79.粛々と魔物の討伐を進めます
~~ ティーラ Side ~~
アル様やフィディ達の出発を見送った私は後ろに向き直り残っている騎士団の皆へと声を掛けました。
「さて皆さん。アル様も仰っていたように私達の成果こそが今回の遠征の肝です。
気合を入れて行きましょう」
「「はい!」」
やる気十分な返事を聞きながら考えるのは昨日の戦いです。あれはかなりお粗末な内容でした。人数だけで言えばこちらが4倍。つまり4人で1体を囲んで正面で2人が注意を引き付けつつ残りの2人で側面から攻撃すればほぼ封殺出来たでしょう。
しかし実際には今回の遠征の初戦ということもあり、誰も彼もが武器を持って攻撃を仕掛けていました。これは先発組もです。結果として防御が疎かになり怪我人が続出。仕方なく私とキャロで1体ずつ引き受け、残りもフィディとエンジュが後方から魔物の攻撃を妨害することで何とか勝利を納めていました。
そこから考えられる今日からの戦法は。
「まずは皆さんを3つの班に分けます。
先発組から3人から4人。後発組から5人で1つの班を作ってください。
制限時間は5分です」
みんなああでもないこうでもないと話しながらも何とか3つに分かれました。一体何を話していたのかは分かりませんが掛った時間は7分。
「続いて各班から1人代表を決めてください。
これは先発組、後発組関係なく決めて頂いて大丈夫です。
ただし、家柄などは一切関係ありません。
時間は10分差し上げます」
再びわいわいと話し合った結果、1班はトールと呼ばれる先発組の男性。彼は確か先日の模擬戦でもアル様から指名を受けていましたね。私も話した印象では真面目で努力家だったと感じています。2班は後発組の、確かブラッドレーと言う人ですね。模擬戦後の騎士団残留試験で最後まで粘り続けた人です。根性だけは一人前でしょう。最後3班は、随分揉めていたようですが後発組のソンという男性。まだあまり面識はありませんが、何とかやってもらいましょう。
「さて、基本的な流れはたき火で魔物をおびき寄せる所までは昨日と同じです。
おびき寄せた魔物は3つの班の内、2班が戦闘し残り1班は後詰ないし戦闘中に追加の魔物が来た時の為の足止め役です。
各班で魔物の正面で盾を持って注意を引き付ける役、脇から妨害する役、そして魔物を攻撃する役を決めておいてください。攻撃役は先発組が担当するように。
ここまでで何か質問はありますか?」
「あの、何かもっと凄い戦術とかは無いんですか?」
「はい?」
質問してきたのは3班のソンさんですね。質問の意図が分かりませんが。
「凄い戦術というのはどういうものをイメージしていますか?」
「それはほら、敵を罠に嵌めて一網打尽にするとか凄い魔法で一掃するとか」
「はぁ」
つまりどこかの英雄譚みたいなのを想像しているんでしょうか。確かにああいったものは少数で数倍の敵を倒したり山のような化物を魔法で圧倒したりとか派手なものが多いですよね。
まあ実際にそんなことが出来る人は居ませんが。あ、いえ。もしかしたらアル様なら出来るかも?
