第12話 観終わったあと(映画館編)
映画が終わって、場内が明るくなった。
わたしは立ち上がれなかった。
頭の中が、まだ追いついていない。
難しい映画を観たあとは、すぐ動けない。
ロビーに出て、パンフレットを買った。
待合スペースの椅子に座って、ぱらぱらとめくる。
図解が多い。
場面のつながりとか、人物の動きとか、時系列の整理とか。
読んでいるうちに、さっき引っかかった場面の意味が分かった。
なるほど、と心の中でつぶやいた。
「設計がいい」
声がして、顔を上げた。
――いた。
すぐ近くのテーブルで、パンフレットを開いている男。
見覚えのある横顔。
三上灯馬だった。
真剣な顔でページを追っている。
「時間の流れの整理が正確だ。観客の混乱を回収する設計になっている」
そう言ってページを閉じると、三上は立ち上がった。
嫌な予感がした。
案の定、売店のカウンターへ歩いていく。
「このパンフレットは、任意販売にしてはいけない」
いきなりだった。
スタッフが少し戸惑う。
「……は?」
「これは資料だ。作品理解に必須だ。任意にすると理解度に差が出る」
三上は振り返って、ロビーを指さした。
「上映後の動線がよくない」
「パンフレット売り場が遠い。出口から三十歩以上ある」
「……はあ」
と、スタッフが曖昧にうなずく。
「人はね、三十歩を越えると、買う理由より帰る理由が勝つ」
本当にあるのか、それ。と思った。
「帰る理由を考え始めると、財布は閉じる」
なぜそんなことを断言できるんだ、この人は。
でもたしかに、これがなかったら分からなかったかもしれない。
パンフレットを閉じながら、そう思った。
わたしはそのまま出口に向かった。
あの人は、たぶん、しばらく終わらない。
外に出ると、通路の向かいにゲームセンターがあった。
クレーンゲームのガラス越しに、ぬいぐるみが見えた。
大きいのが、山みたいに積まれている。
……一回だけ、と思った。
一回やった。
取れなかった。
もう一回やった。
少し傾いただけだった。
財布を見て、迷う。
……両替をした。
戻ってきて、さっきと同じ台の前に立つ。
クレーンが、ぬいぐるみを少し揺らして戻る。
「取れないなあ……」
後ろから声がした。
「その台は、取りにくい配置だ」
振り向く。
……三上灯馬。
もう終わったのか、この人。
「重心がずれてる」
三上はガラス越しにぬいぐるみを見て、首を傾けた。
「アームの強さは関係ない。支点と重心だ」
そう言って、ボタンを押す。
アームは、ぬいぐるみを持ち上げなかった。
横から、押した。
山が崩れて、一番手前の一体が落ちた。
「……取れましたね」
「当然だ」
ぬいぐるみを差し出しながら、三上は言った。
「昔、重心の三上と呼ばれていた」
誰にだろう、と思った。
三上はガラスの中を見たまま、続けた。
「まっすぐ掴むと失敗する。少しずらすと世界は動く」
……クレーンゲームの話をしているはずなのに、なぜか別のことを言われている気がした。
この人は、たぶん、いつもそうやって生きている。




