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第10話 樋口さんと夏休みの計画

 期末テストの結果なんて、一学期の成績なんて、見せたところで母さんに「普通ね」と冷たく言われ、父さんには「普通が一番だぞ」と優しく慰められる。

 細目でサモエドスマイル、声だけだと女子と勘違いしてしまうほど中性的な二階堂君は、定期テストの順位表を黙々と見ている。

「二階堂君はどうだったの?」

「樋口が同じクラスにいると平均が上がって困るなぁ、って感じ。一桁台の順位が厳しくなるね」

 ボクには分からない世界かも、二階堂君は順位表を鞄にしまい込んだ。

 樋口さんの席へ癖のように顔を向けると、樋口さんは紙にシャーペンを走らせていた。

 切りっぱなし黒髪ボブヘアでサイドを耳にかけている樋口さんの表情筋は相変わらず硬い。でも、無愛想じゃない、整った顔立ちだけでは説明がつかない、綺麗だと思わずにいられない雰囲気。なんでも吸い込みそうな漆黒の瞳は紙をひたすら見ている。

「樋口さん、明日から夏休みだね」

 声をかけると、樋口さんは手を止めて座ったままボクを見上げた。

「はい」

 ボクの内容に対して必要な返事だけをする。ちらっと紙を覗いてみた。うっすら透けて見えるのは、先生の筆圧により浮かぶ線。このクラスの平均点を引き上げる要因と言っていいのかな、ボクは眉を下げて紙から目を逸らす。

「樋口さんはなにか予定ってある?」

「これから計画を立てていきます。宿題とやりたいことのバランスを考え中です」

 計画、夏と言えば祭り、花火、プールとか海とか、あと色々。

 誘ってもいいのかな……誘いたいな、樋口さんと少しでも一緒にいたい。

 でも、口が重くなってしまう。軽々と夏祭りなんて言えなくて、樋口さんを見下ろしたまま身体が固まった。

「樋口って祭りとか海とか行かないの?」

 二階堂君が割り込むようにボクの横へ。

「どちらも楽しいものです。分かってしまっているので、あまり」

 どうやら、楽しいかどうか既に分かっていることには手を出さないみたい。

 二階堂君はボクの背中をトン、という感じに叩く。

「いやいや樋口、夏のイベントは仲のいい相手と行くとまた違う楽しさがあるらしいよ」

「違う、楽しさ?」

「そう、残念だけど俺もトラも分からないんだよね。実験も兼ねてさ、遊んでみてもいいんじゃない。それじゃまた二学期に」

 細い目をいつもより開けて樋口さんに提案した後、手を振って先に帰ってしまう。

「あ、その……樋口さん、一緒に、どう?」

 一体なにがどうなんだか、ボクの口はうまく誘えない。二階堂君がせっかく背中を押してくれたのに……。

 樋口さんは席から立ち上がる。

「はい」

 ボクの意味が分からない問いに、必要な返事だけ。伝わったかな。

「ほ、ホントに?」

「はい……計画を見直さないといけません」

「え」

 ボクは夏祭りに誘えるだけで十分だったのに、樋口さんは裏紙に使っていた答案用紙を畳んで鞄へ。

 樋口さんは何も言わず教室から出ていこうとしたので、ボクは急いで席から鞄を持って追いかける。

「なにかするの?」

 下駄箱で靴を履き替えて、いつもの通学路を並んで歩く。

 樋口さんはボクをちらり、と横目で覗く。

「確かめたいことがあるので、少し……明日の朝、庭にきてください」

「うん、分かった」

 二階堂君のおかげで、樋口さんと夏祭りに行けるチャンスがやってきた。高鳴る気持ちにボクの口元は自然と上がっていく。

 樋口さんは横目でなく、ボクに顔を向けて見上げる。

 漆黒の瞳がボクを吸い込もうとしてくる。

「どうしたの?」

「とても、嬉しそうですね」

「え、そ、そうかな?」

「……はい」

 樋口さんはそう小さく頷いて、前を向きなおした。

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