「残念ながら私達の部隊で一番の魔法の使い手はフィディさんですが、彼女は遊撃隊に配属になりましたから居ません。それとも、実はこの中に昨日見た魔物を殲滅出来る程の魔法の使い手が混ざっていたりしますか?」
「「……」」
「居ないようなので諦めてください。
そして罠に嵌めるというのは今のこの状態がまさにそうです。
敵をこちらに有利な開けた平地におびき寄せて、来たモノから各個撃破をする。
昨日も無事に勝てましたし、あの調子なら問題ありませんのでこのまま行きます。
もし無理そうなら作戦を考え直しましょう」
最悪の場合は私ひとりで大立ち回りをすることになりますが、そうならないように彼らにも頑張ってもらいましょう。
そうしていざ作戦を開始してみれば、意外とみんなよく動いてくれます。一度に現れるのが精々5体と昨夜より少ないのもありますが、それ以上に各自が自分の受け持ちを理解したことで動きに迷いが減りました。
もちろんまだまだ魔物の攻撃を正面から受けきることは出来ませんが、それでも怪我をする程ではありません。
最初こそ大丈夫かと心配そうでしたが勝てると分かれば自信に繋がります。
結局魔物の襲撃は6回。計25体の討伐に成功しました。昨日の分も合わせれば35体。中々の戦果ではないでしょうか。騎士団の皆さんも疲れた様子はありつつも達成感に溢れた表情をしています。
あと、これは副産物なのですが20体以上も魔物を解体しているお陰で皆さんの手際がかなり良くなってます。
「おし、こっち血抜き完了」
「毛皮の剥ぎ取り出来たぞ、日陰に持って行ってくれ」
「心臓と肝臓は栄養満点だからな。間違っても傷付けるなよ!」
みなさん意外と器用です。全身を返り血に染めて働く姿は……明日から魔物の解体業者として働けそうですね。ちなみに私以外に女性が3人居ますが笑顔で肉を捌く姿に男性陣がちょっと引き攣ってます。
夕方になり、魔物の解体も済んで今日は夕飯を作って夜警の段取りをしようかと考えたところで蹄の音が聞こえてきました。
音の方を見れば先頭に馬に乗った人が3名とその後ろに200人近い武装した集団がこちらへと向かってきます。遠目に見える旗印はビガルド子爵家。どうやら王子が言っていた増援の騎士団のようですね。
彼らは私達のすぐ近くまで来ると馬から降り、チラチラと周囲を確認しながら話し掛けてきました。
「失礼。我々はビガルド子爵家騎士団である。
こちらはアルファス王子率いる魔物討伐隊で間違いないか」
「はい。そうです」
「王子にご挨拶に伺いたいので取り次ぎ願いたい」
「残念ながら現在別行動中でこちらには居りません」
「む、そうか。ではこの部隊の指揮官はどなたか」
「私です」
「……なんだと?」
それまで多少偉そうではあるもののまともに会話をしていた男性がどこか怒りの篭った顔に変わりました。今の会話でどこか気に障る部分があったでしょうか。
「……所詮は王子のお遊び部隊ということか。
よろしい。では今から私がお前達の指揮を執る」
「お断りします」
「貴様。女の癖に私に逆らうと言うのか!」
え、ああ。なるほど。
どうやらこの方は戦場は男が立つもの、もしくは女は男に従うものという若干古風な考え方をされるようですね。
「私達はアルファス王子率いる騎士団です。
故にアルファス王子以外からの命令は聞きません。
そして私はアルファス王子から指揮を任されています。
もしそれにご不満がおありでしたらどうぞ王子に直訴してください。
王子は今、山の方に調査に向かわれていますので」
私の言葉を聞いて愕然としています。なかなかに感情の起伏の激しい人ですね。
「なっ、この魔物蔓延る危険な山に入ったというのか。
どうしてお止めしなかった!?」
「止める必要性を感じませんでしたので」
「ええい、貴様では話にならん。
総員、すぐに山に入る準備をしろ!
急ぎ王子を見つけお怪我をする前に連れ戻さねばならん」
「……もう日が暮れますので今から森に入るのはお勧めしませんが」
「うるさい、貴様の意見など聞いてはおらん!」
私に怒鳴りつけ、彼らは慌ただしく森の中へと入って行きました。
その様子を静かに見送る私に仲間の騎士が質問を投げてきました。
「あの、よろしかったのですか?」
「一応制止はしました。それにアル様からも特に彼らをどうにかしろとは言われていませんし。
それよりも今夜の夜警は厳重にしましょう。
もし仮に彼らが魔物に襲われて逃げ帰って来ても大丈夫なように」
「分かりました!」
夜の森は魔物たちの狩場です。アル様やフィディさんやキャロのように森に慣れていれば別ですが、そうでなければ無事では済まないでしょう。




