第6話 黄昏時ー三日月の晩
人が死にます。ご注意ください。
これが一応初戦闘回です。
変更点 調教師→調教士
辺り一面が夕焼けと同色の色に染まっている。
彼は作り物の顔を困ったように歪ませながら、太陽が地平線の彼方へと消えていくのを眺めていた。
夕焼けの色に交じって見えづらくなっているが、彼の足元は鮮血で真っ赤に染まっていた。
近くにはバラバラにされた、または何かに押しつぶされたかのようにミンチに変えられたピンク色の物体。
それは元をただせば生物だったのだが、今は見るも無残な姿に変えられて何だったのかは想像することができない。
何かの生物が挽肉やブロック肉に変えられてしまったのはひとえに彼の八つ当たりに過ぎない。
いつもならば彼はほぼ五体満足の肉体としての形を残したまま殺すことを好む(けれど、自分から殺しに行くことはほとんどない)が現在も含めてあの時彼は、どうしようかと頭を悩ませ、どうしようもないと軽く絶望していたのだ。
彼は………いや、彼らは主において行かれてしまったのだ。彼らとて自身の主が無念であったことぐらい知っているし、同時に当の昔に諦めていたのも知っていた。しかし、こうしていざ、別れがやってくると感情は理性を振り切ってしまうものなのだろう。
結局は今も現実を何処かで認められず既に何か月も彷徨っている。
確かに、現実は非常にも彼らの主がもういないことをしっかりと教えてくれている。
日に日に自身を動かすエネルギーとなる魔力が少なくなっていくのを感じていく。一応彼も生物なので大気中に含まれた魔力を取り出して補給することはできるが、それは微々たる量でしかない。
自然の摂理に反し無理矢理進化の道を切り開き生み出された彼らは、種族的に規格外の力を身に宿す代わりに普通の生物と違い自信を構成するために必要な魔力を十分に取り出すこともできないのだ。
ぐるぐるぐるぐるとめどなく同じところを巡っては空回りする思考。彼が思考の波間を漂っていた時。
その時に不意に現れた刺客。
自分がそう簡単に死ぬわけにはいかないことは分かっていたので相手を殺すしかなかった。
もちろん逃がすことなんて論外だ。なぜなら……
「やあ、自動人形。君はここで一体何をしているんだい?」
彼の思考を中断させるように唐突に声がかかる。
その声は字面だけを見ればかなり馴れ馴れしいが、声にはわずかだが怒りが宿っているようだ。
彼はこの声の持ち主が彼の近くにやってくることに気づいていた。知っていて無視していた。
声の持ち主に見覚えはなかった。
声の持ち主は金髪に青の瞳を持ち、中々に整った顔立ちをしている青年だった。さらに言うならば、かなり正義感が強そうだ。服は動きやすそうでなおかつ丈夫に作られた木綿の服にズボン。身体の一部のあちこちに魔物の皮や殻をつけて頑丈さを増している。
「ただ、夕日が沈んでいくのを見ているだけですよ」
彼に答える義務はなく無視することもできるのだが、彼は真面目なので律儀にそう返した。
「ふうん、感情を持っていない自動人形が夕日を見て感傷に浸っていたと?それを僕が本気で信じるとでも?これでも僕は魔物調教士の中でも数十年に一度と言われている天才なんだよ。魔物の知識で劣っているわけがないだろう。君は僕を馬鹿にしているのかい?………それよりも君の足元に転がっている肉片は何だい?」
怒りの色を隠しながら青年は彼に問う。
別に彼は隠しているわけではないので素直に答えてあげる。
「人間の肉ですよ?1人は15歳ぐらいの少年。もう一人は、少年よりも3歳ぐらい年上の少女。少年と兄弟なのか顔立ちはとても良く似ていましたよ」
何ともないように彼は言う。自分が殺したと。その作り物の顔には当然のように何の表情も写ってはいなかった。
そして、それを聞いた青年は目に見えて分かるように顔を紅潮させ、憤怒の形相をする。
「この場所で通りかかった旅人や商人、冒険者など人を次々に襲っている魔物というのはやはりお前だったか………」
青年は何やら怒っているが、勘違いをしているようなので彼は教えてあげることにした。
「別に人を襲ってはいませんよ。逆ですよ被害者なんですよ?襲われるから殺しているだけなんですよ」
