冒険者・商人・職人ギルド 「ギルドとギルドの関わりあい」
いよいよ最終回。
今回は、ギルド同士が互いにどんな影響を与えあっているのか考えていきます。
ズバリ、商人・職人ギルドと冒険者ギルドの関係についてです。
「冒険者ギルドにとっての利益」
冒険者がお金を得る方法は、依頼を達成することで手に入る報酬と、モンスターの素材を売却することです。
冒険者ギルドの勢力が弱かった頃、素材を売りにいっても安く買い叩かれることが多かったでしょう。ですが、団結して力を持つことで公平な取引を行うことが出来ます。
そうすることで冒険者は「依頼を達成した時の報酬」と「素材を売った時の金」と二つ手に入れることが出来るのです。片方だけだと、準備にかかる金のせいでなくなったりすることもあったでしょう。素材を公平に売ることは、冒険者にとって死活問題なのです。
冒険者に大切な利益のもうひとつは、様々な道具の購入です。
ポーションだとか。マジックアイテムだとか、武器だとか、防具だとか、地図だとか。
そんな道具です。
本来はこれらを用意するために様々な店を回ることが必要だったでしょう。これはかなり時間を取られるので、一つの信頼出来る店があるといろいろ楽です。
一応、安い店を探すと言うのも人によっては楽しさに入るのでとやかく言うつもりはありませんが……。
冒険者ギルドと言う巨大な組織に所属する冒険者が売却する素材を全て買うことが出来るほどの財力を持ち、同じく大量にいる冒険者に道具を売ることが出来る組織。どう考えても個人の商店なんて規模では無理です。
つまり、サブタイの通り商人・職人ギルドと上手に付き合っていく必要があるのです。
「商人・職人ギルドの方の利益」
では、冒険者が望む健全な関係を受け入れてくれるのか、考えてみます。
まず、モンスターの素材を買うことは確実にしたいと考えるはずです。モンスターの素材によって服が作られたり、金持ちのボンボンの人達に買ってもらったりと、かなり需要がある可能性があります。
職人ギルドなら、専売のために逆にあちらから取引を持ちこんでくるかもしれません。
職人ギルドに潰された商人達も貿易商として頑張るので、遠方に運んだら儲かるかもしれません。
つまり、モンスターの素材に何らかの価値がある場合、商人・職人ギルドは向こうから素材を独占しようとすり寄ってくるはずです。
この取引は個人対組織ではなく、組織対組織。ギルドとギルドが取引をすることで、不平等な取引は行われにくい雰囲気になります。
恐らくはギルドで「売却したい素材があったらこの箱に入れてください」的なものがあって、ギルドのほうでその素材を売った後、再びその金を素材提供者に返す。といった流れも面白いです。
次は、もう一つの問題である道具を売ってくれるかについて考えましょう。
冒険者の仕事で使う道具は、他の仕事で使うことはそんなにありません。パッと思いついたので言えば、戦争などでポーションを使うくらいでしょうか。
ポーション類の例で考えると、これは戦争時に国が大量に購入するものでしょうから、既に商人・職人ギルドは生産ルートを確立しているはずです。さすがに単体のギルドが市場を完全掌握することは不可能なので、座で言えば「ポーション座」みたいに(名前が恐ろしくダサい……)それの生産を専門にするギルドが存在するでしょう。
それを分けてもらえばいいし、何より安定してポーションをジャブジャブ使ってくれる取引先が増えるのはあちらにとってもうれしいはず。
なのでポーションを売ることに関しても商人は非常に協力的で、きっと冒険者ギルドの建物の横に、臨時出張店が並んでいることでしょう。
……とそこまですんなり行くかはそこまで分かりません。
今はポーションを例に出して説明しました。これ自体でも、戦争時には国への販売に回すためポーション供給が出来なくなるという事件はほぼ確実に発生します。というかどこもかしこも戦争ばっかしているでしょうから、冒険者に回してあげられるほど生産することはさすがに難しいのではないでしょうか。
更に冒険者のため「わざわざ」生産しなければいけない物の場合、十中八九生産などしてくれません。商人が商売をする目的はあくまで、継続的な商売で利益を得続けることです。
武器とか防具とかの消耗品ではないものだと、いつ買ってくれるか分からないので相手は不安です。そして不安なので専売取引など結ばないのです。赤字を出すことが商売において一番ダメなことですから。
そうなるとどうなるでしょうか。冒険者個人で足を運んで来てねとなるのです。これで起こる問題は計り知れないでしょう。
「こちらのロングソードは十万ゴールドでございます」
↓
「た、高すぎる……」
↓
「おや、どの店もこの値段ですよ。別にいらないのなら買わなくても良いのですが……ニヤニヤ」
↓
「むぎぎ……」
こうなったりとか
「こちらのポーション一ダースは五千ゴールドでございます」
↓
「すげえ! 他の店より断然安いじゃねえか! とりあえず十ダースくれ!」
