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第10話 バイトの日(再びコンビニ編)

バイトに入って三十分。


店は、いつも通り明るい。


冷蔵庫が低く唸る。

自動ドアが開いて閉まる。

レジの電子音が響く。


乱れはない。


――はずだった。


棚の商品を前に出していると、


「この店、息が荒い」


声がした。


通路の奥に、三上灯馬が立っていた。


前と同じ調子だ。


「また来たんですか」


台車の上のダンボールを見る。


ポテチでは戦えない。


「POPが多い。全部、自己紹介だ」


「だめなんですか」


「まるで面接会場だ。しかも、全員がトップバッターのつもりで喋っている」


「前に言ってましたよね。客の視線はチルドに吸われるって」


「言った」


「だから、他にも目が行くように」


三上は売り場を見渡す。


「発想は悪くない」

「量が雑だ」


棚の端を指す。


「どら焼きが叫ばされている」


「黙ってたら落とされますよ」


三上はどら焼きを見たまま言う。


「……どら焼きは静かな商品だ」


「三上さん」


「なに」


「どら焼き好きなんですね」


「黙っているやつにも、強みはある」


三上はPOPを一枚外す。


「どら焼きは中央」

「店長の一押しだ」


なんでわかった。


店長の推しだ。


わたしは中央を空ける。

どら焼きを動かす。


なんで言いなりになっているんだろう。


隣のPOPが、少し浮いて見える。


「次はあそこだ」


「どこですか」


「財布がすでに開いている場所だ」


レジ前だった。


「吸引機だ」


三上はレジ横の小さなチョコを指す。


「小型だが、強い。財布から小銭を吸う」


チョコはガムの奥にいる。


三上はしゃがむ。


「背が負けている」


「背?」


「ガムの方が高い」


「山があると、手は止まる」


三上は立ち上がる。


「低い方を前だ」


「それだけですか」


「それだけだ」


三上はポケットからノートを出す。

見覚えのある、黒い革のノートだ。


「改善案。ここに三十五個ある」


「増えてません?」


「書き直した」


「減らないんですか」


「この店は見込みがある」


三上はノートにまた何か書き始めた。


やっぱり無理だ、この人。

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