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その道具箱に詰めるのは  作者: リア狂
転移編
13/22

瑠璃色の彼女

 俺のことを、ご主人様(マスター)と読んだのは、アルビノの白髪に、同じく色素の薄い肌、透き通るような、鮮やかな青色の瞳を持つ、小柄な少女だった。

 出血が激しく、視界がブラックアウトする寸前だった俺にも、彼女が相当な美人であることが察せられた。


「今、お怪我を治療します。『ハイ・ヒール』」


 彼女の手から放たれた光に包まれた俺は、あれほど酷かった痛みと、体の冷えが嘘のように収まり、活力が湧いてくるのを感じた。


「チッ、目覚めてしまいましたか! やはり人間の生き血が必要だったようですね! まあいいです。1度機能を停止させてから、僕の僕にしてあげましょう!」


 どうやら彼女こそが、ヴァンパイアの求める古代兵器だったらしい。

 確かに、神官が使うはずの「奇跡」を、神への祈りもなしに発動したのだから、兵器と呼ばれてもおかしくはない。


ご主人様(マスター)、これより敵生命体の討伐を開始します」

「ああ、一緒にやろう!」


 彼女は少し戸惑ったような雰囲気をしながらも、吸血鬼への攻撃を始めた。


 そこから先の戦闘は一転、ただの蹂躙であった。

 魔術兵器である少女は、全ての属性の中級魔術を使いこなすだけでなく、風に至っては上級以上と思われる攻撃を、無詠唱で使ってのけた。

 イメージ補完のため、術式名だけは口にしているものの、その発動スピードは桁違いだった。


「クソッ! 『野を焼き尽くす焔よ、彼方の敵を射し穿て! インシネレイト・シェル』」


 焦って周りが見えなくなってきたからだろうか。大量の紙があるここで、レッサーヴァンパイアは火の魔術を使い始めた。

 恐らく切り札だったのだろう、今までにないほどの威力だったが、少女の『ウェーリング・クッション』の一言で、その膨大な熱量は全て消え去った。


 全くやることがない。

 一緒に戦うなどと、少し出過ぎたことを言ってしまったようだ。

 ここで出ていったとしても、俺は足手まといだろう。


「こうなったら!」


 しかし、そんな俺でも接近戦ならできる。

 魔術戦では分が悪いとみた吸血鬼が、『アサルト・ブロウ』で少女に突貫してきた。

 俺はそれをチャンスと見て、すかさずバックラーを片手に2人の間に割り込み、エースを切る。


「『迫り来る仇を跳ね返せ! リフレクション』」


 遺跡に入る前に反射した、ヘルハウンドの火炎よりは高威力だが、焦って精彩を欠いた攻撃程度なら、十分に跳ね返せる。

 ドォン! と、先程の意趣返しの如く、奴を壁際まで吹き飛ばす。

 タイミングを見て、風の突きを合わせていたので、ノックバックしただけでなく、多少のダメージは与えられたはずだ。


 俺は魔力切れでその場に倒れるが、少女がきっちりと止めを指してくれる。


「『インシネレイト・シェル』」


 奴と同じ魔術、同じ威力、しかし周りには一切飛び火しない、神憑り的な魔力制御によって、レッサーヴァンパイアは消し炭となった。


ご主人様(マスター)、大丈夫ですか!? ご主人様(マスター)!?」


 倒れた俺に、美しい少女が駆け寄ってくる。

 その焦りようは、見た目相応で、先程の化け物じみた魔術行使をした者と、同一人物には思えなかった。


「大丈夫だ。魔力枯渇でね・・」

「すぐに横になれる場所を用意します! 『クリエイト・ウォーター』」


 ただの水滴を生み出す魔術で、彼女は人1人包み込める程のサイズの水の球体を作り出した。


「早く服を脱いで、この中に入ってください! クッションみたいになってるので! あ、ダイブも掛けますから!」

「ちょっと待とう、落ち着こう。俺が? ここで? 脱ぐの?」

「はい! そうしないとちゃんと休めないので!」

「いや、無理だから。初めて会った女の子の前で全裸とか、さすがに無理だから」

「しかし・・」


 興奮しているのか、声の端が弾む彼女は、今まで出会ってきた誰よりも可憐な美少女だった。

 すっきりとした目鼻立ちの下に、薄桃色の唇が控えめに存在を主張しており、パーツのバランスは美しい左右対称。

 人形よりも更に完成された、人間よりも人間らしいその美には、創った人物の執念すら感じられる。


 そんな彼女が俺に告げる。

 脱げ、と。

 無理に決まっている。恥ずかしすぎる。


「そんなことより」

ご主人様(マスター)の体調は「そんなこと」ではありません!」

「いや、大丈夫だから。えっと、俺はコザトって言うんだ。君は?」

「分かりました・・今は従います。私はマギカロイド識別番号R003。貴方の忠実なる道具です」


 ドキリ、とした。

 元の世界の常識からすると、自分を識別番号で呼ぶなど、異常なことだ。

 しかしどうだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 初めて出会った人物に忠誠を誓い、手足として、道具として自らの人生を使う。

 それはまるっきり、俺と同じだ。


 それを「異常」だと。

 俺はそう感じてしまった。それは俺の存在を俺自身が否定していることと同意だ。


「識別番号は、ダメだ。君のことは人の名で呼びたい」

「・・不思議なことを仰りますね。私に人と同じ名など与えられておりませんが?」

「それでもダメだ。無いなら俺が君に名前をつける」

「よろしいのですか? 私ごとき道具が人と同じように名を名乗るなど」

「むしろ名乗れ。今考えるから」


 彼女は、俺が共に戦うと言ったときのような、戸惑った表情を浮かべて、俺の次の言葉を待っていた。


「うん、R003だし、瑠璃とかどうだ?」

「ルリ・・不思議な響きですね」

「俺の故郷の言葉で、青い宝石のような色って意味なんだ。君の瞳の色みたいなね」


 我ながら良いネーミングだと思う。少し気障ったいが。


ご主人様(マスター)から頂いた名前・・大事にします!」

「まあ、喜んでくれたならよかったよ」


 まるで子犬のように懐いてくるルリ。俺はその態度に、少しだけ違和感を感じていた。


「なあ、ルリ」

「なんでしょうか?」

「その態度、素なのか?」

「と、言いますと?」

「いや、懐いてくれるのは嬉しいんだが、言葉の端々に違和感があってな・・」


 上手く言葉に言い表せないが、心の底からこういう態度をとっているように感じられないのだ。


「・・疑問。ご主人様(マスター)は、この口調がお気に召さなかったのだろうか」

「やっぱり素じゃなかったか・・」

「報告。創造主より、ご主人様(マスター)に親しみやすい態度を心掛けるようにと言われました」


 ルリは、一気に兵器らしいというか、人間らしからぬ口調になった。


「人らしい訳じゃないが、そっちの方が君らしくていい」

「了承、ご主人様(マスター)に従います」


 ヴァンパイア戦は非常に厳しいものだったが、彼女も一筋縄ではいかないようだった。

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