「ほとんど魔力が残っていない、死にかけの魔物の癖にしらばっくれるというのか!第一そこに転がっている肉片がお前が人を襲っている最大の証拠でしょう」
「(この、青年は何を考えているのだろうか?さっきから襲われたとしっかり説明しているのに聞いてないのか?)」
確かに、彼は全く人を襲っていないわけではない。しかし、彼が襲っているのは盗賊や山賊といった類の主と同じ裏側の世界の人間だ。彼らは基本悪人であるし、自身がいつ死んでもおかしくないと自覚しているはずなので、別に襲ったて問題ないし、悪人を減らしているのだから一般人からは感謝されども、怒鳴られる理由が分からない。
「ああっ、もういい僕がお前を殺してやればいいだけの話しだ。殺してやる。出てこいっ魔物たち」
彼の心中が偽りの顔にも出ていたのだろうか。青年が吹っ切れて戦いの準備を始めている。確かにこの偽物の顔は便利だが、内面が表情に出てしまいやすい。もうちょっと工夫しなくちゃなーと思いながら青年が魔物を呼ぶのを待っている。
さほどの間をおかずにやってきたのは、青年よりもはるかに大きい空飛ぶ獣だった。
その獣の種族は『動物混合獣』という。様々な種類の動物の部位がいろんな場所に乱雑にくっつきあい混ざり合った、混沌とした姿の中にも洗練を感じさせる異様の化け物である。
その特徴は自身の身体に使われている動物の部位の力を自由自在に使いこなすこと。今のように背中に生えている鳥の羽を使いこなし空中を飛ぶこともできる。それと、異常なまでの食欲に支えられた驚異的な自己回復能力である。
この混合獣と呼ばれる種族はとにかく何でも食べてしまうのだ。
生物はともかく、毒などの危険物、土や鉄などの無機物までとにかく何でもくらっては自身の力に変える。
混合獣とはそういう生き物なのだ。
そんな混合獣が彼の目の前には3体。
普通なら絶望的だと思うだろう。事実青年は彼が勝ち目のないのを確信しているかのように自信ありげな表情を浮かべている。
彼は思わず、青年のことを心の中で嘲笑ってしまった。それに反応して作り物の顔が嘲笑を浮かべる。
なぜなら、この青年はまだ勘違いをしているのだ。
確かに現在、彼は自動人形の姿を取っている。自動人形は生まれ落ちた瞬間からこの時代では絶対にありえない技術を身に宿している。それは精密であるがゆえに打撃攻撃に極端に弱い。
だから、獣の身体能力を生かして物理攻撃を得意とする混合獣をぶつけてくるのは正しい選択でもある。
しかし、それは彼が本当に自動人形であった場合のみだ。そこを読み違えていることにも気づかずに、自信満々に堂々としている少年が妙におかしくてしょうがないのだ。
そして、彼は仮にも世界最強とまで言われた『幻』の詠唱者から生み出された六体の魔物のうちの一体なのだ。その実力はやはり世界トップクラス。
高々、『動物混合獣』3匹とその他では相手にならない程の力を持っている。
彼が嘲笑っていることに気が付いたのか更に顔を憤怒にゆがめて、混合獣たちに攻撃命令を下す。
「殺せっ!あの自動人形を殺すんだっ!」
その声に反応して3体の混合獣が彼に向って飛びかかってくる。
しかし、彼は混合獣のことを気にもせずに、夕日によって作られているいくつもの影のうちの一つに向かい腕を向ける。
一瞬にして形を刺突に特化した槍の穂先の形に整えられた彼の腕は、ぐんぐんとすさまじい勢いで伸びていき、最初は1.2mぐらいの短槍程度の長さだったものがあっという間に7m近いパイクと同じぐらいの長さになり、勢いをつけながら更に真っ直ぐと伸びていく。
普通だったら体の一部分が大きくなると重心が崩れてしまうものなのだが、彼は全く重心を崩さ無いように器用に立っていた。
青年は彼の突然の行動に唖然としていたが、彼の腕が伸びていく方向に何があるのかを気付き顔を青ざめさせる。
そして、彼の腕は無慈悲にそれを貫き、そこで止まらずにくいっと急に折れるようにして曲がるともう一体のそれを貫く。
そこにいたのは2体の異形。いったいは完全に胸を貫かれて息絶えているが、もう一体の方は腹を貫かれただけのようなので行き絶え絶えながらもまだ生きていた。
