第13話 参加賞につられて(オリエンテーリング編)
公園の入り口に、赤い旗が立っている。
「紅葉オリエンテーリング」と書いてある。
参加賞があるらしい。
受付の机の向こうに、段ボール箱。
小さなリスのマスコットが入っている。
「歩けばもらえるんですよね」
受付の人がうなずく。
地図を受け取る。
赤い葉が、足元に落ちた。
地図を開く。
一番近いのは①。池の横。
歩き出す。
落ち葉が、ぱり、と鳴る。
子どもが先に走っていく。
スタンプ台は、思ったより小さい。
ぽん、と押す。
もみじの形がくっきり浮かぶ。
②は橋のたもと。
足元の板がきしむ。
子どもたちがスタンプ台に群がっている。
少し離れたベンチに、スーツの男。
黄色い葉を、指先でくるくる回している。
「……退職願だ」
――いた。
三上灯馬。
「何がですか」
三上は葉を掲げる。
「これだ」
「葉っぱですよ」
「黄色は、仕事をやめた色だ」
「木の仕事ですか」
「そう」
三上は葉をひっくり返す。
「じゃあ、赤は」
三上は少し考えてから言う。
「……最後に派手に辞めるやつだ」
紅葉より、三上の方が目に入る。
「普通に楽しめないんですか」
「楽しんでるよ」
三上は木の方を見る。
「あれが邪魔なだけだ」
木の根元に、青い自販機が立っている。
「補色が主張しすぎる」
「退職願の横でカップ麺をすする上司だ」
そう言って、三上は地図に何かを書き込む。
「③は坂の上だな」
歩き出す。
気になって、地図をのぞく。
自販機の位置に小さな印。
その横に、『景観ノイズ』
……地図の用途が違う。
「序盤に坂を入れるのは、悪くない設計だ」
「身体を使わせると、参加した実感が出る」
「実感、最初からありましたけど」
「それは主観だ」
三上は坂の上を見上げる。
「イベントは、主観を均一にする装置だ」
意味が分かるような、分からないようなことを言う。
それから、いくつか回った。
三上の地図は、もう地図ではなかった。
最後のポイントで、スタンプを押す。
ぽん、と音がして、リスの顔が浮かぶ。
……少し薄い。
ここまでのスタンプより、頼りない。
三上が覗き込む。
「定着が甘い。スタンプは、達成感の定着装置だ」
「……それでも、記念です」
「記念は副産物だ」
受付で、参加賞を受け取る。
段ボール箱の中から、小さなリスのマスコットを渡された。
ほっぺがふくらんでいる。
どんぐりを抱えている。
手にしてみると、かわいくてうれしい。
三上はそれを見る。
「これも装置だ」
「マスコットです」
公園の木々は、赤と黄色のあいだで揺れている。
三上の地図は文字で埋まり、わたしの手にはリスがある。
……参加した実感は、ちゃんとある。




