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給仕令嬢は悪女  作者: 雨宮白雨


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プロローグ

不遇な令嬢が前世の記憶を取り戻したとき、自分を幸せにする覚悟を決めた。記憶と接客技術を武器に踏み出した一歩は、やがて国も巻き込んでいく…。


毎週日曜日更新です。

にぎやかな店内。あふれる笑顔。これが日常だ。


リノが働く店光風亭は身分に関係なく誰でもくつろげる。昔は決まった身分を持つものしか入ることが出来ず、周りからも疎まれていた。気品溢れるご夫婦も、いかつい騎士も、仕事がえり庶民も、同じ空間で食事をする。今はまだ不思議な光景だ。


「コーンスープです。少しだけ温くしておきました。」


リノはお客様と関わるとき必ず相手の空気をみる。

誰と食事するのか。

誰が召し上がるのか。


小さい男の子の前にスープをおく。満面の笑みでスープを見つめている。お母さんらしい人が目を丸くしリノを見る。


「ありがとうございます。」


はずんだ声で言われたお礼に、リノは笑顔で会釈をし爽やかに立ち去る。


ー食卓の前では誰もが心地よくてはならない。

リノの昔からの信条だ。


チリンと鈴が鳴り入口を向かうと、常連の若い男性と年配の女性が立っていた。

リノは眉をピクッと動かしたが、涼しい顔で席までご案内する。


「春野菜のリゾットがおすすめです。消化に優しいですよ。」


リノは意地悪そうな笑み浮かべながら若い男性の目を見て伝えた。若い男性はやれやれとした顔で2つ注文した。


急に少しだけ騒がしくなった。気品溢れるご夫婦が、ワインを飲みすぎたのか痴話喧嘩を始めた。ご婦人の高い声が店内に響き、ご主人はグラスを勢いよくテーブルに置く。周りのお客様は目線を泳がせながら、ご夫婦のテーブルに耳を澄ます。


リノは厨房にむかい料理長に伝える。そしてカウンターに戻りコーヒーを入れ、料理長が運んできたアイスクリームをご夫婦の席に運んだ。


「コースの口休めです。アイスが溶けないうちにお召し上がりください。」


にっこり笑い、アイスの器にコーヒーをかけた。ご婦人の声が歓声に変わった。ご主人は息をのみ、小さく息を吐く。そして、ご夫婦は同じタイミングでスプーンでアイスをすくい、口に運ぶ。自然と2人から笑みが溢れる。店内も一気に賑やかになる。


―所詮はくだらない言い争い。立派な紳士や淑女が人前でやることはないですよ。

リノは心の中で毒を吐く。


何者でもここではただの客だ。

存在していいのは心地よい空間だけ。


笑顔で寄り添い、注文を伺い、飲み物と料理を運ぶ。

だけど、確実に店の空気をコントロールしてる。


ご夫婦はいつの間にか談笑していた。男の子はスープを食べ終えていた。周りのお客様は微笑み、食事を口元に運び、談笑する。グラスを掲げて乾杯するお客様もいる。奇跡はいらない。ひとときの心地よさを提供するだけ。その記憶だけで未来が戦えるから。


リノは店内を見渡す。


ここは、もう⋯。

少なくともここではお客様を不快にさせない。


食事で生きる力を取り戻す場所。


帰り際に年配の女性は、リノに眉間にしわ寄せた後、愛おしい目で微笑む。

若い男性は目だけで笑う。


リノは扉が閉まるまで見送る。小さく息をついた。

新しい布巾でテーブルを拭き、次のお客様を迎える準備をする。

世界が変わっても、リノの仕事は変わらない。


ー今宵のひとときがお客様にとって未来の癒しになりますように

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