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第44話 事態は思わぬことで急転します

「対象を発見!」


 第一の報告に、男たちが一斉にある男へと振り向く。


「術式を展開、捕縛せよ」

「……〈墓の庭〉ですよ?」

「構わん、暴れるのは向こうだ」


 男は――警邏隊長ユイゲンは、きっぱりとそう言い切る。

 隊員たちは急ぎ準備を進めた。


 ***


 うぅ、ふ、と低く声を上げる主を抱え、シェルは〈墓の庭〉、木立の中を駆けていく。

 追って来るは不可視の存在、〈食らうもの〉だ。


 ――襲撃があまりに多くないか?


 〈食らうもの〉を避けながら、シェルはそんな疑問を抱いている。


 たしかに彼の主は、〈以下位〉と呼ぶほど魔力が低い。シェルが右腕を与え、また互いの相性が異常なほど良かったために、ぎりぎり契約を結べたにすぎない。

 だが、それにしてもこの頻度はおかしい。


 魔力の低い者を優先して狙うとはいえ、〈食らうもの〉を遠ざける〈宿りの石〉の配管に囲まれたこの街(シェヴァイエ)で、〈食らうもの〉の襲撃は街全体で年に十数回。それもごく小さいものばかりだ。

 河の下流に流れ着いた異世界の民でさえ、〈食らうもの〉と実際遭遇したことのない者が大半だろう。年々増えていく下流の人口が、それを物語っている。


 だが三日とおかぬこの頻度、執拗さ。まるで彼の主が、何者かに付け狙われているかのようだ。

 ――しかし、だとしたら何のために?


「……いらないこと考えるもんじゃないな」


 視界をよぎる影に、シェルは反動をつけて踏みとどまる。前方に〈食らうもの〉が二体。挟まれた――いや、囲まれた。頭上にすら奴らの気配がある。


「主、しっかり掴まってて!」


 〈墓の庭〉の木々は死者たちの、祖先の象徴とも言える。それを傷つけるような場で戦いたくはなかったが、彼にとって一番大事なのは、泣き濡れる主の無事だ。

 刃を抜いて腰を落とす。じわりじわりと近づいてくる〈食らうもの〉たちに、油断なく目を走らせながら、不意に違和感を抱く。


 〈食らうもの〉は時に複数現れる。

 だが、集団としての統率は低い。狩りをする人間のように、一個の群としては動かないはず――


 思い出すのは、先だっての誘拐のこと。

 あの時、閉じこめられた小屋の中で、〈食らうもの〉は追いつめるように人を取り囲んでいた。

 ――可能性がひらめいた時は、既に遅い。


 地を走る光が陣を描く。

 ひときわ太い光がバヂン、と弾ける。

 次の瞬間、シェルは自身の主もろとも、漆黒の闇に呑まれていた。


 ***


「ねぇルカ、シェルたちの帰り、遅くないかしら」

「昼までには戻るって話だったか」


 ロコンチェルキ家の屋敷で、ベルーシャとルカが言い交わす。

 昼食の時間はとうに過ぎ、先刻も料理長のスヴェンが、困惑したように確認に来た。

 〈墓の庭〉をもつ社は、街の少し外れだが、病み上がりでも徒歩で行ける程度に遠くない。シェルが毎月のように通っているのもあり、半日以上も時間をかけないと、屋敷の者は見知っている。


「リリに何かあったのかしら」

「あれも病み上がりだからなあ。どっかで休んでたっておかしかない」


 考え込む主従に、ノックの音が割り込む。


「当主様、お客様がおいでです」

「来客の予定はないはずだけど?」

「それが」


 使用人は一度言葉を切り、緊張の面持ちのまま続ける。


「警邏隊の方なのです。王命により用件があると」


 主従は揃って息を呑む。いよいよ梨々が、異世界から来たことが知られたのか。王命により召喚せよとのことなのか。

 王の命は官僚に伝わり、官僚の貴族から警邏隊に伝わる。つまりここに来た警邏隊の者に何を訴えても、届きはしないということだ。


「わかったわ、お通しして」


 硬い声でベルーシャが告げる。

 現れたのは副隊長を名乗る、印象の薄い男である。

 そして男の告げた言葉に、ベルーシャは非難と驚愕にくず折れ、ルカに支えられることになる。


「ロコンチェルキ家に王命でございます――

 本日、王家の宝物庫より盗まれたと思わしき〈天を切り裂く〉の確保、およびその契約者の逮捕を執行。

 契約者リリ・サトーは、王の宝物ほうもつと無断で契約した大罪人であるものの、未成年であることから保護監督者の意向を問い、追って処断を求めることを決定。

 ロコンチェルキ家は、リリ・サトーの事実上の保護監督者との由。よって、王命によりロコンチェルキ家当主、ベルーシャ・ロコンチェルキを召喚す――」


 要するに、子供の咎は大人が拭えってことですよ、と男は言った。


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