↓
戦闘時
「何これ味薄っ。これ普通のポーションを水で薄めたヤツを着色しただけなんじゃねえか!?」
こうなってしまったりするのです。
なぜこうなるかと言うと、冒険者が圧倒的に騙しやすいカモだからです。
結構有名な話ですが、中世の商人は相手によって値段を変えます。決して店頭に「ポーション五百ゴールド」みたいに置いてあったりはしません。現代のように最初から値段を店側が決めておくやり方は、日本で言う江戸時代の「現金掛け値なし」と呼ばれる、初めから値段を決めておくシステムです。
中世ヨーロッパの商人が行うことはそれとは完全に逆。
ぼったくれるような相手がいたら積極的にぼったくったらしいです。
通常の値段の二倍や三倍は当たり前。
五倍や十倍。
酷い場合には三十倍から五十倍なんて泣きたくなるような値段で取引がなされたことが実際あったらしいです。
同じ商人同士でも、自分が詳しくないジャンルだとぼったくられることは少なくありません。
そんなところに、読み書き計算が出来ない。交渉術皆無。まあ、脅しくらいは出来るかな、なんてレベルの冒険者の方々が乗り込んでいったら、確実にぼったくられるのは目に見えています。
一応、一般人に相場を聞いたり、冒険者同士で情報交換をするなかで、
「俺の友人はこれの五分の一の値段で買っていたぞ! 騙されないからな!」
とやればぼったくり率も下がるでしょうが、やはり経験が浅かったり、新人だと相場が分からずにぼったくられることも少なくないでしょう。
冒険者ギルドは全ての冒険者が利益を得ることを目的としているので、これは見過ごすわけにはいかない問題です。また、冒険者ギルドと専売取引を結ばないと言うことは、商人・職人ギルドもモンスター素材独占のチャンスを失うことになるのです。
両方が仲良く共存できないかもうちょっと考えてみます。
「両者WINWINなるか」
冒険者ギルドは道具を適正価格で買いたい。
商人・職人ギルドはモンスターの素材を買いたい。
お互いに欲しいものが決まっているので、上手いとこ交換条件に持ち込んで両方がニコニコの関係に導かなければいけません。冒険者は別にぼったくる意思もないしぼったくりかたも知らないのでいいのですが、逆にぼったくられることをなんとかしなければいけません。
ここはあれです。市場で魚を買う時にやるあれです。
セリをするのです。
まずは冒険者からモンスター素材を買いたい。と主張する商人・職人ギルドを集めます。そしてこう言えばいいのです。
「このなかで一番こちらにとって良い条件を出してくれたところと契約するよ!」
こういうとどうなるでしょう。
「フフフ。そうだな、ポーションを一ダース一万ゴールドで売ってやろうじゃないか」
「いや、こちらは武器、防具を格安かつ、高機能多種類なものを提供できるぞ」
「じゃあうちのギルドがポーション一ダース八千ゴールドで売ってやろう」
「なに……。フフ、別に無理に契約する必要はないからね。ここは引かせてもらうよ」
こんなめんどくさいことを繰り返していく中で、最終的に良心的な取引をしてくれるところが残ります。
冒険者ギルドが持つカードは「モンスター素材」。
商人・職人ギルドが持つカードが「道具」なのですが、「モンスター素材」は買い取ってくれるところは実に多いはずなのです。
「この値段じゃないと素材買ってあげないよ」
するとこのように足元を見ることも難しいのです。ですが、この関係は一朝一夕では到底出来ません。かなりの時間がかかるはずです。
ゲームとかでよく見られる関係を築くためには幾度となく小競り合いを続け、何十年ものの歳月をかけることで完成するものだと言うことがよくお分かりいただけたのではないでしょうか。
……ただ、ひとつ備考をすると、ここまで完璧な関係を築くまでのんびるとやっていたら、戦争などの影響でギルドというシステム自体が葬り去られることも発生しうるはずです。実際のギルドもそうして滅びましたし。要するにいろいろ考えなければいけないと言うことです。
「最後に」
自分で言うのもなんですが、この考察かなり粗いです。王がもっと積極的にギルドに絡んできて政治的に利用されれば全く別の組織になったでしょうし、モンスターの素材に全く価値がなかったりしたらいとも簡単にこの考察は崩れます。
もしも自分でファンタジー小説を書こうと考えている方がこの考察を見ていただき、新たな世界観を構築するきっかけになったら幸いです。
考察はした人の数だけ生まれるのですから。
少し前にこの考察を投稿したのですが、簡潔設定を入れるのを忘れており、いろいろいじっているうちに誤って消去してしまいました。
おかげでそれを再現して書いたこの考察は、前の物を読んだ方にとって違和感を覚える結果になってしまったかと思います。前回に続いてこんなことを起こして迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ございませんでした。