胸を貫かれて死んでいる魔物は『一つ目巨人』という魔物で4mを超える強靭な肉体から成る攻撃力と防御力の高さが売りの魔物である。
あまり知能は高くないが簡易な自己再生能力まで備えていて、前衛としては中々に優秀である。
まだ生きているもう一体の魔物は『影の運び屋』という魔物である。全身が真っ黒な人型の魔物で、隠密性が高く素早さも器用さも高いためよく後方支援や遊撃手として活躍する魔物である。また運び屋の名の通りに自身の体内に取り込むことによって一度に運べる物の量は一流と言えるほどである。
普通運び屋が影に潜んでいたらまず気づかない。更にこの個体は用意周到なことに自身に魔法をかけて認識しづらくしていたのだ。
そして、運び屋は荷物として一緒に運んでいた巨人を彼の近くに取り出そうとしていたのである。
確かに運び屋の隠密性は一流だが、彼の同僚には運び屋では足元にも及ばないぐらいの隠密性を誇る奴がいるのであった。
だが、それを見慣れてしまった彼からすれば温いとしか言えない。
彼は青年たちがやってきていた段階で既にもう知っていたのだから。
最初に現れた混合獣もこの運び屋が一緒に運んできたのだ。
彼は魔物たちに突き刺さった自身の腕をもとに戻す。
ブシュっと勢いよく魔物の身体から抜けた腕はあっという間に自動人形の形に戻っていった。
今まで刺さったままの腕に支えられていた一つ目巨人の巨体が崩れ落ちる。
胸の傷跡からはだらだらと毒々しい紫をした血が流れ出す。
倒れ伏している影の運び屋からは自身の身体と全く同じ色をした血液が流れている。
運び屋も放っておけば勝手に失血死しそうだが、万が一にも回復をされてしまったらたまったものではないので、彼は運び屋にとどめを刺し、確実に息の根を止めることにした。
自身の使えるいくつかの魔法のうち、『金属性』の下級魔法【鉛針・通常】を改良して殺傷能力を高くした、【潰頭鉛針・強】を使用することにした。
この魔法は、針の材料である鉛が柔らかすぎるため相手に深い傷口があるときにしか使えないが、その傷口に刺されば針がさらに潰れていき、周りの肉を巻き込んで貫通していき、少ない魔力で大きなダメージを与えることができる凶悪な魔法である。
詠唱は下級魔法なので詠唱をある程度省略すればものの数秒で終わる。
「『常より強き軟で重き毒金が、頭潰れし針となりて貫いた』」
「【潰頭鉛針・強】」
彼は込める魔力を多くして、複数の針が出現するようにする。
彼の身体から何かが抜けていく感覚とともに空中から10本の針が出現する。
針とはいっても、その先端は全てが潰れている。
その頭が潰れた針を影の運び屋の深く傷ついた腹部に照準して発射する。
一斉に飛んでいった10本の針は運び屋の腹でベチャッという針自体が潰れる音を立てて周辺の肉を巻き込み抉り取っていく。
運び屋の腹部の裂傷は胸を切り裂き喉にまで達した。黒い血の流れがより多くなっていく。重要な器官のいくつかを破壊された影の運び屋はそのまま命を散らした。
ここまでの間に1分がようやく経った。
その間、彼以外誰も動くことができなかった。
ゆっくりと彼は、3体の混合獣と青年を見た。
ひっと青年の口から悲鳴がこぼれる。さっきまでの自信はどうしたのやら、そのままへなへなと腰を抜かして座り込んでしまった。
そんな主のふがいない姿を目にして、3体の中でもリーダー格と思われる狼と獅子、山羊の頭を持った混合獣の瞳に使命の炎が宿る。
それは自らの主を自分の命を賭したとしても守ろうという使命。
主のふがいない姿を見ても、いや、ふがいない姿を見てしまったからこそ何がなんでも守ってみせるという確かな忠誠がそこにあった。
それを混合獣の瞳から読み取った彼は素直に感心する。
だから、今までの遊びではなく少し本気で相手しようと考えた。
思考が完全に戦闘用に切り替わる。
次の瞬間、ある程度まで抑えた殺気を放つ。
びくっと混合獣たちがおびえ身体を震わせるのが視界に映った。
だがリーダーだけは決して諦めようとはしなかった。
震えてうまく動かない身体でもその時持てる全力をもって彼に体当たりをしてきた。
彼にとってもそれは意外なことだった。
抑えたとはいえ動物混合獣では完全に動けなくなるぐらいの殺気を放っていたのだ。
