車から降り近づくと、2人は丁寧に頭を下げてくる。
「いらっしゃいませ、皆様。お待ちしておりました」
「こんにちは、夢路さん」
声を掛けてきた黒髪の艶やかな美人さんに挨拶する大和。彼女は夢路さんというらしい。
僕達も挨拶をすると、微笑んで招き入れてくれた。
食堂らしきシャンデリアの吊るされた広間で、机に並んで座る。夢路さんは大和から貰ったケーキの箱を持って厨房に姿を消した。
「うぅ、緊張します」
「大丈夫だよ南」
「だって、こんな大きなお屋敷見たこと無いですよ」
大和が宥めるが、僕も南の意見に賛成だ。体に余計な力が入ってるのが分かる。
インターネットの検索サイトで「宮殿」と検索すると出てきそうなこんなお屋敷で、緊張せずに平然としている大和が怖い。智也もいつもの無表情が固まりすぎて、もはや石像と化しているようだ。
しばらくすると、広間にノックの音が響いた。
返事を待つことなく扉が開かれ、入ってきたのは一人の少年。彼は扉の前で深々と礼をして口を開いた。
「主をお連れしました」
息を呑む。やっと噂の情報屋に対面だ。
しかし、退出した少年に連れられて入ってきたのは、見覚えのある人物だった。
胸元あたりまで伸ばした髪は内側に向けて螺旋をえがいていて、左右で濃さの違う紫の瞳はどこか遠くを見ているように見える、車椅子に座る少女。
前回見たときと、車椅子と杖の違いはあるが、そこにいたのは櫛灘瑠那ちゃんだった。
なぜ彼女がここに?
事情を求めるように大和を見れば、彼は席に座った瑠那ちゃんを掌を上に向けた手で指し示し、
「知ってると思いますけど、この子は櫛灘瑠那」
と紹介した。
そして、だからなんだと思わず目を眇めてしまった僕達に対し、もっと詳しく説明する。
「そして彼女こそが、『血塗れた人形使い』です。俺達は、瑠那に情報を聞きに来たんですよ」
その言葉に目を見開く。
緊張とか何もかもが吹っ飛んだ気がする。
僕達のそんな反応に、彼女は大和に視線を移した。
「言ってなかったの?」
「うん。教えないほうが面白そうだったから」
「最悪」
「照れるなぁ」
「褒めてないから」
ちょっとずれた会話をしつつ、僕達が立ち直るのを待っていてくれたようだ。
僕達が何とか事情を飲み込めたのを見計らって、会話を再開する。
「それで、あなた達が聞きに来たのは『黄昏の悪魔』の事ですね」
「そうだよ瑠那ちゃん。君が情報を持っていると聞いたんだ。……大和に」
問いかけに答えて、さっきの仕返しにジト目で大和を見る。大和はこたえた様子も無く微笑していた。ちょっとムカつく。
「それで、情報なのだけど……」
「待ってください」
僕の言葉をさえぎったのは大和だった。
「何?」
「その話はお茶を飲みながらしましょう。丁度お茶請けも来たところですし」
大和がそう言うと同時に、給仕用カートを押した夢路さんが入室してくる。
僕達の前に手早く紅茶とケーキが配膳された。僕達にはチョコレートの細工がきれいなショートケーキが、瑠那ちゃんには9つの小さなケーキが正方形になるように並べられたものが出される。
「ダイスケーキ」
小さな声に顔を上げる。瑠那ちゃんがケーキを見て目を輝かせていた。
「好きなの?」と聞いてみると、嬉々として説明してくれる。
曰く、ダイスケーキとは瑠那ちゃんに出されたケーキの商品名で、ここに来る前に寄ったあの『Sora』というお店の1番人気メニューだということ。お客さんが十数種類あるケーキから9つ好きなものを選んで作ってもらえること。あのお店は本場フランスで学んだシェフがやっていること。
他にも等々教えてもらったが、僕の記憶力だと追いつかないので割愛する。
1番良く分かったのは彼女が無類のお菓子好きであるということだ。
一通り喋り、ケーキを口にしたとこで、やっと本題に戻った。
瑠那ちゃんが背後に控えていた少年に指示を出すと、彼はどこからか持ってきた数枚の紙を僕に渡してくれる。
「それを見てもらえば分かると思いますけど、一応口でも良いますよ。質問があったらその都度お願いします」
「分かったよ」
瑠那ちゃんは僕の言葉に満足そうに頷き、まだ残っているケーキをフォークでつつきながらいう。
「まず、今日までに見つかった大破したサイボーグは4体です。今日も1体見つかりました。その全てが商業区の警備用のものです」
「全てが警備用?」
「はい、接客との掛け持ちをしていた固体もあったようですが、今のところ全て区内の警備システムとリンクしたものでした」
「続けて?」
「そして、全ての固体は人工脳と生命リアクターを奪われています」
「人工脳?」
「人工脳というのは、一般的に人工知能と呼ばれるものです。商業区で使われているサイボーグは工業科の試作品で、クローン技術を使って作った人工の脳に各々仕事にあった知識を記憶させたものです。生きているけど生きていない。人工知能の中でも微妙な分類に入るものです」
「では生命リアクターとは?」
「生命リアクターは、所謂サイボーグの心臓です。体を動かすエネルギーを作るための動力炉と言えば分かりますか?あまり詳しい事になると私も良く分かりませんけど……」
「いや、十分な説明だよ」
その他はほとんどこちらが掴んでいた情報と大差なかったが、奪われたものが分かっただけ来て良かったと思う。
最後に、こんな事を聞いてみた。
「犯人は、人口脳と生命リアクターを奪って何がしたいんだと思う?」
あまり答えを期待した質問じゃなかったが、彼女はうっすらと笑ってこう答えた。
「常識的に考えれば、こちらの警備システムが少しでもゆるくなるようにする為と答えます。ですが、“人工脳を持ち去った”ということから私はさらに邪推します。そう、例えば持ち去った人工脳を使って、商業区と同じレベルの戦闘用サイボーグを作るとか」
目が笑っていない瑠那ちゃんは、まるですでに知っている事実を言うかのように断言した。
今回は九谷先輩視点でした。
この話は最初、いつも通り瑠那の視点でやろうと思っていたのですが、瑠那の視点だと説明しにくい所があったので、九谷先輩に犠牲になっていただきました。
この話の瑠那は最後の方ちょっと悪役みたいですよね。自分で書いて笑いました。
次回はなるべく早く投稿したいと思います。
そいえば、読者の方に一つ質問が。
キャラクターの紹介とかっていりますかねぇ?
ぜひご意見をお寄せください。
超フランクに「ほしい~!」って書くだけでも良いですから。どうぞよしなに。
では、また次回で。
誤字・脱字・感想 お待ちしてます。




