探索者
昨日の投稿が20時になってたのは完全なミスです・・
すみません
「懇願。ご主人様、血液をください」
遺跡のことをギルドに報告し、数日がたったある日。
俺はルリに、突拍子もなくそう言われ、思わず口に出してしまった。
「は?」
とても、間抜けな声を。
遺跡のことをギルドに報告し、ルリの冒険者登録を終わらせた俺たちは、2人でいくつかの依頼を受け、順調にこなしていた。
魔道具の威力はともかく、実戦経験の少ない俺1人では討伐できない魔物を、ルリの魔術の補助を受けて倒すことで、俺も多少は強くなったと思う。
彼女は、表情をピクリとも動かさないため、コミュニケーションは難しいが、それにも徐々に慣れ始めていた。
そんな生活の中、ルリは頼んできたのだ。
俺の血を寄越せと。
「お前、ヴァンパイアじゃなかったよな?」
「肯定。種族名「ヴァンパイア」とは、何の関係もありません」
彼女に対する2人称も、いつの間にかお前に変わっていた。
「じゃあなんで、血を求めるんだ?」
「解説。マギカロイドの動力源は、体に埋め込まれている魔石です。しかし、主がいる場合、その血液を摂取する方が、遥かに高効率なのです」
「効率が高い、ねぇ。どのくらい差があるんだ?」
「報告。まず、上級以上の魔術の使用が、1時間に1回に制限されます。また、連続活動可能時間が、10時間となります。これらの制限は、ご主人様の血液摂取により、完全に撤廃されます」
思ったより差があった。夢のエネルギーか、俺の血は。
「俺自身、魔力量が少ないし、俺の血液じゃその基準より低くなるんじゃないのか?」
「訂正。ご主人様の魔力量は、少なくありません。むしろ先程の報告は平均を上回っており、ご主人様の血液を得ることは、戦闘において大変なアドバンテージとなり得ます」
「いや、少ないだろ・・まあ、そこまで言うならいいが、最低限にしておけよ?」
「歓喜。それでは失礼します。ジュルリ」
「あ、おい待て!」
俺が止める間もなく、彼女の形の良い唇が、俺の首筋に当てられる。
チクリ、とした痛みの後、ルリの喉がコクリ、コクリと鳴る。
不覚にも、俺の肩にしがみついて、必死に喉を鳴らす彼女を、「可愛い」と思ってしまった。
「もういいだろ、離れろ」
「ぷはぁ・・感謝。大変美味でした」
恍惚とした表情を俺に向ける彼女。やっぱり吸血鬼と関係があるのではなかろうか。
それにしても、その顔でその表情は、いろいろと不味いからやめて欲しい。具体的には、鼻頭が熱くなる。
すでにいろいろ残念な感じが目立ち始めているが、美少女ではあるのだ。彼女は。
居心地が悪くなった俺は、意味もなく彼女を急かす。
「ほら行くぞ、次の依頼が待ってる」
ーーーーー
宿を後にして、ギルドに向かった俺は、いつも通りのやっかみの嵐を受けた。
「おうおう、美少女連れて昼前出勤たぁ、いいご身分だな! 探索者さんよ!」
「見ろよ、ルリちゃんの顔! ちょっと赤くねぇか!?」
「くぅ、許せねぇ! 遺跡を発見しても、中身を独占しなかったってのは感謝してるが、そういうところだけは許せねぇ!」
「さしずめあそこの1番のお宝はルリちゃんってことだろ!」
遺跡発見後、俺は中の財宝だのなんだのを大して漁らず、すぐにギルドに報告した。
結果として、冒険者たちは、財宝や資料を売り払った臨時報酬で、こんな昼間から飲んでるわけで、やっかみを受ける謂われはないはずなのだが。
ルリのことは、遺跡のなかで奇跡的に生存していた少女、ということにしてある。
黙っていれば彼女は美少女だし、冒険中も、町に居るときも、宿の部屋でさえも同じ俺たちは、下世話な話題の肴にされることが多いらしい。
まったく、俺がここに初めて入った時の、静かな印象はなんだったのだろうか。
「まあまあ飲もうぜ、探索者!」
「昨晩のこととか教えてくれよ、なぁ?」
「いや、今日は依頼受けにきただけだから」
「つれねぇなぁ!」
遺跡発見の功労から、俺はギルドで探索者と呼ばれるようになっていた。
こうやって飲みに誘われる辺り、別に嫌われているわけでもないらしい。
「なあなあ、ルリちゃんだけでもこっち来いよ!」
「おじさんたちがジュース奢ってやるぜ?」
「拒否。ご主人様の許可なく、施しは受けられません」
「ご 主 人 様だぁ!? おいコザトてめぇ、ちょっと裏へ来やがれ!」
「うっ・・尊い・・」
「ルリ様・・俺のこともご主人様と呼んでください・・」
「コザト死すべし、慈悲はない」
ここの冒険者、ダメかもしれない。
すっかりルリに骨抜きにされている彼らを尻目に、俺は依頼書を漁る。
「火山探索の緊急依頼?」
「はい。国からの緊急クエストです。4級以上の方限定ですので、コザトさんとルリさんは受けられますね」
遺跡内にレッサーヴァンパイアがおり、それを討伐したことは、奴の特徴的な牙を剥ぎ取って提出したことで、認められている。
本来3級以上の冒険者が相手して、勝てるかどうかという敵を倒したことにより、俺たちは、4級にスピード昇格したのだった。
「ルリ、これ受けたいんだが、いいか?」
「同意。ご主人様の御心のままに」
ルリの意思を、一応確認した俺は、遺跡調査の依頼を受けた。
というか、緊急クエストが出ているのに、ここで昼から飲んでいるこいつら、本当に冒険者として大丈夫なのだろうか。