3話 犬人とコボルト
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洞窟前にいた戦士が、長老の所まで案内してくれる。
洞窟内には、結構な数の犬人がいる。だけど、見るからに戦えそうにない。彼等は、俺とノービスを見て驚いている。
犬人しかいないこの場所に人間がいるのもおかしな話だろうが、彼等が驚いているのは、自分を囮にコボルトを引き離し死んだと思われていた、ノービスが生きていたことだろう。
洞窟の奥に長老がいた。
犬人の見た目は犬の顔なので、俺には良く見分けがつかないが、長老だけは姿が分かりやすかった。
長老も犬人だから犬の顔なのは当たり前なのだが、長老は髭が長い。いや、犬には元々髭があるのだが、この長老の髭は顎に生えている。
この特徴的な姿を見て思い出した。長老とは勇者時代に会ったことがある。
まぁ、会ったと言っても、この森に試練を受けに来た時に、一言二言話したことがあるというだけだ。十年経っても姿は変わらないんだな。
「の、ノービス!! 生きておったのか!?」
「はい!! カイルさんに助けてもらったんだ!!」
長老もノービスが生きていたことに驚いていたようだ。しかし、こうやって生きて帰ってきているのだから、逃げたと思われてもおかしくないのに、誰もそう思わないのは、信頼があるからだろうな。俺の元仲間達とは偉く違うな……。
しかし、助けたねぇ……。
ノービスを屍者として復活させたのを、助けたと言っていいのかは知らんが、こうやって仲間と再会できたのだから、良かったと思うことにしよう。だが、助けられたと思っているノービスには、後で辛い思いをさせることになりそうだな。
ノービスと長老の再会を見ていた俺に、長老が気付く。
「カイル殿……いえ、勇者カイル様。お久しぶりでございます」
「久しぶりだな、長老。俺のことを覚えていたのか?」
意外だったな。
あれから数ヵ月で死んだ俺と違い、長老は十年ぶりに俺の姿を見たはずだ。しかも、顔見知り程度なのに、よく覚えていたものだな。
だが、今の俺は勇者ではない。
「長老、俺はもう勇者じゃない。それどころか人間ですらない」
「どういうことですかな?」
俺は自分が処刑されたこと、そして魔王の呪いでリッチキングになったことを説明する。
その際、ノービスのことを説明する必要があった。
「ノービス。俺はお前を助けたわけじゃない。あくまで話を聞きたかったから復活させただけだ。恨みこそすれど感謝する必要はない。そして、これから先どうするかは、お前が決めればいい」
ノービスは自分の体のことに非常に驚いていたが、すぐに「ということはですね? 僕は死なない戦士になったということですか?」と聞いてきた。
死なない戦士か……。
ベルの話では、屍者になれば死の恐怖や苦痛の感情が薄れると言っていた。ならば、最強の戦士になれると思う。それが幸か不幸かは分からないがな。
しかもだ、従う者を誤れば、永遠に戦わされ続ける戦闘マシーンになってしまうだろう。
よく考えれば、酷い話だ。
「屍者になった。これが俺がお前に、死なないといった理由だ。済まなかったな」
「謝る必要はありません!! 僕がこうして戻ってきたから、いや、カイルさんがいたから、皆を助けることが出来ました!!」
ノービスは感謝してくれている。
お前に感謝される度に、俺の心が痛いのだが……、まぁ、痛みは感じないから、気分の問題なのだが。
さて、話を戻そうか。
「長老。犬人がコボルトに襲われているのは、この洞窟に入る前に見たのだが、確か犬人とコボルトは、どちらかというと友好関係を築いていたはずだよな?」
これは間違いない。理由は簡単だ。
単純な話で、本能で生きているコボルトでは、自分達と同種か犬人かを判別できないからだ。俺が知る限り、コボルトが犬人を襲ったという話は聞いたことが無い。
だが、それはあくまで縄張り外の話だ。許可なく縄張りに入れば襲われることもあるが、今回のコボルトの襲撃ではそう思えなかった。
ただ、今は俺が処刑されてから十年は経っている。それで何か勢力図が変わっているかもしれないな。
「長老、コボルトに襲われてる理由を説明できるか? ここ十年で勢力図が変わった? もしくは、犬人がコボルト達に喧嘩を吹っ掛けたとか……」
いや、最後のはないな。犬の進化系の犬人は、同じ犬の進化系であり、本能だけが特化して魔物化した、コボルトの脅威を知っているはずだ。わざわざ藪をつついて蛇を出すような真似はしないだろう。
「コボルトが襲ってきたのはここ一年です。正直な話、何故襲われたのか分かっていないのです。我々の落ち度であれば、この運命を受け入れるでしょうが、本当に分からないのです。我々も準備も何もできていなかったので、犬人の戦士達は、ここにいる『フベン』、それに貴方様に復活させていただいたノービス以外は全員死にました。今だって、カイル様とノービスが来ていなかったら、我々は全滅していたでしょう」
「長老……」
ノービスが不安そうな顔をしている。
そう考えたら、タイミングが良かったな。
しかし、このまま放っておいて、俺がここからい無くなれば犬人は滅ぼされてしまうだろうな。
「長老、コボルトは何故群れを成している? アイツ等は単独行動、もしくは家族だけで行動することが多かったはずだ」
「はい。確かに一年前までのコボルトは単独行動をしていました。一年前、初めて襲ってきた時から、すでに群れを成していました。しかも、その時すでに言葉は通じませんでした」
言葉が通じる? 魔物には言葉は通じないはずだ。どういうことだ?
