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第7話 誕生日

誕生日。それは人が集まる日。又は実用性を第一とした物を無償で親から貰える日だとかつての俺は考えていた。

実際、グリーパー家では家族全員が集まる機会は年に数度行われる誕生日パーティーの日だけだったし、俺がその日に父親から貰った物は、実用性を第一に考えられた無骨なフェザースタッフ(暗器)や夜闇に紛れるために羽から先端部までが全て黒で塗られ、先端には神経毒や致死毒が塗られた父親特製のダート50本など完全に実用的な物ばかりだった。

それを友人のニールの奴に話したら呆れられていた。

彼から話を聞いてみると、誕生日は生まれたことを祝う日だと分かった。

いつもよりも豪華な食事を用意し、家族全員が誕生日を迎えた人に無事に生まれてきたことを感謝し、祝福する。そのお祝いにプレゼントとして物をもらえるという。


どうやら、その時の俺は盛大に勘違いをしていたようだ。

ニールに呆れられたとしても無理はない。

さて、何で俺がそんなことを話しているのかというと、今日が母さんの誕生日だったからだ。

今日は酷い1日だった。まぁ、母さんは喜んでいるし、父さんは何かを無事にやりきった者だけが浮かべる事の出来る、充足感に溢れる笑みを浮かべていたから俺が我慢すればよかっただけなのだろう。

この日については………あまり思い出したくない。

きっとあるであろう俺の誕生日にはこんなことがないようしっかりと祈っておくことにしよう。


俺が意識を覚醒させてから大体10か月ぐらいの月日が流れた。元々、暗殺者として体内時計はかなり正確なものだったが、赤ん坊に戻ったことでより正確無比なものへと変わっていた。

前世の世界での時間周期は7日で1週間。それが×4週分でと余りの日にちを加えて1ヶ月。更にそれが12か月分の約360日で一年だった。

だが、こちらの世界は時間の周期がきっちりとしているらしい。

正確無比な俺の体内時計で測ったからまず間違いはない。

24時間で一日というのは前の世界と変わらない。何日か朝から晩まで一睡もせずに太陽が顔を出すまでこっそりと起きて確かめた。

しかし、1週間の単位は違うようで7日で1週間ではなく6日で1週間と前よりも1日少ない。

また、1ヶ月の単位も微妙に異なる。前は4週間で大体30日が1ヶ月だったが、現在の世界では1週間分増えた6日×5週間の計30日できっちりと1ヶ月にしている。


この調子だと30日×12ヶ月の360日ピッタリで1年なのではないかと思うが現在は約10ヶ月分しか調べていないのでそこのところはまだ分からない。

ちなみに、当然といえば当然なのだが、前の世界と現在の世界では日にちや月の名称が違っている。更に、週や年にまで名称がついているようなのだ。

だが、これらは完全にはまだ分かり切ってはいないのでまたの機会にしようと思う。


さて、俺としては情けないことに現実から目を背けたくてこんなことをしていたのだが、どうやら母さんの多大なる活躍により悲劇は避けられたようだ。

朝から仕事にもいかずに家に留まり、何か家のことをしようと張り切っている父さんの姿を見かけたときにはどうしようかと冷や汗を流したが、今は母さんに叱られてわざわざ靴を脱いでまで椅子の上に乗り、膝を抱えて落ち込んでいる。

母さん曰く、「せっかくの日だけれど、あなたが作ったものはナツトにはまだ早い」らしい。


どうやら、父さんは料理をしようと考えていたようだ。食べられないとまでは言えないけれど、正直言ってあの料理は赤ん坊に食べさせるようなものではないと思う。臭いや見た目からして異質だった。あれは料理という概念を何かしらの形で超越しているに違いない。そもそも作るときにズシャーッとかギャーッとか聞こえてくる時点でおかしい。

父さんが朝から家にいようとした日は母さんの誕生日と結婚記念日の2日を除いてなかったので、今日が何かの記念日であるということは確実だ。


父さんが料理をしようとしていた時点で、父さんの誕生日という線は消える。そもそも、祝われなければいけないのに家事をしていたら本末転倒であるし、実は父さんの誕生日はもう既に祝っている。

この日だけ休日ということもあり得るかもしれないが、今まで休日というものがなかったのでその可能性は低いと思う。

そして母さんの言葉を加味すると、とある可能性が浮かんできた。


「(もしかして、今日俺の誕生日じゃないのかな?)」


あの一家の大黒柱として、ワーカホリックと間違えられてもおかしくない程に朝から晩まで仕事をしている父さんが家にいるのだ。記念日であったとしてもよほどのことであろう。

そして、俺はまだ、この体になってからは誕生日を祝われたことはなかった。

だから、時間的にもそろそろ誕生日を迎えたとしてもおかしくはないだろう。


「ナツト君、今日はナツト君の誕生日で生まれたことをお祝いする日なんだよ」

母さんが椅子に座っている俺と視線の高さを同じにして、目を覗きながらそう言った事によって、俺の予想が正しいことがあっという間に分かってしまった。

「そうなんだ。だからお父さんが腕を振るってナツトのために………」

「あなたは家事をしなくていいから、ナツト君のことを見ていて」

「………はい」


笑顔を浮かべえた母さんに凄まれて、父さんはあえなく敗北を受け入れた。

俺でも一瞬ぞっとした錯覚に陥りそうになった。危うく雰囲気に飲まれるところだった。

たぶんこの身体になったからそう感じたのだろうが、時々母さんはいったい何者だろうと思わせられる。

それに、父さんに至っては完全に服従している気がする。はた目から見れば相思相愛の仲のよい若い夫婦なのだろうし、実際そうなんだが父さんは母さんのことを高貴な人を扱うように接する時があるのだ。

本当に何気ない動作なんかにそういうのが現れているので、母さんも本人すらも気づいていないだろうが、俺には分かってしまったのだ。

思考がわき道にそれてしまったので元に戻すとして、俺は今日何をしようか迷っていたので、父さんが面倒を見てくれるならそうしてもらおうと思う。

4ヶ月くらい前に、この体の動かし方にも慣れてきてようやく歩けるようになった。


この頃から、俺はそろそろ言葉を話さないと怪しまれるかな?と考えて、単語をしゃべるようにし始めた。もちろん偽装として、微妙に曖昧な発音をする部分を作ったり、最初に言葉がつっかかるふりをしたりして、すらすらとしゃべれることを悟らせないようにしている。

それと、俺の腕は赤子にふさわしい筋肉の余りついていない細腕なのだが、何故か外へと繋がる扉を簡単に開けることができたので、外に行こうと思えばいくことができるのだが、「まだナツト君は小さくて外は危ないからお母さんか、お父さんと一緒じゃなきゃ外にいてはだめなんだよ」と母さんに言われてしまったので外には出ないことにした。

あの笑みがこちらに向くと想像すると………ではなくて、母さんが俺のことを心配してくれているのだとよく分かったからここは素直に従っておこうと考えた。


それにまだ小さいということは大きくなれば外に出てもいいということなのだから少し位我慢をしてもいいだろう。

なので、今は家の中を無差別に歩き回ったり、物を持ち上げたりして筋力や持久力をより高くしようと努めている。

わくわくと期待した眼差しを父さんに向ける。

すると、まだ落ち込んでいた父さんはそれだけで復活を果たした。その眼は気合いに満ちていた。


「さあ、ナツトお父さんと一緒に遊ぼうか!家じゃ少し狭いから外で遊ぼう!」

「うん!!」


俺はうれしそうな声で返事を返す。


「(子供パワーってすごいな………)」


父さんのことをちょろいと思ってしまったことは秘密にしておこう。

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