表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屍者の国  作者: ふるか162号
1章 魔王城再建
9/20

3話 犬人とコボルト

いつも誤字報告ありがとうございます。


 洞窟前にいた戦士が、長老の所まで案内してくれる。

 洞窟内には、結構な数の犬人がいる。だけど、見るからに戦えそうにない。彼等は、俺とノービスを見て驚いている。

 犬人しかいないこの場所に人間がいるのもおかしな話だろうが、彼等が驚いているのは、自分を囮にコボルトを引き離し死んだと思われていた、ノービスが生きていたことだろう。


 洞窟の奥に長老がいた。

 犬人の見た目は犬の顔なので、俺には良く見分けがつかないが、長老だけは姿が分かりやすかった。

 長老も犬人だから犬の顔なのは当たり前なのだが、長老は髭が長い。いや、犬には元々髭があるのだが、この長老の髭は顎に生えている。

 この特徴的な姿を見て思い出した。長老とは勇者時代に会ったことがある。

 まぁ、会ったと言っても、この森に試練を受けに来た時に、一言二言話したことがあるというだけだ。十年経っても姿は変わらないんだな。


「の、ノービス!! 生きておったのか!?」

「はい!! カイルさんに助けてもらったんだ!!」


 長老もノービスが生きていたことに驚いていたようだ。しかし、こうやって生きて帰ってきているのだから、逃げたと思われてもおかしくないのに、誰もそう思わないのは、信頼があるからだろうな。俺の元仲間達とは偉く違うな……。


 しかし、助けたねぇ……。

 ノービスを屍者として復活させたのを、助けたと言っていいのかは知らんが、こうやって仲間と再会できたのだから、良かったと思うことにしよう。だが、助けられたと思っているノービスには、後で辛い思いをさせることになりそうだな。

 ノービスと長老の再会を見ていた俺に、長老が気付く。


「カイル殿……いえ、勇者カイル様。お久しぶりでございます」

「久しぶりだな、長老。俺のことを覚えていたのか?」


 意外だったな。

 あれから数ヵ月で死んだ俺と違い、長老は十年ぶりに俺の姿を見たはずだ。しかも、顔見知り程度なのに、よく覚えていたものだな。

 だが、今の俺は勇者ではない。


「長老、俺はもう勇者じゃない。それどころか人間ですらない」

「どういうことですかな?」


 俺は自分が処刑されたこと、そして魔王の呪いでリッチキングになったことを説明する。

 その際、ノービスのことを説明する必要があった。


「ノービス。俺はお前を助けたわけじゃない。あくまで話を聞きたかったから復活させただけだ。恨みこそすれど感謝する必要はない。そして、これから先どうするかは、お前が決めればいい」


 ノービスは自分の体のことに非常に驚いていたが、すぐに「ということはですね? 僕は死なない戦士になったということですか?」と聞いてきた。

 死なない戦士か……。

 ベルの話では、屍者になれば死の恐怖や苦痛の感情が薄れると言っていた。ならば、最強の戦士になれると思う。それが幸か不幸かは分からないがな。

 しかもだ、従う者を誤れば、永遠に戦わされ続ける戦闘マシーンになってしまうだろう。

 よく考えれば、酷い話だ。


「屍者になった。これが俺がお前に、死なないといった理由だ。済まなかったな」

「謝る必要はありません!! 僕がこうして戻ってきたから、いや、カイルさんがいたから、皆を助けることが出来ました!!」


 ノービスは感謝してくれている。

 お前に感謝される度に、俺の心が痛いのだが……、まぁ、痛みは感じないから、気分の問題なのだが。



 さて、話を戻そうか。


「長老。犬人がコボルトに襲われているのは、この洞窟に入る前に見たのだが、確か犬人とコボルトは、どちらかというと友好関係を築いていたはずだよな?」


 これは間違いない。理由は簡単だ。

 単純な話で、本能で生きているコボルトでは、自分達と同種か犬人かを判別できないからだ。俺が知る限り、コボルトが犬人を襲ったという話は聞いたことが無い。

 だが、それはあくまで縄張り外の話だ。許可なく縄張りに入れば襲われることもあるが、今回のコボルトの襲撃ではそう思えなかった。

 ただ、今は俺が処刑されてから十年は経っている。それで何か勢力図が変わっているかもしれないな。


「長老、コボルトに襲われてる理由を説明できるか? ここ十年で勢力図が変わった? もしくは、犬人(お前達)コボルト達(奴等)に喧嘩を吹っ掛けたとか……」


 いや、最後のはないな。犬の進化系の犬人は、同じ犬の進化系であり、本能だけが特化して魔物化した、コボルトの脅威を知っているはずだ。わざわざ藪をつついて蛇を出すような真似はしないだろう。


