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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第4章:混沌に蠢く求道者
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97.みんなでたき火を囲んで

 その日僕らが寝床に選んだ場所は、かつて村だった場所だ。ついでに言うとさっきまで盗賊のアジトだった場所で今は崩れかけた家と雑草だらけの畑が残るだけの場所だ。

 家の残骸の様子から見て、村を襲ったのは猪みたいに突進力のある魔物かな。まだ全然風化してないし、襲撃を受けてから1年と経って無さそうだ。これも近年の魔物問題の結果か。

 そんな村の風景を見て思う事がある。


「偶にはさ」

「はい?」

「こうしてのんびり旅をするのも良いものだね」

「そうですね」


 普段なら移動は訓練だ~って言って景色を見る暇もなく全速力で駆け抜けてた。だけど今回は馬車も連れてきているし他国であまり目立った行動を取るのも良くないだろうとのんびりと気になった場所に立ち寄りながら南の癒しの国を目指している。

 こうしてパチパチと燃えるたき火を囲んでみんなでご飯というのも思えばこの旅に出るまではほとんどしたことが無かったのは勿体ない事をしたかなとも思う。


「今までだったらこういう場所に見向きもせずに走り抜けてたよね。

 その場合、魔物の被害がどれ程のものかとか、ここに住んでた人達はどうなったんだろうかとか考える事は無かったと思う」

「街に寄らないのもそれが理由ですか?」

「それもあるけど、この前の騎士団とのやりとりがあったように僕らってちょっと変わってる一団だから。

 何者か正直に答えても信じてもらえない可能性も高いし。

 面倒事は少ない方が良いかなと思って」


 通り抜けてきた槍の国はそうでもなかったと思うけど、魔法の国では人間以外への差別が強いように思える。それでなくても僕らの誰か1人でも居れば街を滅ぼせてしまうくらいの実力はあるので、相手の実力が分かる人が居たら近づくだけでも警戒されかねない。


「まあ別にこの国に何かしようって気は無いから良いんだけどね。

 それよりも、今回の旅でこうして魔物に滅ぼされた村を見つけたのは3つめ。多分全国ではこの数十倍は被害が出ていると思う。

 そんな酷いのは、200年前の邪神龍が生きてた時以来だろうね」

「邪神龍が居た時代はこんなにも酷かったのですか」

「いやいや。こんなものじゃなかったよ。街や小さな国は丸ごと魔物に滅ぼされたりね。

 万を超える魔物の軍勢と戦争したりとか何度もあったし」


 そこまで言って、そういえば僕の記憶の事言ってなかったなと思い至った。ここにいる皆に伝えても何の問題もないし、むしろ知っててもらった方がいいかもしれない。


「そうそう、まだ言ってなかったけど、僕、なぜか前世の記憶があるんだ。

 正確には前々前世よりももっと前のものも。流石に全部を憶えてる訳じゃないけどね」

「そうなんですね」

「ふーん」

「えっと、ご主人様はすごいってことですね」


 うん、そうだろうなと内心思ってたけど誰一人驚かないな。僕としてはもうちょっとリアクションが欲しいななんて思ったりもするんですけど。


「私としましては、邪神龍を討伐したのはアル様だと言われても『さすがアル様ですね』くらいにしか思いません。むしろアル様以外に邪神龍を倒せる人が居るとも思えませんが」

「あ、うん」

「じゃああれだ。ゴブリン王国の始祖だったとかな」

「ごめんキャロ。アルゴスと僕は別人だよ。

 彼は僕なんか比べ物にならないくらい男前だったね」


 なぜか過去の偉人=僕じゃないか、みたいな話の流れになってしまってるけど、残念ながらそう毎回毎回歴史に名を遺すような偉業を達成している訳でもない。


「エンジュは誰か思い浮かぶ人はいる?」

「えっと、人では無いのですけど、大天使ジブリール様とかどうでしょう。

 以前絵本で見たことがあるんですけど」

「天使かぁ」


 僕の知る限り、この世界に天使は居ない。正確には生き残ってはいないというべきかな。彼らの子孫が翼人族ではないか、なんて話もあるけどそれはさておき、天使は今から500年以上前には姿を消したと言われている。そして入れ替わるように邪神龍が現れたので、当時を知る人は天使は邪神龍に滅ぼされたのではないかと噂されていた。

 実際の所は僕も知らないし、天使が居なくなったことを喜ぶ人の方が圧倒的多数だったので、歴史の中からも天使の話は消えていき、今ではおとぎ話や絵本などに残るだけとなっている。

 ただ。書物に出てくる天使と過去に聞いた天使のイメージは真逆だ。書物では慈愛の化身、平和の象徴、神の愛の伝道者といった話が一般的だ。対して過去に伝え聞いた話では人間を影で操る悪魔よりもなお傲慢なる者たちだと言われていた。

 あ、過去には悪魔族という種族も居たからね。悪魔族はむしろおおっぴらに変な言い方だけど正々堂々と他種族を攻撃していたらしい。それが良い事かどうかはさておき。天使率いる人間と戦って負けてどこかに姿を隠したのだとか。

ま、いずれにしても昔の話だ。


「父上たちは僕の過去のことを聞いて何か使命があるんじゃないか、なんて言ってたけどさ。

 過去に託された思い(こと)は幾つかあるんだけど、残念ながら僕自身の根源みたいなのは分からないんだ。

 ただ僕のやりたい事はいつだって身近な大切な人達を護りたいってだけなんだよね」


 過去があったり他の人より能力が高くたって出来る事もやりたい事も変わることは無い。僕は僕のやりたい事をやるだけだ。もし神様とかが居て文句があるならちゃんと言いに来て欲しい。


「それでよろしいのではないですか?」

「アルらしいな」

「ご主人様はご主人様です」


 有難い事に今も昔も僕の思いを肯定してくれる人が居るお陰で僕は迷うことなく自分の道を進むことが出来る。今回の人生でも彼女達の事は何があっても護り抜こう。そうすれば僕は道を間違えることはないはずだ。



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