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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
2章 夏休み編

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33 執事とメイドのプライベートビーチ

 あのハプニングだらけのヴィラという印象的な始まりだったバカンスも、気がつけばあっという間に過ぎ去っていった。


 そもそも今回のバカンスは「家族の時間を過ごしたい」という旦那様のご意向により大半を月若家で過ごしていた。


 ――その結果今日に至るまでの間、華凛の機嫌はすこぶる悪かった。もちろん理由は大和に会えなかったから。


「本当につまんないバカンス。大和には最初のヴィラでしか会えなかったし、パパの計画のせいで完全にすれ違いばっかりじゃない」

「これからお会いできるのですから、よろしいじゃないですか。……このバカンスの締めくくりは、プライベートビーチでの合同パーティですよ?」

「そうだけど……そうなんだけどさ! もっと大和と二人っきりがよかった」

「まぁ、そうおっしゃらずに。月若と日ノ内の両家合同でのパーティなんて、今回が初めての試みなのですから」

「どうでもいいわそんなの!」


 ――と、二時間前の機内ではこの世の終わりのように荒れていた華凛だったが。




「大和! これから当然、海行くよね!? 水着着るわよね!? この前一緒に買いに行ったやつ!」

「うーん――。それ、着ないとダメ?」


 相変わらずの現金な主人を横目に悠斗はそっとお供の荷物を下ろした。


 背後から重みのある声に肩を叩かれた。


「悠斗、ちょっといいか」

「どうされましたか、旦那様?」

「急遽、月若と日ノ内入れた五つで会議が入ってしまってた。……パーティの設営自体は妻たちが張り切っているから任せておけばいいかな。子供たちのことは、お前に頼みたい」