「コボルトが襲ってきたのはここ一年です。正直な話、何故襲われたのか分かっていないのです。我々の落ち度であれば、この運命を受け入れるでしょうが、本当に分からないのです。我々も準備も何もできていなかったので、犬人の戦士達は、ここにいる『フベン』、それに貴方様に復活させていただいたノービス以外は全員死にました。今だって、カイル様とノービスが来ていなかったら、我々は全滅していたでしょう」

「長老……」


 ノービスが不安そうな顔をしている。

 そう考えたら、タイミングが良かったな。

 しかし、このまま放っておいて、俺がここからい無くなれば犬人は滅ぼされてしまうだろうな。


「長老、コボルトは何故群れを成している? アイツ等は単独行動、もしくは家族だけで行動することが多かったはずだ」

「はい。確かに一年前までのコボルトは単独行動をしていました。一年前、初めて襲ってきた時から、すでに群れを成していました。しかも、その時すでに言葉は通じませんでした」


 言葉が通じる? 魔物には言葉は通じないはずだ。どういうことだ?


「説明してくれないか? 何故、魔物に言葉が通じる?」

「いえ、言い方を間違えました。言葉そのものは通じません。ただ、我々は犬同士だから、なんとなく意思疎通は出来るのですよ。本能で通じているのでしょうね。それが全く通じなくなりました」


 成る程な。

 長老の言葉をそのまま考えると、操られていると考えた方が良いかもしれないな。

 どのみち犬人を保護しないと、コボルトに滅ぼされるのは確実だ。そうなれば、俺達の計画も崩れてしまう。

 ここらで交渉に入るとしようか。


「長老、提案があるんだが聞いてみるか?」

「はい? 提案ですか?」

「あぁ」


 俺は、魔王城の再建に犬人の力を借りたいことを説明し、もし、犬人が望むのならば、死んだ戦士達を屍者として復活させることも出来ると話す。

 長老は少し悩んでいる様だった。それはそうだろう。

 殺された者は、殺された時の恐怖を持って死んでいる。それに、不死系等の魔物の常識として、普通の屍者蘇生では確実に魔物になってしまう。

 つまりは復活したとしても、それは犬人の戦士の姿をした、別の何かになってしまうという、恐怖があるのだろう。それが自分達を襲ってきた時に……。


「まぁ、答えをすぐに出す必要はない。今はコボルトをどうするかを考えよう」


 一族のことを決める大事な問題だ。すぐには決められないだろう。


「いえ、協力自体は、喜んで引き受けましょう。ただ、戦士を生き返らせることについては……」


 そう言って、長老はノービスを見る。

 確かにあいつには意識がある。俺からすれば、意識をもって復活するのが普通になってしまっているが、長老からすれば、それは奇跡の産物だろう。


「いや、俺も考えなしでノービスを復活させたことは軽率だった」


 ノービスは気にしないと言っていたが、やはり、そこはデリケートな問題だ。

 今後、屍者を復活させるにしても、その辺りを考えなければいけないな。


「復活させてください!!」


 俺が悩んでいると、犬人の女性が涙を流しながら、俺に土下座をしている。

 長老に聞くと、死んだ戦士の母親だそうだ。親として生き返らせてほしいとのことだった。

 しかし、長老は母親にやさしく諭しだした。


「聞きなさい。ノービスの様に意識のある状態で復活できるかもしれない、だが、魔物になったら息子の顔をしたものを討伐しなきゃいけないのだ。お前にそれが耐えられるのか?」

「で、でも!!」


 どちらがいいか悩むところだな。

 だが、俺の力ならば問題はない。どちらにしても俺に従うのは当然だから、襲いかかることはないだろう。


 よし、覚悟を決めよう。


「分かった、復活させよう。意識があれば、今後、戦士を続けるかどうかは本人に決めさせる。仮に、意識の無い魔物として復活した時は俺が責任を持つ」

「し、しかし」

「いや、傲慢な考えだが俺はそう決めた。長老の心配も理解するが、そこのご両親の気持ちの方が大事だからな」

「あ、ありがとうございます」


 ただ、一つだけ心配なことがある。

 俺は、そいつらの顔を知らないのだ。そこをどうしたものか……。



「何を悩んでおる?」


 あ? なんでこいつがここにいるんだ?


「ベル。お前、魔王城はどうした?」

「お前が心配になって来た!! 感謝するが良い!!」


 イラっときた俺は、無意識にベルの頭を鷲掴みにして力を込めていた。

 犬人が避難していた洞窟に、ベルの悲鳴が響いていた。


感想やアドバイスなどがあれば、よろしくお願いします。

もし、よろしければブックマークの登録、評価をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