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聖なる怪物  作者: 髪槍夜昼
幕間
70/108

第七十話


『………』


それは美しい女だった。


ある任務を達成した帰りのことだった。


悪魔に襲われたと言う傷付いた女と遭遇した。


バジリオは、何か女に違和感を感じたが、シュバリエの者達は彼女を見捨てることが出来なかった。


丁度、任務を終えたこともあり、聖都まで護衛をすることになった。


『LA―――Ar―――』


女は自分のことを殆ど話さなかったが、よく歌を披露した。


心に響くようなその歌声に、シュバリエの者達は彼女を『歌姫』と呼んだ。


皆は彼女の容姿のみならず、その美声に魅了されていった。


一日が経ち、一人の男が妙なことを言いだした。


彼女にプロポーズをすると伝えに来たのだ。


その男はシュバリエの中でも若く、女性には眼が無い小僧だった。


そんなこともあるだろう、とバジリオは気にも留めなかった。


二日が経ち、三日が経ち、今度は喧嘩が起きた。


喧嘩など今まで何度もあったので、当初はそれほど気にしなかった。


喧嘩の原因は女の取り合いだった。


その女とは、例の歌姫だった。


流石におかしいと感じ始めた。


女好きの小僧はともかく、もう一人の男はそんなことを言いだすような者では無かったからだ。


自分のせいで争いが起きたことを気にしていないかと、歌姫に会いに行った。


彼女は何一つ気にすることなく、ただ微笑んでいた。


一週間が過ぎた。


おかしい。やはりおかしい。


もうシュバリエの半数の者が、歌姫の虜になっている。


あの歌だ。


あの歌声を聞く度に、おかしくなっていく。


コレは普通じゃない。


そう確信したバジリオは、遂に彼女を問い詰めた。


全て、遅すぎだ。


『あはは、ははははははは!』


女が笑う。


異形の翼を広げ、洗脳した男達を従えながら、嘲笑する。


シュバリエは、二つに割れた。


美しい魔女の為に戦う者達と、彼らを正気に戻そうと戦う者達。


バジリオの信じた仲間達が、騎士達が、互いに殺し合った。


女はそれを、ただ笑って見ているだけだった。


その気になれば一分も掛からずに皆殺しに出来るだろうに。


出会った瞬間に殺すのは容易かったろうに。


ただこの光景を、この地獄を作る為だけに、一週間も待ち続けたのだ。


『…悪魔、だ』


それ以外に何と呼ぶ。


喰う為に殺すのでは無い。脅威だから殺すのではない。


ただ、殺す為だけに殺すのだ。


『バジリオさん! 早く行って下さい!』


『この悪魔は強い! このままでは全滅する! だからせめてお前だけでも…!』


『俺達の代わりなんて幾らでもいる。お前が生き残って、また新しいシュバリエを作ってくれ…!』


残った仲間達はそう言って、バジリオの盾となった。


彼らの思いを無駄にしない為、バジリオは逃げた。


逃げるバジリオを、悪魔は追わなかった。


ただ愉しそうに、笑い続けるだけだった。


『…ッ!』


この屈辱を、この絶望を、覚えておこう。


十年経とうと、百年経とうと、


いつか必ず、仇を討つ。








天罰の章(ネメジス)。第一節展開…」


呟く言葉と共に、セシールの指先から弱い光が放たれる。


「よ、よし、出来たぞ! バジリオ!」


バチバチと小さな火花が散る。


天罰の章(ネメジス)の基本中の基本。


第一節『聖光』だ。


「………」


「…バジリオ! 聞いているのか!」


「…え? あ、ああ。そうか、成功したのか」


法術の指導者としてぼんやりと様子を見守っていたバジリオは我に返った。


どこか上の空に見えるバジリオに、セシールは眉を顰める。


「お前、寝ていたんじゃないだろうな」


「…違う。少し、昔のことを思い出していただけだよ」


「昔?」


セシールはいつもと雰囲気が違うバジリオを見て、首を傾げる。


普段の自信家で偉そうな態度はどこへ行ったのか、何やら不安そうな顔をしている。


無意識の内か、その手は首にかけられた形見の銀貨を撫でていた。


「そう言えば、お前は悪法を使えるようになったらしいな」


「…あまり嬉しいことでは無いがな。使う度に、悪魔に近付いているような気がする」


マナを護る為なら、目的を果たす為なら、手段は選ばないと決めた。


だが、この力は本当に手を出して良い物だったのかと悩むこともある。


使い続ける内に精神が悪魔に近付き、身も心も完全に悪魔になってしまうのではないか。


「その力を人の為に使う内は、お前は人間だろうよ」


「…そう、か?」


「そうだ。悪魔ってのは、快楽の為だけに力を振るう者のことを言う。誰かを害する為ではなく、誰かを癒す為に力を使ったお前は、紛れもない人間だ」


「………」


普段より優しい言葉を言うバジリオをセシールは驚いたように見つめる。


似合わないことを口走った自覚はあったのか、バジリオは少し気まずそうに頬を掻いた。


「…この先、お前は色々な悪魔と出会うだろう。戦うなとは、もう言わない」


無謀でも、無茶でも、セシールは戦うだろう。


それを止めることは、バジリオには出来ない。


「だが死ぬな」


「…え?」


「…面倒を見た者が、自分より若い者が、僕より先に死ぬのは………もううんざりなんだ」


深い悲しみが込められた言葉だった。


その首にかけられた形見の分だけ、バジリオは死を見送ってきた。


昔のことを思い出したからだろう。


それとセシールが重なったのは…


「………」


返事は求めていなかったのだろう、バジリオは何も言わずその場を立ち去ったのだった。

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