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「愛や多様性の犠牲者が誰になるか分かってんのか!」悪役顔の公爵令嬢イザベル、綺麗事で国を壊すバカどもを現実でボコす内政改革  作者: 猫目こね
イザベル十三歳。初等部二年生/イザベル十五歳。中等部二年生〜

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88話 卒業パーティーは目前




早いもので、リュシアン殿下の学年が卒業するまで、いよいよ残すところわずかとなった。

そうなると、必然的にあの卒業パーティーも目前に迫ってきているということだ。



学院内では、私の身に覚えのない『イザベルの悪行』という名のファンタジーが、日増しにその過激さを増している。




(噂のせいで、すれ違う生徒から嫌厭されている気がする…。

はぁ…私は何もやってないのに、こうやって『やった』扱いされるのってどうなの?

これこそイジメじゃない??

PTAにチクッちゃうぞ?

うちのモンスターペアレンツ(ベルドレッド公爵家)は怖いんだぞ??)




……などという冗談でも脳内で呟いていなければ、到底やっていられない。




なぜなら、ティア・ミストレイは今日も今日とて、鼻を真っ赤にして涙を潤ませながら、取り巻きの令息や令嬢たちにこう吹き込んでいるのだから。




「また…またなんです……!

昨日、私の大切な…刺繍の入ったハンカチが泥まみれにされていて…!

これはリュシアン殿下からいただいた、思い出の品なのに……っ!」





彼女の言う『ハンカチ泥まみれ事件』。




メリッサが調べたところ、実際はティアが自分で()()()刺繍入りのハンカチを泥に浸していたという。

それを示す学内の生徒の目撃証言があっさりと得られた。


ちなみに、現在ティアは完全にノアからマークされているため、彼女の周囲にはずっとノアの部下が張り付いて監視している。

そのため当然、ノアの部下も彼女が自らハンカチを泥に浸しているという謎の奇行をバッチリ目撃していた。




ついでに言えば、殿下から『いただいた』という話すら嘘だ。




ノアの部下によると、ハンカチを泥に浸す前日、城下の大通りでティア自身がその刺繍入りハンカチを購入している姿を見たという報告が入っている。


もっとも、殿下からお金だけを渡されて自分で買ったのだとしたら、ギリギリ『いただいた』と言えなくもないのかもしれない。

だが、自分で選んで買ったものを殿下との『思い出の品』と言い張るのは、流石にどうかと思う。




他にも、ティアの私物を学院の噴水に投げ入れただの、階段から突き落とそうとしただの、彼女の口から語られる私は、前世でよく目にした、すでに使い古された『悪役令嬢』のテンプレートそのものだった。




(相変わらず、よくもまあ次から次へと…。

化けの皮を被らなくなってから、こんなにも豹変するなんてね…。

人間って怖いわー。

でも…ティアのおかげで、前世でもこういう手のひら返しをする人間がたくさんいたのを思い出したわ…。

……って、思い出して納得してる場合じゃないのよ。

普通にオコだからね?有罪だからね?許さないからね??)




内心で盛大に毒づきながらも、私は彼女たちの噂話の波を、どこまでも涼しい顔で通り過ぎる。

怒っていたとしても、表に出したら格好悪い。

それが私の、大人としての品格というものなのだ。




ふぅ…。

そんなくだらない話は、ひとまず横に置いておくとして。




今回の噂に際して、意外だったことがある。

旧体制派の学生団体『新しい箱舟(レケンス・アーク)』の反応だ。


もともとは、クレス・アルケイデスが代表を務めていたが、彼が卒業した今、私とは特に縁がなかったはずなのに、なぜかティアが吹聴する噂を真っ向から否定しているようなのだ。


我がベルドレッド公爵家が旧体制派の筆頭なのだから、彼らがこちら側につくのは道理といえば道理なのだろう。

それでも、こうして自分を支持してくれる人間が周囲にいるというのは、やはり心強いものだ。






そういえば、今から一週間ほど前のことだ。






メリッサから噂で聞いていた、『金髪緑眼』のまさに王子様のような生徒―――ルクスから、不意に声をかけられたのを思い出す。




「イザベル様。くだらぬ戯言に耳を貸す必要はございません。

我ら『新しい箱舟(レケンス・アーク)』は、常に貴女様と共にあります!」




メリッサから、ルクスは『やたらと強いリーダーシップを発揮している少年』と聞いてはいたが…。




(全く接点のない私にまで声をかけてくれるなんて、随分と面倒見が良過ぎるのでは?

それとも、元代表だったクレスから何か言われているのかな?

自分が代表です!みたいな顔してるし、もう代表になったのかな…?

正直、『新しい箱舟(レケンス・アーク)』のことはメリッサに全部丸投げしてたから、現状について全く分からない…。)




「…ありがとうございます?」




咄嗟のことだったため、ずいぶんと歯切れの悪い、変なお礼の言い方になってしまった気がする。






そんな、妙に騒がしい学園の喧騒から離れ、週末、私はエルザ姉様のもとを訪ねていた。




姉様は第一子を無事に出産し、現在は子育てに奮闘している。

初めて対面したその赤ん坊は、信じられないほど愛らしかった。



ふわりとした産毛。

小さな手に私の指をそっと近づけると、驚くほど力強く、ぎゅっと握り返してくれた。

その柔らかな温もりに触れていると、私の心は不思議と凪いでいくのを感じた。




(今世を前世の延長のように思っていた時は、ただ猫と一緒に穏やかに生き直すだけの『セカンドライフ』を送れれば、それでいいと思っていたけれど…。)




赤ん坊の柔らかい頬を指先でなでながら、私はふと、今の自分の胸にある確かな熱を自覚した。



私はもう、前世の続きを生きているわけではない。



私は今、この世界を生きる私自身の意志として、心穏やかな『スローライフ』を求めている。

そして、私の大切な家族や仲間たち、さらには未来のこの国を託されていくであろう、この子たちのような新しい命のためにも。




この国を、もっとまともな国に変えたいと、改めて強く思ったのだ。





「…可愛い。本当に、未来そのものね。」





誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。




―――守るべき未来のために。

この国から、不純物を取り出すための大掃除を開始するのだ。




現在、()()()()()卒業パーティーの準備は整っている。



エドモンとルーラが集めてきてくれた各国の調査報告。

ノアとリルが完璧に揃えてくれた情報。



そして、リュシアン殿下が考えているであろう『断罪劇』を、そのまま彼ら自身の墓標へと変えるための、シナリオも。





(ティア。あなたの本当の狙いは、まだよく分からない。

けれど、あなたももう、私の敵になってしまった。

容赦はしないからね。)




ああ、卒業パーティーが待ち遠しい。

早く断罪という名のくだらない『お遊戯会』を終わらせて、この国の『大掃除』を始めてしまいたい。




(首を洗って待ってなさい。能天気な阿呆ども。)




私は窓の外に広がる王都の青空を見上げ、扇で口元を隠して静かに笑った。

私の愛するスローライフへの道は、邪魔者たちを根こそぎ刈り取った、そのすぐ先にあるのだから。




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今週不定期更新です。(目の調子次第です。すみません。)

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