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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第3章:錆びついた平和の騎士団
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74.第一騎士団の今後

 模擬戦を終えて観覧席の前へと集合する僕達。結局東軍での脱落者はゼロ。西軍は重軽傷合わせて150人近い。意外に多いなと思ったら騎馬隊が全員落馬していた。


「後半本拠地に向かって来たので、全部撃ち落としてしまいました」

「エンジュちゃんは早打ちも得意なのよね」

「ちゃんと馬さんには当てませんでしたよ」


 にっこりと笑うエンジュは可愛い。だけどたった1人で騎馬隊を壊滅させてしまったというのは敵からしたら恐ろしくて仕方ないだろうな。その頭を撫でてあげてから僕は父上へと報告に向かった。


「ご覧いただきました通り、模擬戦は東軍の勝利です」

「うむ。見事な練度であった。あれほどの騎士が多く居ればこの国も安泰であろう」

「はっ。まさにその通りです」


 公式の場という事でお互いに畏まった言い方をする僕と父上。ちょっと肩が凝るけど皆の手前頑張ろう。


「さて信賞必罰であったか。

 まずアルファスの連れて来たゴブリン、翼人、エルフの3名を正式にアルファスの側近として認めよう。

 そして先の取り決めの通り、今回勝利した東軍の騎士20名は今後の給金を3割増しとする。

 お前達、その意味は分かっているだろうな」

「「は……ははっ!」」


 東軍だった皆は少し考えて、はっとその意味に思い至った。給金が上がるっていうのは普通に考えれば昇格した時だ。つまり彼らは今後指揮官クラスとして扱われることになる。もしくは近衛騎士がちょうどそれくらいの給金だったかな?

 いずれにしても今後は給金に見合うだけ忙しくなるぞって事だ。


「そして敗北した西軍は5割減か。

 これでは騎士というより一般兵のようなものだな」

「そ、そんな……」


 困惑する声が西軍のあちこちから聞こえてくる。プライドだけは高い貴族の子息たちだからなぁ。明日からお前達は一般兵だ、なんて言われて納得は出来ないだろう。

 なので僕は予定通り助け船を出すことにした。


「陛下。私から一つ提案がございます」

「なんだ。申してみよ」

「先日議題に上がっていた儀仗隊の発足についてです。

 その隊員に彼らを任命するのは如何でしょうか」

「ふむ」


 儀仗隊。要は式典などで綺麗な格好をして剣やら旗やらを振って格好良く行進し、式を盛り上げる為の部隊。これまでの騎士団の凱旋式典も彼らが表に立ってやっていたのだろうから、まさにうってつけではないだろうか。


「悪くないな」

「お、お待ちください。それでは第一騎士団は解散となるのでしょうか」


 トールに潰されてボロボロになっていたはずの騎士団長が待ったをかけた。父上はまるでゴミを見るような目でそれを見下ろして言った。


「東軍に居た20名が残っているであろう。

 今の模擬戦で、彼らが居れば第一騎士団は安泰だと証明されたのでな。

 良い機会なのでアルファス指導の元、隊を一新するのも良かろう。

 それに勿論、西軍の者たちも希望者は騎士団に残留することを許可する」

「「ほっ」」

「ただし!」

ビクッ


 残留できると知って安堵しかけた騎士団員たちにピシャリと言い放つ。


「魔物の活動が活発になっている今、騎士団にも魔物討伐に積極的に参加してもらうことになる。

 ときにアルファス」

「はい」

「仮にこの者らが全員残留したとして、その東軍の騎士と同程度の力量を身に着けるのにどれほど掛かる?」

「2か月ほど頂ければ。

 この20人に課したものと同程度の訓練に耐え抜ければ、立派な騎士になること間違いなしです。

 ただ少々厳しい内容になっていますので、残留を検討している方には今日の午後に体験する機会を設けたいと思いますが如何でしょうか」

「よかろう。そのように取り計らえ。

 騎士団に残らぬものは来月から儀仗隊に配属とする。

 以上だ。

 皆、模擬戦ご苦労であった」

「「ははっ!」」


 有無を言わさず父上は退場していった。

 父上を見送った後、僕は早速騎士団に残留希望者を募ってみた。その結果、希望したのは200人程。……意外と多いな。見たところ特に目立った汚れがない、つまり模擬戦では特に活躍しなかった人たちが中心みたいだ。それならそれでいい。

 午後になって僕たちは彼らを引き連れていつもの山林へと向かった。


「さて、これから20人ずつの班に分かれて山道を走る訓練を行います。

 これは今後の騎士団の基礎訓練、毎朝の日課となります。

 体験会の今日はゆっくり行きますが、途中で棄権したくなった場合は渡した白旗を上げて撤収してください。

 何か質問はありますか?」

「はい。あの、この腰のロープは何でしょうか」

「森の中で迷わないようにするための牽引ロープです。

 先導者となる騎士がそのロープの先を持って皆さんを誘導します。

 あ、決して逃げない様にする為ではありませんので安心してください。白旗を無くしてしまった人は自分でロープを外すことで同じ意味と受け取ります。

 他にありますか?

 無ければ時間も限りがあるので早速行きましょう。

 ではトールの班から行ってらっしゃい」

「はっ。行ってまいります。

 さあ皆、行くぞ」

「「お、おう!」」


 順番に5メートルほど間隔を空けて森の中へと入って行く。

 そして、山道に差し掛かる頃には白旗を上げて戻ってくる者が続出していた。僕はその人達にどうだったか聞いてみた。


「森の中を普通に走るのと同じペースで走るとか正気じゃないから」

「休憩も無しに20分以上走り続けるとか無理だろ」

「途中魔物が出てきたけど俺ら武器とか持ってきてないし逃げるしかないんだけど誰も助けてくれないんだ。酷くないか?」


 えっと、うん。騎士なのに武装してないのはなんでかなと言いたくなったけど僕からはノーコメントで。ただ白旗を上げた時点で騎士団への残留は却下だ。

 結局、参加者200名中、白旗を上げた者185名。日が暮れるまでに戻ってきた者14名。


「皆は先に戻ってて」

「アル様は?」

「最後の一人を待つよ」


 現在山の中にはあと1人、ティーラに付き添われながら白旗を上げずに粘っている者がいる。戻ってきた者たちの情報によると、途中で魔物の襲撃に遭い足に傷を受けたそうだ。無理をして後に響くほどの重傷では無いものの、今は拾った木の枝を杖代わりにして何とか戻ろうとしているようだ。


「一応棄権するようにと伝えたのですが首を縦に振りませんでした」

「命の危険がありそうだったら回収してあげて欲しいけど、足を動かし続けている限りは手を出さない様にね」

「はい」


 白旗を上げるかどうかは本人が決める事だ。

 大変で自分には無理だと早々に諦めた185名と、死力を尽くして粘る1名。比べること自体失礼だな。

 そうして、日付も変わろうという時間になってようやくその姿を現した。ボロボロではあるものの、目は死んでいない。


「第一騎士団所属、ブラッドレー。ただいま、帰還致しました」

「ご苦労様。傷の治療を受けてゆっくり休んで。明日も早いからね」

「はっ」

「ティーラ。彼を送って行ってあげて」

「分かりました」


 その場で崩れる彼を支えつつ、僕らは撤収した。

 こうして新制第一騎士団、後のアルファス騎士団は35名からスタートすることになった。



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