「説明してくれないか? 何故、魔物に言葉が通じる?」
「いえ、言い方を間違えました。言葉そのものは通じません。ただ、我々は犬同士だから、なんとなく意思疎通は出来るのですよ。本能で通じているのでしょうね。それが全く通じなくなりました」
成る程な。
長老の言葉をそのまま考えると、操られていると考えた方が良いかもしれないな。
どのみち犬人を保護しないと、コボルトに滅ぼされるのは確実だ。そうなれば、俺達の計画も崩れてしまう。
ここらで交渉に入るとしようか。
「長老、提案があるんだが聞いてみるか?」
「はい? 提案ですか?」
「あぁ」
俺は、魔王城の再建に犬人の力を借りたいことを説明し、もし、犬人が望むのならば、死んだ戦士達を屍者として復活させることも出来ると話す。
長老は少し悩んでいる様だった。それはそうだろう。
殺された者は、殺された時の恐怖を持って死んでいる。それに、不死系等の魔物の常識として、普通の屍者蘇生では確実に魔物になってしまう。
つまりは復活したとしても、それは犬人の戦士の姿をした、別の何かになってしまうという、恐怖があるのだろう。それが自分達を襲ってきた時に……。
「まぁ、答えをすぐに出す必要はない。今はコボルトをどうするかを考えよう」
一族のことを決める大事な問題だ。すぐには決められないだろう。
「いえ、協力自体は、喜んで引き受けましょう。ただ、戦士を生き返らせることについては……」
そう言って、長老はノービスを見る。
確かにあいつには意識がある。俺からすれば、意識をもって復活するのが普通になってしまっているが、長老からすれば、それは奇跡の産物だろう。
「いや、俺も考えなしでノービスを復活させたことは軽率だった」
ノービスは気にしないと言っていたが、やはり、そこはデリケートな問題だ。
今後、屍者を復活させるにしても、その辺りを考えなければいけないな。
「復活させてください!!」
俺が悩んでいると、犬人の女性が涙を流しながら、俺に土下座をしている。
長老に聞くと、死んだ戦士の母親だそうだ。親として生き返らせてほしいとのことだった。
しかし、長老は母親にやさしく諭しだした。
「聞きなさい。ノービスの様に意識のある状態で復活できるかもしれない、だが、魔物になったら息子の顔をしたものを討伐しなきゃいけないのだ。お前にそれが耐えられるのか?」
「で、でも!!」
どちらがいいか悩むところだな。
だが、俺の力ならば問題はない。どちらにしても俺に従うのは当然だから、襲いかかることはないだろう。
よし、覚悟を決めよう。
「分かった、復活させよう。意識があれば、今後、戦士を続けるかどうかは本人に決めさせる。仮に、意識の無い魔物として復活した時は俺が責任を持つ」
「し、しかし」
「いや、傲慢な考えだが俺はそう決めた。長老の心配も理解するが、そこのご両親の気持ちの方が大事だからな」
「あ、ありがとうございます」
ただ、一つだけ心配なことがある。
俺は、そいつらの顔を知らないのだ。そこをどうしたものか……。
「何を悩んでおる?」
あ? なんでこいつがここにいるんだ?
「ベル。お前、魔王城はどうした?」
「お前が心配になって来た!! 感謝するが良い!!」
イラっときた俺は、無意識にベルの頭を鷲掴みにして力を込めていた。
犬人が避難していた洞窟に、ベルの悲鳴が響いていた。
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