怒りと悔しさ
ショックだった。瀧本じゃないと分かっていた。いつもと違うと。なのになぜ自分がこんな格好になっているのかがわからない。分かっていながら瀧本だと信じ、思い込んでいた。
奏真は混乱したまま呟いた。
「ど……ゆうこと?」
「あれ……薬、切れてきちゃったのかな?」
クスリ? 薬って……?
意識は戻っているはずなのに、考えられない。手足は重いまま。まるで脳内の命令が神経回路の途中で遮断されているようだった。
奏真が戸惑っている間に、指が抜けて代わりに太いものが潜り込んできた。遠慮も躊躇も情けもなく、グイッと最奥まで一気に突き上げる。
「うっっあ!」
「んん……最高だよ……丁度いい締めつけ具合だ……」
「う……ぁ……」
ズルズルと引き抜き、また奥まで突き刺さる。
「あぐっ!」
「初めて見た時から、君としたかった」
混乱から立ち直れない奏真をよそに、玉木は容赦なく楽しみながら堪能する。奏真の両足を裂けるくらい大きく広げ、接合部分をうっとり見つめる。
「ほら、こんな小さく可憐なとこで、必死に咥えてる……いい眺めだよ」
「はっあぅ、あ、……ん、なん……で、は、なせっ」
悪態を吐こうとも、ずっしりと重い体は泥にはまったように動けない。
「ああ、すぐにイっちゃいそうだ。直樹くんも良かったけど……奏真君は本当にイイね」
「なお、って……はっ、あぐっ! う、ぅわっ! はぅっ……ンあッ!」
名前を出した途端、また奥まで挿入し敏感な箇所を強く執拗に擦られる。無理矢理なのに、奏真の体は与えられる全ての刺激を全部拾うように反応していた。
「はうぁ、あ、っはうっ、はっ、あ、あぅ、んんー!」
「イっていいよ……見ててあげるから。っ……ふふ……そうだね。一回イったら教えてあげるよ。直樹くんがどんなだったか……」
なんで、こんな奴と!
ゴウゴウと怒りが燃え上がるのに、奏真のは一向に萎えようとしない、ピクピクと武者震いすらし始める。影が覆いかぶさり、呼吸ができなくなった。衝撃と息苦しさに口が開いてしまう。ぬめった生き物が素早く入り込み、奏真の口内を蹂躙した。
噛み切ってやる! そう思っても力が入らない。流し込まれる唾液が口から溢れ出た。呼吸もままならなくて、奏真は必死で息を吸った。めちゃくちゃで目眩に襲われる。
く、苦しい、……助けて。
水の中のように篭った空間の中で、グワングワンと揺すられる脳。
苦しい。熱い。もうヤダ……。
「はうっ ンッ! んあああっっっ!」
勢いよく吐き出しガクガクと痙攣する身体。玉木は満足したように上半身を起こすとズルリと引き抜いた。奏真の体は重くてピクリとも動かない。
「バックの画も欲しいな……」
ボソと呟く声は奏真の耳には届かない。
体が簡単に引っくり返され、腰だけをグイッと引き上げられる。そしてまたガチガチのモノが抉るように侵入してくる。
「んわわああ!」
「ああ……いい……この眺め、いいねぇ……ものすごくそそる……」
突き刺さる異物に奏真の顔が歪んだ。腰を掴む両方の手が逃げる体を引き寄せ、さらに奥を突き、犯してくる。
「う! あっ! は、っはうっはう……っは、アグっっ!」
弱い箇所をズンズン刺激しながら、玉木がハァハァと熱い息を混じらせ言った。
「直樹君はっ……苦しんでたんだよ……だから、慰めてあげた……彼は……喜んでたよ?」
「うっっ、あうっ、うっ……そだ」
「嘘じゃないさ。その証拠に、彼は今も自分から、連絡してくる……して欲しくてね……可愛いだろ?」
「ちがっっ!」
「君が彼をっ……追い詰めた。……だろ?」
玉木の言葉に奏真はもう、なにも言えなかった。ただ喘ぎ、玉木のしたいように扱われる木偶人形になっていた。
玉木が奏真の中で放出し、ズルリと体から出て行く。
やっと終わった……。
されたことよりも、奏真真っ先に浮かんだ言葉はそれだった。ベッドに崩れ落ちたまま息を整える。
「ああ、ひとつ、教えてあげるよ。彼は聞いてしまったらしい。君が彼氏とアパートで、昼間からしてる声を」
っ!