まさか、動けてしかも体当たりをしてくるとは思いもよらなかった。
しかし、戦闘に切り替わっている彼の前では、意表を突く程度では決して届くことはない。
彼は混合獣の体当たりを大きく避けて、同時に腕を切断特化の刀型に変えて混合獣の頭に向かって切りつける。
一息の間に3回振られた腕は何の問題もなく頭を全て落とした。
刃は混合獣の肉体に死を与え、魂を壊し吹き散らした。
ロングソードの形に変化させた腕を振るう。
ごとりという音とともに首が落ちた。
どくどくと流れていく赤い血液。
生気を失くした虚ろな目が彼の偽物の顔を見上げる。
視線が一瞬交差する。
彼はすぐに視線を外し、地平線の彼方を見る。
あの後、戦意を急速に失っていった残りの混合獣2匹と青年の首を落としさほど時間をかけずに殺しつくした。
もう太陽は沈んでしまっていた。だが、完全には沈み切っていないようで地の彼方はまだ黄昏に染まっていた。
沈みゆく太陽を見ていた時、彼は諦めようと思っていた。創造主にもう会えないということは分かっていた。
だが、ほんの少しの時間でその意識は変わっていた。決して諦めてはいけない。
もちろん瞼の裏には彼が絶対に勝てない強者であると知りながらも果敢に挑みかかってきたあのリーダー混合獣。
そう、彼はあの混合獣に諦めないことの素晴らしさを見た気がした………
月が昇ってきた。雲一つない夜空の上でほっそりとした弧を描き冷たく輝いている。
奇しくも今日はあの時と同じ三日月だった。
彼はその月を穏やかに見つめる。
以前は主が逝ってしまった時のことを思い出し恨めしく思っていたが、今日は何故だか穏やかに見ることができた。
ゆっくりと時が流れていく。
ふとそれに気が付いたときに彼は嘘だと感じた。
魔力の経路が再び開いていた。彼らの主と全く同じ波長の魔力がゆっくりと彼の全身を覆っていく。
それは彼らの主から再び魔録の供給が行われ始めたことを示す証だった。
それから彼は能力を全力で使い主を探したが、結局この世界にはいないことが分かった。
おそらく別の世界にいるのだろうということはわかった。
だが、彼には次元を超える方法などない。そんなことは彼らの主にも不可能なことだろう。
だが、彼は一人だけ心当たりのある人物を知っていた。
それは、彼の能力の一部を作った人物でもある。
彼は主とその人物の共作で、どちらからも最高傑作と花丸を言い渡されたのだ。
その人物は『付与王』。
彼らの主の養祖父にあたる人物であった。
この世界では、各属性の最上位に位置する魔法の一つに魔物を創り出す魔法が存在します。しかし、その魔法は完璧なものではなくオリジナルの種族を作り出すことができずに既存の種族を改良した魔物を創造するだけのものです。
謎の魔物が使っていた魔法のイメージとしてはライフル弾の一種であるホーローポイントですがそこまで科学技術が発達していないので全部鉛を使っている針ですし、穴も開いてないで潰れてます。
魔物のステータス
動物混合獣
Lv185×2Lv190(狼、獅子、山羊の顔を持つリーダー格の個体)
命40000~45000 魔力30000~32000
筋力6000~6500 耐久5500~5700 敏捷8000~9200 器用3400~3800
知能2600~2800 精神4500~5000 持久50000~52000
一つ目巨人
Lv200
命100000 魔力20000
筋力9400 耐久9000 敏捷3800 器用6000
知能4500 精神8700 持久79000
影の運び屋
Lv180
命20000 魔力65000
筋力4000~10000(物を運ぶ最中のみ) 耐久3000~10000(物を運ぶ最中のみ) 敏捷4500~10000(物を運ぶ最中のみ) 器用9500
知能7300 精神5000 持久40000~100000(物を運ぶ最中のみ)
話しの中ではあっという間に殺られてしまいましたが一般人としてなら普通に強いです。
影の運び屋はこの世界では、物を運んでいるときだけは絶対に襲ってはいけない魔物として有名です。無駄にステータスが高くなっています。




