1-(11) 美しくても攻略できないキャラはいる
2つ目のイベントは、2時限目の後の放課。
ヒロインは、どこかに電話を掛けていた。
「えぇ、大丈夫です。うまくやってます」
電話の相手はボスだ。名前がボスと言うわけではない。ヒロインは、魔法否定派の組織から送り込まれたエージェントなのだ。
彼女には妹がいて、5年前飛行機事故でその妹が脳死判定を下された。同じ事故で両親も亡くした彼女には妹の入院費を払う当ても無く、途方にくれていたところに、彼女の魔法に目をつけた組織からコンタクトがあったのだ。
以来彼女は、妹の入院費と引き換えに組織の仕事に従事している。
とまぁ、そんな裏情報は置いといて、彼女は組織のボスと話し込んでいた。
後ろから近づく人影に気づかずに。
「あの」
怪訝そうな声とともに肩に手を置かれたヒロインは、小さな悲鳴を上げて飛び退った。相手を確認して一瞬だけ驚いた顔を見せた後、滑らかな動作で電話を切り顔に困惑を滲ませる。
プロもビックリな、自然な取り繕い方だった。
「なんでしょう」
少し不思議そうな雰囲気をトッピングした声音に、彼女の肩を叩いた少年は首を振る。
「特に用事があるわけではないけど、そんな所で電話するのはあまり感心できないよ」
言い聞かせるようにそう言ったのは、三海南だった。
生徒会の仕事の途中なのか、資料を抱える彼は表面上穏やかな顔をしていたが、その瞳にはわずかな警戒がのぞいている。
ヒロインもそれに気づいただろうが、彼女は冷や汗を流しながらも気丈に演技を続けた。
「ごめんなさい。次気をつけます」
ヒロインはそう言うと、呼び止められる前にとでも言うかのように駆け足でその場を去っていく。
その背中を、三海くんが冷ややかに見つめていた。
これが、2つ目のイベント。三海南はゲームの初め、ヒロインに良い感情を持たない。まぁこれが、学園を一つの危機から救うのだけど。
◆ ◇ ◆ ◇
3つ目は昼放課。
ヒロインは、春日井ちゃんと人気の無い校舎裏で食事を取っていた。あまり乗り気じゃない春日井ちゃんをヒロインが少し強引に連れてきたのだ。
ヒロインと春日井ちゃんは2人で仲良くおしゃべりしながら食事をしていた。
と、そこに人が落ちてくる。
「きゅあぁっ?!」
訳も分からず悲鳴を上げるヒロイン。その隣で、春日井ちゃんは驚きのあまり固まっている。
そりゃそうだ。人が落ちてきたのは彼女達から50cmほどしか離れていない所なのだ。
「うおっ、わるい!」
落ちてきた彼も、その緑の瞳を見開いて驚いていた。こんな所に人がいるとは思わなかったのだろう。
少し長めの灰色の髪を括った彼の名は、千葉豪純。攻略対象の一人で、他のキャラクターと違って教師だ。年は20歳。この学園のOBで、特待生の監督教師である。
彼がなんで上から落下してきたかというと、それはとある人物から逃げてきたからだったりする。
普段は屈託の無い性格で人付き合いのうまい彼だが、そんな彼にも唯一苦手な人がいるのだ。
それは、
「おや、千葉くん。顔を見るなり逃げるとは悲しい事をしますね」
千葉先生が飛び出してきた窓から、微笑みながら降りてくる美丈夫。
仙道満十。青灰色の長髪を翻す彼は、この学校の保険医。『保健室の麗人』と呼ばれていて、高校時代やんちゃだった千葉先生を時に優しく、時に力ずくで押さえ込んだ人だ。そのせいか、千葉先生はもはやアレルギーかと思うほど、仙道先生に対して拒否反応を起こす。
いったい学生時代に何があったんだか。
「う、仙道先生」
「まったく悲しい限りですよ。昔から窓を移動手段に使わないよう言い含めたでしょう?可愛らしいお嬢さんたちの心臓に負担を掛けるなんて……」
ジリッと下がる千葉先生と、ため息をつきながら頬に手を当てる仙道先生。
「驚かせてすみませんでしたね。お怪我はありませんか?」
仙道先生は、ひとまず千葉先生より生徒を優先する事にしたらしく、くるりと向きを変えてヒロイン達の前に膝をつく。
手を取って聞く仙道先生に、ヒロインは顔を真っ赤にして首を振る。
おーい、しっかりしろヒロイン。仙道先生は攻略対象じゃないぞー。
そう、攻略対象たちに負けず劣らずな美貌を持つ仙道先生だが、実は彼は攻略できない。かつて、ゲームサイトで攻略する方法があるのではと議論され、ゲーム会社にたくさんの苦情があったことは、私も良く覚えていた。
とまぁ、攻略対象ではない仙道先生だが、彼は『天然タラシ』という特殊能力を持っている。
要は、無意識に相手に気を持たせるのがうまいのだ。ちなみに彼のは魅了系の魔法ではなく生来のもの。
仙道先生がまたもや無意識に相手を誑かしていると気づいたのか、逃げようとしていた千葉先生から声がかかる。
て、おい。何生徒犠牲に助かろうとしてんの、このヘタレ教師。
「あっと、君達。さっきはごめんなぁ。……謝りついでに、できれば今すぐここから避難して欲しいんだが」
千葉先生の声に正気に戻った春日井ちゃんが、未だ熟れたりんごみたいになっているヒロインの手を掴むと、少々強引にその場から引っ張っていった。
大和兄のイベントのときも思ったけど、春日井ちゃんの危機察知能力って意外と強いよね。
二人が見えなくなると、仙道先生はいい笑顔で振り向いた。
「さて、では始めましょうか。あぁ、そんな怖い顔をしないでください。これはちょっとした教育的指導ですよ」
「……こんな指導いらねぇよ」
心底いやそうな顔をする千葉先生と、ちょっと温度の下がったアルカイックスマイルの仙道先生が、会話の後同時に動き出した。
いやぁ、すごかった。私は絶対に仙道先生を怒らせないようにしよう。
ヒロイン、魔法否定派の組織の人間だったんですね。
そんなの小説を始める前に書いた設定集には載ってなかった(おいっ
予想外が起きすぎる。大体この小説、プロットなしの見切り発車なのに……
誰か助けて~(ToT)
さて今回。
設定にはなかったはずのヒロイン妹が出てきたり、友好的なはずの攻略対象がヒロインに非友好的だったり、いきなり上から人が落ちてきたり、それを追って保健室の麗人が飛び降りてきたりしました。
が、一番のオリジナル要素は、乙女ゲームのヒロインが悪役サイドにいる事です。
まぁ、作者の「これ、こうすると面白いんじゃね?」という一言で変わってしまったゆえのオリジナル要素です。
作者は基本的に何も考えていません。「最終的に筋が通ってればいいでしょ」程度の考えしかありません。
というか、計画通りに物事を進めるのを苦手としている作者にとって、プロットは苦痛です。回転率の低い脳が破裂しそうなほど苦痛です。
……何の話してましたっけ?なんかどんどん話がずれていったような。
ま、まぁそんなわけで次回!
もう1人攻略対象出して、話を次にすすめたいと思います。
中等部の彼は後回しで。
では次回お会いしましょう。
誤字・脱字・感想お待ちしてます!!




