71.タンポポちゃんのお母さん
皆と楽しく朝食を食べていると、ドアがノックされる。
「は~い、開いてますよ~」
「──失礼する」
ワイシャツを着た大人の人、四~五十代の女性が顔を覗かせ部屋に入ってきた。
「あ、ママ」
「タンポポ、こんなところにいたのか?」
「うん、キョウとご飯たべてた~」
タンポポちゃんのお母さん? ええっと、こんな時どうすれば。
「あ、……おはようございます。蒼屋キョウです。本日はお日柄もよく──」
何いってんだ、ボク。
「ああ、キョウくん。タンポポが世話になったね」
「あのね、私、キョウを妻にしたから」
「は?……ああ? そうか。よかったな」
「うん」
タンポポちゃんのお母さん──レンカさんが微妙な表情になったけど、すぐ穏やかな顔にもどる。
「私はもう会社に行くから、おとなしく勉強してるんだぞ」
「うん」と、返事したタンポポちゃんが少し淋しそう。
「で、お館──サキ様? 少しお話が……」
「なんじゃ? 食事のあとにせよ」
「まあまあ。あのこちらへ、レンカさん。コーヒーをもって来させますから……」
「あ、ああ。ありがとう」
また、メイドコールをポチってみる。
またしても、ドタドタと走ってくる足音。怒られないのかな?
「お呼びでしょう、か?」
今度は違う人が来たけど、やはり若いメイドさん。
「え~っと、サキちゃんも飲む? コーヒー」
「ブフッ──」
「そうじゃのぉ、わしも飲む」
レンカさんが突然ふいた。なんなのさ? サキちゃんは、口を歪めてレンカさんをにらんでいる。
「あなた、お名前は?」
「は? わたくし、ですか? 木霊シホと申します」
「じゃあ、シホさん、コーヒー三つ、お願い」
喫茶店みたいじゃない? これって。
シホさんは、「畏まりました」と戻っていく。
「で? タンポポはなぜ部屋に居ないでこっちに居るんだ?」
「キョウとふうふのイトナミしてた」
「──あ、いや、あの、おままごとの延長で一緒に寝るって言うもので……」
「ほぉう?……」
慌てて補足すると、また微妙な表情になるレンカさん。
まあ、説明すると長くなるのでタンポポちゃんの言葉に乗っておく。
「まあ、そうゆう訳で、婦夫になったそうじゃ。愉快よのぉ」
「は、はぁ……」
「わたしもふうふ」
「ふうふ」
アリサちゃん、マナちゃん、君たちまで追い打ちかけなくていいから。ますます、レンカさんが訝しげになったよ。
「いや、これは、いろいろと事情がありまして、ですね?」
「そうですか。タンポポをお願いしますよ、キョウくん」
いや、納得された上、お願いされても困るんだけど。
「それで、おや──サキ様、お昼から来られるのですな?」
「うむ、そのつもりじゃ」
「ほんと、えらい人みたいだね、サキちゃん」
「何を言うておる、わしはえらい人じゃぞ」
「ブフッ」
また吹いた。三回目のレンカさん。
「そなた、何がおかしい?」
「いえ。それでは、お昼に。タンポポ、おとなしくしてるんだぞ。会社に行ってくる」
「行ってらっしゃ~い」
「うむ、頼むぞ」
「お疲れ様です」
懐疑的なレンカさんは、コーヒーも飲まずに出社していった。
食事を終えコーヒーを飲むと、お勉強タイム。
のろのろと足取りの重い三人が本館、タンポポちゃんの部屋へ行く。
当然、お世話するのにボクも手をつないで行く。用もないのにサキちゃんまで付いてくる。
もう、お出かけの準備でもしていたらいいのに。
「──なんじゃ。わしがついて行くのが不満そうじゃな?」
「いいえ?」
やべ。振り返ってサキちゃんを見た時、気持ちが表情に出てたかな?
廊下を行進してたら仕事中のメイドさんたちがちらちらとこちらを見てくる。
う~む、ボクが下着姿の幼女たちと歩いてるのって、拉致られてる犯罪臭がするのかな?
タンポポちゃんの部屋に着くと教師と思われる人が待っていた。
「どこに行ってらしたのです?」
「キョウの部屋」
タンポポちゃんが返事すると幼女たちが首肯して同意してる。
「ええ? それは、どう言う……」
「キョウを妻にしたので泊まってきたのよ?」
「……は?」
まあ、理解できないのは無理もない。
「あ~蒼屋キョウと申します。一応、ボクが仮の妻ってことで理解してください」
先生と自己紹介を交わす。お名前は、田端クロユリさん、三十代後半、アラフォーかな? お胸の加減は。
タンポポたちは、「仮」ってのが気に入らなくてブーブー、ぼやく。
「ボクは、適当にしていますので授業をお願いします」
「は、はあ……。では、お勉強はじめましょうか?」
アリサちゃん、マナちゃんは部屋に戻って部屋着に着替え、勉強道具を持ってきてテーブルに並んで座る。
タンポポちゃんも着替えて授業を受ける。
ボクとサキちゃんは、少し離れて見守っている。このころの女子の勉強ってどんなかな?




