75.魔物の討伐遠征に行きます
模擬戦から2日空けて、僕らはようやく魔物の討伐遠征に出発しようとしていた。
王城の正面の門が開き、僕を先頭に騎馬隊がゆっくりと中央通りを歩いていく。
今回は僕のお披露目の意味もあるからこっそりさっさと出ていく訳には行かなかったので、こんな面倒な段取りを組んでいた。
そして僕らを見る民衆の反応は、正直微妙だ。
「あの先頭にいるのが第一王子なんだって?」
「そうらしいな。だけど何というかあれだな。
ツバイク王子の方が格好良かったな」
「うーむ、服装も地味だし隊の規模も第二王子の半分、いやさらにその半分ってところか?
あれでちゃんと魔物の討伐が出来るのかねぇ」
皆が噂するように僕は特に着飾ったりはしていない。つい先日出発したツビー達はその辺頑張ってたらしいので、より僕らが見窄らしく見えるのだろう。
だけどそれでいい。ツビーに賞賛を、僕に不満を、それぞれに役割を分けることで民衆の心は安定する。
それに、この様子を見れば僕に悪意を持っている人達の溜飲も下がるというもの。このままなら何もしなくてもツビーに王位が渡るだろうと思わせておくことで、僕もツビーも安心して活動出来る。今のところツビーの邪魔をしようって人は居ないみたいだからね。
そして王都の外に出たところで僕達は馬を降りた。
「全員整列!」
「「はっ!」」
「これから遠征に出るのだけど、迅速に移動しつつ訓練もしていこう。
という訳で先発組20人は面倒だがこっそり馬を返してきてくれ」
「わかりました!」
「後発組15名は先行して馬と並走しながら次の町を目指す」
つまりどちらにしろ馬には乗らないってことだ。先発組に関してはもう馬で走るのと変わらない速度で走り抜けれるはずだし、後発組は……ギリギリまで体力を消耗させて無理そうだったら後半馬に乗せよう。
「あの、王子」
「どうした?」
「輜重の馬車2台はどうしましょうか」
「ん?あぁ。それならちゃんと考えてあるよ。
キャロ、1台よろしく」
「うん、わかった。任せてくれ」
胸を張って応えたキャロは馬車に近づくとその下に潜り込んだ。
「よい、しょっと」
「「おぉ~」」
掛け声と共に馬車が地上から離れた。あ、こうなることが先に分かっていたので繋いでいた馬たちは既に馬車から離してある。
「よっと。じゃあ行こうか」
もう1台は僕が担ぎ上げてそのまま走り始めた。
トットットット。
ドス、ドス、ドス、ドス。
「キャロ。もうちょっと軽やかに走ってみようか」
「むむ、こうか?」
トットットット。
トタットタットタットタ。
「うん、良い感じだ。その方が身体にも馬車にも負担が減るからね」
「わかったー」
「「……」」
僕らの掛け合いを呆然と後発組が見送る。って見送っちゃだめじゃん。
「ほら、みんなも早く来て。馬車を担いでる僕らよりも遅いとかあり得ないからね!」
「「はっ、はい!」」
遅れて出発した皆も何とか僕達に追いついてきた。その少し後には馬を返してきた先発組も合流して僕らはひたすら次の町を目指して走る。
途中、何組か旅人とすれ違ったけど、みんな一様に僕らではなく担がれている馬車を二度見していた。ただその頃には通り過ぎて後ろ姿しか見えなかっただろう。遠征を終えて帰ってくる頃にはこの時の姿が『空飛ぶ馬車』の噂として広まっていたのは後で知る話だ。
ともかく僕らはそんな感じで本来片道5日は掛かる道のりを3日で駆け抜けたのだった。
そして熊の魔物の被害が出ているというビガルド子爵領へとやってきた僕らはまずは領主へ挨拶に向かった。
「ようこそお越しくださいました、アルファス王子。
私は領主のカミヤ・ビガルドと申します。
こちらは妻のライラと娘のイラインでございます」
「ライラです。どうぞごゆっくりしていらしてください」
「イラインです。王子の噂は聞き及んでおります。
私と歳もそう変わらないのにもう騎士団の方と肩を並べるほど勇猛ですとか」
「第一王子のアルファスです。
短い間ではありますが、お世話になります」
特に当たり障りのない挨拶を交わす。紹介されたイラインさんは歳の頃は僕よりも1つ2つ上くらいか。あとその噂って多分、僕じゃなくてツビーのものだと思う。僕は先日の模擬戦でもほぼ何もしてないし、それ以外で一般の人達の目に付くところには居なかったから。でもま、指摘して恥をかかせる必要もない。
「ささ、長旅でお疲れでしょう。湯浴みの用意も出来ておりますのでどうぞお寛ぎください」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます」
そうしてまずは本当に挨拶だけ済ませて一度客間に下がった。ちなみに今僕と一緒に行動しているのはサラとエンジュだけ。キャロとフィディ、それから騎士団の皆は街に遊びに、もとい視察に行っている。時々忘れそうになるけど2人の人探しもしてあげないとな。ここのところ僕の都合で振り回しているのは申し訳ない。
お風呂が済めば僕だけが晩餐に呼ばれたのでサラ達は残して向かう。まあ仮にサラ達も一緒に行っても、普通の貴族はメイドを一緒の食卓に座らせることはしないので、僕らが食べ終えるまで横に控えさせるだけになっただろう。なのでこれで良かったと思う。
晩餐の最中はイラインさんが会話の中心になって積極的に僕に質問を投げかけてきた。
「アルファス様。王都はやはりこちらとは比べ物にならない程、栄えていらっしゃるんですよね」
「ええまぁ。人の多さという意味では圧倒的でしょうね」
「ああやっぱり。王都では華やかな衣装を身にまとい、甘いお菓子などを堪能しているのでしょう?羨ましいわぁ」
うーむ、何というか都会に憧れるお年頃なんだろうな。隣の子爵も若干苦笑いをしているし。ただ、子爵家の3人の姿を見ていて気付いたことがある。王子を招待しての晩餐の筈なのに、特別高価なドレスなどは身に着けていないということだ。
てっきり子爵の様子からして娘を僕に紹介して、あわよくば気に入ってもらおうと画策しているのだと思っていた。それならもっと夫人も含めてそれこそ夜会に出るような生地も厳選して宝石をちりばめたようなドレスを着せてくるのだと思ってた。
だけど実際は、確かに品質は良い品であることが見る人が見ればちゃんと分かるものだけど、デザインは地味ではない程度。そうなった理由は子爵の教育方針だと思われる。だから僕もそれに合わせた話をすることにした。
「イラインさん。確かに王都では華美な装飾を好む人たちは居ます」
「やっぱりそうなのですね」
「ですがそういう方に限って外側ばかりを気にして中身は空っぽという事も多いんですよ」
「え、それはどういう」
「内からにじみ出る輝き。つまりその人自身の魅力が伴ってこそ美しく見えるものです。
例えるなら今食べているこのステーキです。
シンプルな味付けで肉本来の旨味が良く感じられて美味しいですよね。
王都では濃厚なソースに浸して肉の味が分からなくして美味しいと言う人も居ますが、僕はやっぱりこのステーキの方が好みですね」
僕の言葉に驚いた顔をするイラインさん。そしてちょっと嬉しそうな子爵夫妻の姿を見れば、僕の話の選択は間違いではなかったと感じられた。