 旦那様は、大和とはしゃぐ華凛の姿を遠目に見つめ、困ったように目を細めた。


「かなり溜まっているだろあれ?」

「はいそれはもうたっぷりと。機内でも呪詛を吐いておりました」

「そうか……。パーティで爆破されても困るからよろしく頼む。あとであいつと合流する」


 旦那様は信頼を込めて悠斗の肩をもう一度叩くと、足早にホテルに入っていった。


「お嬢様、大和様。旦那様から、パーティの時間までビーチに行ってみてはと勧められましたが、いかがなさいますか?」

「え、行く行く! 今すぐ海に行くわよ! ほら大和、言い訳してないで着替える!」

「おじさんがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えようかな」


 楽しそうにはしゃぎながらホテルに入っていく二人と入れ代わりで、電話を持ったメイド服の女子がこちらにまでやってきた。


「お久しぶりです、富士見さん」

「……あの日以来ですね、星原さん。やはり、お嬢様は……」


 瑠衣はホテルのエントランスへと消えていった華凛の背中を遠目に見つめ、少しだけ心配そうに眉を下げた。


「そうですね。まぁ、大和様の水着姿を見ればすぐに落ち着くと思いますよ」

「左様ですか。ふふ、なら安心ですね。では、お二人のことをお見送りしたら、わたしたちも――」

「――ほら、行きますよ? 富士見さん」

「え……?」

「海、行きましょ」


 思わずといった風に、瑠衣がパチクリと大きな目を瞬かせた。


「お嬢様ー! 富士見さんのことお願いしてもいいですかー? 私は荷物を運んでから向かいます」


 悠斗の大声に華凛が気づくと、こちらにダッシュでやってきて無理やり引っ張っていった。


 ◇


 悠斗が遅れてビーチに行くと、華凛と大和がノリノリで自撮りをしていた。


「お嬢様、大和様。お待たせいたしました」

「あ、悠斗! 遅い! って、あんた何……? 前より大きくなった?」


 華凛はスマホを持ったまま若干引き気味な様子で見てくる。

 悠斗は海パン姿で、上半身は裸。シックスパックに無駄な肉もついていないのは、もはや彫刻の領域だ。


「当然です。お嬢様をお守りする身ですから、最低限の鍛錬は怠っておりません」

「別にあんたは執事であってボディーガードではないんだけど……」


 もしものことがあったら真っ先に守るのは自分だ。華凛に仕える立場としてはいつでも対応できるようにしておきたいものなのだ。


「いやぁーこれだから水着なりたくないんだよね。僕細いし」


 大和が自分の細い腕をさすりながら苦笑いする。ジャージを上に羽織ってもその細さはラインで分かってしまう。それは悠斗の隣に並べば猶更引き立つ。


「何言ってるの大和! 大和は今のスマートな感じが一番かっこいいんだから、そのままでいいのよ。あんな筋肉ゴリラが悪いのよ」

「いくらなんでも言い過ぎだよー華凛……。ごめんね悠斗くんも」

「いえ、大丈夫です」


 悠斗はいつものように完璧な微笑みを崩さない。どんな罵倒を浴びせられようが、主人の言葉をすべて受け流すのが執事の基本だ。というか、慣れた。


「――って、そんなことはどうでもいいのよ!」


 ふん、と鼻を鳴らした華凛は、腰に手を当てて悠斗に詰め寄る。


「てか、主人の水着の感想を言いなさいよ! どうなのよ、私は!」


 華凛はわざとらしく品を作って、自身の水着姿をこちらに見せつけてくる。

 この黒のオフショルダービキニは、テストのご褒美で大和に選んでもらったものだろう。

 ここで適当な感想を言うことはできない。


「いいですね、可愛らしいです。大和様の服装とお揃いって感じがします」

「えっ……」


 華凛が動きを止め、自分の黒い水着と、大和が上からはおっている黒いジャージを見比べた。


「な、なによそれ……! そんなラブラブなんてぇ!」


 華凛は一気にご機嫌モードになって大和の腕に抱きついた。悠斗としては全く言ってない言葉を脳内変換されたが、都合よい方向へ転がってくれて助かったと心の底から思っていた。


 満足げに喜ぶ主の顔を見ていると、ふと顔が邪悪な笑みを浮かべていることに気づく。

 何事かと振り返るとそこにはクーラーボックスとパラソルを重そうに運ぶ、瑠衣の姿があった。


 気づいたときには悠斗はすでに走っており瑠衣の方へと体が動いていた。


「大丈夫ですか、富士見さん」

「すみません星――」


 悠斗を見た途端、瑠衣の体から持っていた荷物がガタガタと落ちてしまう。

 顔を真っ赤にしたまま、瑠衣は自分の足元に落ちた荷物と悠斗の肉体を交互に見て硬直している。


「あーあ、ちょっと悠斗ぉ! あんた何やってんのよ!」

「私は何も……」


 その様子を後ろから見ていた華凛が、ここぞとばかりに意地の悪い笑みを浮かべてトコトコと歩み寄ってきた。


「せっかくるいるいが重い荷物持ってきてくれたのに、あんたがそんな破廉恥な格好で急に近づくから、るいるいが真っ赤じゃない!」

「いや、私はただ、重そうだったので手伝おうと……」

「言い訳は見苦しいわよ筋肉ゴリラ! ねえ、るいるい大丈夫? うちのゴリラ目の毒だったでしょ?」


 面白がってさらに煽る華凛に、瑠衣はもはや言葉にもならない声を上げ、顔から湯気が出そうなほどに真っ赤になっていた。このままでは本当に倒れかねない、そう判断した悠斗は瑠衣を持ち上げた。


「水分不足ですかね? 私が運ぶのでお嬢様レジャーシートとパラソルをお願いしてもよろしいですか」

「いいけどジャージを羽織ってよ、ないの?」

「はい、邪魔です!」

「あー……。うんわかった。ごめんねるいるい、もう少し我慢して。あとで悠斗のことしばいていいから」


 華凛は半ば呆れたようにため息をつくと、観念してレジャーシートとパラソルを抱えた。大和は落ちたクーラーボックスを抱えると後ろから華凛に声をかけた。


「普通逆だよね、そう思わない華凛?」

「やっぱりそうよね。水着の女の子を見て、こう、鼻の下を伸ばすっていうか。それなのにあんたってやつは……」


 言わんとしていることは分かるが、悠斗にしてみればこの状態でそんな声をかけるのはいいもんかのかと迷ってしまう。


「……変ですかね? 星原さん?」


 バスタオルの隙間から覗く彼女の現在の水着は、清楚な白のハイネック。お世辞抜きにしても、彼女にとてもよく似合っていると悠斗は思っていた。


 そこへ、華凛からの追い打ちが降ってくる。


「ほら、欲しがってるわよ。るいるいも」


 からかうような主人の視線を浴びながら、悠斗はふっと小さく息を吐いた。


「綺麗ですね。彼女のパーソナルカラーとも合いますし、なにより、この青い海ともよく映えていると思います。骨格にも綺麗に沿った水着ですので、富士見さんにぴったりな物かと」


 腕の中の少女を真っ直ぐに見つめ、微塵の迷いもなく事実を告げる。


「うわぁ……何あれ、褒め方がなんか生々しぃ」

「でもあれは華凛の教育の賜物でしょ?」


 機嫌が悪い主人に好き放題言われながらも、悠斗たちはビーチの奥まで歩いて行った。



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