表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HADAL ZONE  作者: 佐久 満
5/5

sky

 加奈の周囲を闇が覆っていた。

 いつもの水深二百メートルの海で、緩やかな海水の流れに身を任す。

 空調システムの静かなサーボ音だけしか聞こえない。今日はいつまで待ってもサルタンは現れなかった。

 彼女はヘッドライトを消した。たちまち光のない世界が彼女を包んだ。しばらくそのままでいると、いつからここにいるのかすら分からなくなってゆく。自分でも不思議なほど、安らかな気持ちだった。身体が溶けてゆくような錯覚を覚えた。

 それは嫌な感覚ではなかった。

 ふと、このロープを放せばどうなるだろう、と考えた。足元には海底まで五十キロ以上の海がある。以前綾に言われた言葉を思い出した。おそらく助からない。それもいいのかもしれない。

 その時、強い海流が彼女を押した。必死でロープをつかもうとしたが遅かった。慌ててヘッドライトをつける。

 すぐにロープは見えなくなり、彼女は自分の身体がゆっくりと沈むのを感じた。

 それでは、これで終わりになるのだ。そう思った時、ヘッドライトが殻に覆われた六本の巨大な腕を照らした。気が付くと、彼女はサルタンの身体の上に横たわっていた。

「お前の役目はまだ終わっていない」

 声が頭の中に響いた。

「それが条件だったわね」

 そう言いながら、自分の声が震えているのに気が付いた。

「お前の願いを一つ、かなえてやろう」

「願い?」

「空を見せてやる」

 そう言ってサルタンは上昇を始めた。周囲の黒は青に変わり、明るい七つの太陽が見え始める。

 加奈は顔を上げてエウロパの空が見えるのを待ち続けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