「だから、余計に興味が沸いたんだろうね。そして君を好きだと自覚してしまったらしい。きっと彼は毎晩……君の声を思い出しながらひとりでしてるんじゃないかな?」
ビクッと肩が揺れ、体がジリジリと熱くなっていく。
羞恥なんかではなく怒りだった。しかし、その矛先が玉木なのか、自身に向けられたものなのかがわからない。握った拳の関節が白くなり震える。本当は掴みかかって殴ってやりたいのに動かない身体に奏真は歯をくいしばった。ジワッと目頭が熱くなる。
「大丈夫かい? 良かったらシャワー貸すよ?」
「っざけんな」
「あははは。思ったより元気そうだね。さすが慣れてるだけのことはある」
奏真はギュッとシーツを握りしめた。
いくら息巻いたり、噛み付いたりしたところで、起き上がることさえできない。木偶は木偶のままだ。
玉木は奏真を置いて寝室から出て行った。かすかに聞こえるシャワーの音。
なんでこんなところで転がってなきゃならない。早く帰りたい。
奏真はベッドの上を這うように動いた。
ほんとに情けない。こんなになってしまうなんて。もう俺の体は元に戻らないのか?
幾分も進めないうちに、バスローブ姿の玉木がペットボトルを持って戻ってきた。
「大丈夫かい? ほら、喉カラカラだろ? ちょっと水分を摂った方がいいよ」
何もなかったかのように優しい声が恐ろしいと思った。奏真が玉木を睨みつけると、今度は労わるように微笑んでくる。
「ちょっと待ってね。ヨイショと。はい。これで飲めるだろ?」
身体を支えられ、奏真はようやく座ることができた。触られるのも、支えられるのも嫌で、抵抗したかった。しかし実際喉はカラカラで、玉木にもたれ背中を支えられながら水をガブガブと喉へ流し込む。
座って初めて、視界に入ったゴムの袋の存在に気づいた。
一応付けてやってたのか。
奏真の視線を追ったのか、玉木が言った。
「ああ……もちろん、ちゃんとゴムはつけたよ? エチケットだからね。安心して」
「エチケットとかよく言えんな」
「ふふ。最低限のね? ……どう? もうそろそろ体も動くんじゃないかな? 立てそうかい?」
「立てるよ。こんなとこすぐに出てく」
まだ怠さの残る身体を腕で支え、奏真は四つん這いになり服をかき集めた。
「手伝おうか?」
「いらない!」
パンツとズボンを履きベルトを締める。するとさっきまでの憤怒や後悔、全ての感情がなぜかストンと落ちた。
奏真お得意の諦めのせいかもしれない。人生は思うようにいかないことばかり。嘆いても仕方ない。何度も絶望を味わった奏真に染み付いた生きる力だった。
奏真は玉木を振り返った。
「ねぇ……なんでこんなことすんですか」
「え? こんなことって?」
玉木はまるでなにもなかったかのように、ケロリとしている。
なんなんだこの人。わけがわからない。
「薬とか、……それに俺はこんなの望んでなかった。無理矢理でしょ。完全に犯罪じゃん」
玉木は腕を組んで、面白がっているような表情になった。
「奏真君って不思議だねぇ。やっぱりちょっと、他の子と違う。子供に見えるけど、随分大人だよね?」
奏真は目を細め、眉をひそめた。
「なに言ってんの?」
「普通はね? 体が動いたら、殴ってくるもんだよ? さっきまで怒ってたくせに……もう落ち着いちゃって……」
奏真は視線を上げ、玉木を睨むように見た。
「殴って欲しいんなら殴りますよ」
「……君とは、遊びじゃなくて、ちゃんと付き合ってみたいな」
「なにそれ、そんなんで俺を誤魔化せると思ってんの? 言うことを聞くとでも?」
玉木がまた微笑んだ。
本音の見えない笑みに、奏真は「はー」と溜息を付き言った。
「なんでもいいけど、もう直樹は来ませんよ。もちろん俺も」
「……そうかな? 奏真君が直樹君を止めるの? 行くなって?」
「当然でしょ」
玉木は「ふふ」と意味深に笑った。
「いいよ。どちらにしろ、二人の自由だ。……じゃあ、駅まで送っていくよ。夕飯を一緒に……は断られそうだし」
「結構です。自分で帰る。お邪魔しました」
「徒歩だと距離あるよ? タクシーを呼ぼうか? お金は出すから」
「あんたの世話になるつもりはないって言ってんですよ」
玉木は両手を上げて「はいはい」と苦笑いした。奏真は寝室からリビングへ戻り上着と鞄を持ち上げる。背後から玉木がしつこく声をかけた。
「直樹君によろしくね」
「もうあんたには関係のない人間です」
奏真は振り返らないで、部屋を出た。エレベーターまで大股で歩き、一階のボタンを押す。マンションを出て顔を上げ、もう見えない玉木の部屋を睨みつけた。




