第14話 アシュフォード家への違和感
不遇な令嬢が前世の記憶を取り戻したとき、自分を幸せにする覚悟を決めた。記憶と接客技術を武器に踏み出した一歩は、やがて国も巻き込んでいく…。
不定期更新です。
ロベルトは悪い空気をかき消すように、両手をパンッと叩いた。
「まぁまぁ、食事でもしながら話そう。イリーネ、食事の用意を頼む。」
イリーネはメイドたちへの指示を止め、ロベルトに歩み寄った。
「はい。かしこまりました。お食事は何名様分、ご用意いたしますか?」
ロベルトに尋ねながら、イリーネはリノへ鋭い視線を向ける。
しかしロベルトは気づかない。
「姉さん、他に客を連れてきているのか?」
不思議そうにトランヴェール夫人に尋ねた。
「いいえ。こちらのメイドは客の人数までいちいち確認するのね。」
トランヴェール夫人は毅然と答えた。
そして、視線をヴィオラ夫人に向けた。
ヴィオラ夫人はイリーネを睨みつける。
「イリーネ、どういうつもり?」
イリーネは何も答えず、ただヴィオラ夫人を見つめ返した。
2人の間に、気まずい沈黙が流れる。
リノは黙ったまま、その様子を観察していた。
ートランヴェール夫人は読めない。何を考えているの…?
お義母様とイリーネは雇用主と従業員のはず。
だけど…、あの態度…、2人の間に何かありそう…。
クラリスが穏やかな声でヴィオラ夫人をなだめた。
「お母様、落ち着いて。らしくないわ。」
リノは、その言葉を聞き逃さなかった。
ークラリスはイリーネを庇うのね…。
ヴィオラ夫人は言葉を飲み込み、クラリスを複雑な表情で見つめる。
リノは無表情で、その様子を眺めていた。
ーもしかして…、お義母様はクラリスに遠慮している…?
「皆、長旅で少し疲れているようだ。悪いがイリーネ、6人分お願いできるかな。」
ロベルトはヘラヘラ笑いながら、困ったように言った。
リノの胸がざわつく。
一度芽生えた疑念は、消えそうにない。
ーこの家族への違和感だろうか。
トランヴェール夫人は眉を吊り上げ、ロベルトを見た。
ロベルトは居心地悪そうに視線を泳がせる。
そして、助けを求めるように執事に声をかけた。
「ジュール、皆を食堂へ案内してくれ。」
「かしこまりました。皆様、こちらへどうぞ。」
執事は穏やかな笑みを浮かべ、一行を食堂へ案内した。
ロベルトがトランヴェール夫人と談笑しながら先を歩く。
その後ろを、エノレアとイリーネが並んで歩いていた。
少し離れて、ヴィオラ夫人とセシリアが歩いている。
リノは、一番後ろから無表情のまま、その様子を眺めていた。
ー違和感…。
なぜ?
イリーネは、当然のようにクラリスの隣を歩いているの?
何かありそう…。
仕掛けてみれば、見えてくるかもしれない。
リノは目を細める。
視線の先では、クラリスとイリーネが親しげに話していた。
ヴィオラ夫人は、その二人を焦点のない瞳で見つめていた。
その隣で、セシリアがヴィオラ夫人の手を強く握りしめていた。
食堂に到着すると、執事は一礼する。
「ご用意いたしますので、私は一度失礼いたします。」
執事が退室する。
待機していたメイドが上座の椅子を引き、ロベルトが座る。
そしてメイドは、ロベルトから見て右側の椅子を引いた。
トランヴェール夫人が腰を下ろした。
イリーネは当然のように、トランヴェール夫人の隣の席をクラリスのために引いた。
「クラリス様、どうぞ。」
クラリスは、促されるまま席に向かう。
トランヴェール夫人が、それを遮るように声を上げた。
「ヴィオラは私の隣よ。」
イリーネの動きが止まる。
トランヴェール夫人は、イリーネを頭の先から足元までゆっくり眺めた。
「あなた、お名前は?」
「イリーネと申します。」
イリーネは怯むことなく、トランヴェール夫人の目をしっかりと見つめ返した。
クラリスは微笑みを浮かべながら、トランヴェール夫人の元に歩み寄る。
「叔母様。申し訳ありません。いつも叔母様ともっと親しくなりたいと話していたので…。」
トランヴェール夫人は静かな声で言い放った。
「侍女の立場を弁えなさい。クラリス、あなたもよ。」
「…わかりました。」
クラリスは伏し目がちに返事をした。
イリーネは、トランヴェール夫人に一礼をする。
そして、食堂を後にした。
ヴィオラ夫人は小さく呟く。
「イリーネはクラリスの専属メイドよ。」
静かな空間にヴィオラ夫人の声が響く。
何とも言えない空気が残った。
「とりあえず、座ろう。」
ロベルトは明るい声で言う。
ヴィオラ夫人はトランヴェール夫人の隣に座った。
2人の夫人の向かい側にクラリス、セシリア、リノが座った。




