第二章:学校
三日間の停学処分が終わり、奏真は教室へ向かって歩いている。
たった三日。それだけなのに、転校生にでもなった気分だった。妙な緊張感で居心地が悪い。擦れ違う同級生の顔も、見ることができない。
もともと奏真は他人の目を気にする性分ではない。他人は他人。自分は自分。今までだってどんな風に見られてもいいと思って生きてきた。
……なに今さらビビってんだよ。
奏真はギリギリと奥歯を噛み締め、自分を奮い立たせた。
Ⅱ-Aのプレートを見上げ鼻から息を吸い、扉に手をかける。ただの引き戸が分厚い壁に感じる。奏真はまばたきして息を止め、引き戸をガラガラと勢いよく開けた。ざわざわしていた空気がピタリと止む。
ほら、やっぱり。
奏真はクラスメイトの表情など見てはいない。それでも、視線が自分に向いているのは容易に感じ取れた。たった三日。しかも実際は濡れ衣だという事実が、一層奏真の悔しさを増幅させる。噴き上がり始めた感情を奏真はグッと押し殺した。
濡れ衣...…そうでもないか…...。だって俺はもう、本物になっちゃったから。
一番奥の窓際。後ろから三番目の自分の席へと向かう。前の席に座ってた酒井晋吾が振り返った。
「お、奏真、おはよぉ」
奏真はチラリと視線を上げた。晋吾は柔らかく微笑みニコニコしている。以前と変わらぬその笑顔に奏真は少し驚いた。
まだ声、かけてくれんだ…...。
そう思った時、横の席の藤枝瞭司が椅子ごとガガッと身体を寄せてきた。
「よお。久しぶり。災難だったね」
イヤミの欠片もない無垢な笑顔でコソッと言ってくる。一番前列に座ってる級長の椎野拓馬がチラリとこちらを見た。奏真と目が合うとやはりニッコリと微笑む。
この三人は以前より奏真と仲良くしていた面々だ。
みんないつもと同じ笑顔で奏真を迎えた。
こいつらは……変わらない?
「……うん」
心もとない返事が奏真の精一杯だった。ぎこちなく笑顔を作る。戸惑うばかりの奏真の元に、拓馬が席を立ち歩み寄ってきた。
「奏真、おはよ。はい。これやるよ」
ポンと目の前に差し出されたのは三日間分の授業をまとめたノートのコピーだった。拓馬の特徴的なクセのある字。でも、キッチリと見やすくポイントがまとめてある。拓馬らしさが滲み出たノートだった。
「ありがとう。……すっげー助かる」
「おう。テスト範囲だから、ちゃんとやっとけよ?」
片眉を上げ「ふふん」と笑う口元。頼りがいのある級長で、ノリのいいイケメンは健在だった。奏真の肩から力が抜ける。
なんだよ、普通じゃん。大丈夫なんじゃん。
奏真は心底ホッとした。
他のやつらが煙たがっても、こいつらがいてくれるなら……。
気分も解れて四人で話していると、教室の後ろの扉がガラガラと開いた。目を向けると、直樹の姿があった。