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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第3章:錆びついた平和の騎士団
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72.閉店後の会談

 深夜。酒場の中はさっきまでの喧騒が嘘のように静かになり、店内には僕とティーラの他はマスターと、ティーラと勝負してた給仕の子だけが起きていた。

 僕らは1つのテーブル囲んで座りつつのんびりお茶を飲んでいた。


「ずずっ。はぁ。いてて。

 中和剤は飲んできたんだけど、お酒は程々に、だね」

「大丈夫ですか、アル様?」

「うん、軽い二日酔いだから」


 頭痛に頭を抑える。当日に二日酔いとはこれ如何に。あ、日付は変わった頃だからいいのか。

 ともかく、どうやらこの肉体もお酒には強くないっぽい。


「それより、急に来て騒がしくして悪かったね」

「いえ、近々いらっしゃるとは連絡を受けていましたので。

 もっとも。初めの一杯は断るか受けて倒れるかのどちらかだと思っていましたが。

 もしかして以前にもあれを飲んだ経験がお有りで?」

「いや、流石にあそこまで強いお酒はないよ」


 営業中とは打って変わって恭しく受け答えするマスター。恐らく彼が第一騎士団の団長なのだろう。


「改めまして第一騎士団裏の騎士団長兼酒場のマスターのラバックです」

「同じく副団長のチェッタです。

 それと今日店内に居たのは全員団員たちです」

「そうなんだ。よろしく。

 それと公式の場で無ければ敬語などは不要だから」


 やっぱり。一般人と言うにはみんな身のこなしがしっかりしてたし、そうなんだろうなと思ってた。ま、違ってもやることは変わらなかったけど。

 挨拶を終えてチェッタさんは改めてティーラを見て微笑んだ。


「それにしてもティーラさんは強くなったわねぇ」

「あ、はい。ありがとうございます。

 って、私のことをご存知だったんですか?」

「王子のお供にあなたを推したのは私ですから」


 ティーラを推した理由を聞けば、入団当初から素直で真面目な子が入って来たと噂になっていたそうだ。気になってこっそり様子を見ればなるほど、扱う槍捌きは教科書から抜き出してきたかのようだ。言い換えればまだまだ実戦むきではないのだけど、筋が良いのは分かる。何より変な癖が無いのは良い。

 そこへ僕の護衛の話が急遽持ち上がった。選抜する護衛の条件は変な思想や後ろ盾がないこと。候補としては何人か居たそうだけど、歳も近いしという事でティーラが選ばれた。


「結果としてあなたを選んだ私の目に狂いは無かったようね」

「うん。僕もティーラが護衛で良かったと思ってるよ」

「はっ、光栄です」


 まあ今でもちょっと真面目過ぎるきらいはあるけど、そこは彼女の持ち味みたいなものだから今のままでも良いかな。


「さて、ラバック団長は模擬戦の話は聞いてる?」

「ええ。タージ殿が喧伝して回ってましたから」

「あ、そう」


 騎士団内の模擬戦なのにそんな言い触らして何がしたいんだろう。聞けば僕が王家の者ならば10倍の兵力が相手であっても余裕で勝利できると第一騎士団の詰所にて豪語したので、ちょっと世間の厳しさを教えて差し上げるのだとか。

 まあそこまで嘘ではないかな。随分と誇張した言い回しではあるけれど。


「まあ話が行ってるなら早くて助かる。

 ラバック団長を始め、裏の騎士団員には不参加をお願いしたくて来たんだ」

「ふむ。勝算はあるようですね。というよりも私どもが居なければ彼女1人で無双できるのでは?」


 うん、実はそうなんだけどね。あ、でも峰打ちとなるとちょっと大変か。それにほら。


「僕らは直接手は出さないつもりだ。

 代わりに表から引き抜いた20人を今急ピッチで特訓中なんだ」

「ほぉ。あの穀潰し共の中に使える人材がまだ残っていましたか」

「うん。まだ1人も脱落してないし凄いと思ってるよ」


 僕の予想では最初の3日で半数は逃げ出すと思ってたんだけど、なかなかどうして。良い意味で期待は裏切られてしまった。


「出来れば今度、その指導のコツを教えて頂きたいものですな。うちでもちょっと厳しくすると泣き言を言いだす奴がボロボロ居ますので」

「うーん。僕も何が良かったのか分かってないからなぁ」


 いつの時代も教育というのは難しいものだ。


「それともう一つお願いがあるんだけど。どっちかというとこっちが本命」

「なんでしょう」

「第二騎士団の遠征を支援してあげて欲しい。具体的には生きて帰れるように撤退を支援してあげて欲しい」

「それはまた」


 騎士団としてのプライドとかもあるから表立って助ける訳にはいかないだろうけど、敗走してる所に偶然居合わせました、なら向こうも文句を言う気力は残っていないだろう。


「向こうも裏の騎士団が先行して動くはずですが、それでも厳しいと?」


 その質問には答えずに僕は別の質問を投げかけた。


「……鬼人化薬って聞いたことあるかな」

「噂程度には。最近裏ルートで危険な薬が出回り始めているという話は聞いています。それが?」

「名前の通り鬼系の魔物には特に効果があると思ってる」


 あれは魔力による純粋な身体強化を強制させる薬だ。そういうのは普段魔法を使わない種族の方が効果が高いし、多少なりとも知性がある者が使った方が必要な部位を集中して強化出来たりするだろう。故に人間が使うよりもゴブリンやトロルなどに使った方が効果が見込める。

 今回の魔物騒動がウェアウルフの時と同じ原因なら、今のゴブリンは弱めの鬼族に近い実力になるだろう。つまり今の表の騎士団に勝ち目はない。


「遠征そのものを取りやめるというのも手ではあるんだけど、僕が彼らに言ってもツビーの手柄を邪魔する気かと言われるのが目に見えてるし、ちゃんと痛い目を見ないと理解はしてくれないだろうからね」

「馬鹿は死んでも治らないとも言いますが」

「ま、その時はその時だ」


 撤退の判断が遅れたら全滅もあり得るかもしれない。その為にツビーの護衛は手厚くするように父上には頼んでおいたので、最悪ツビーだけは逃がしてくれるだろう。


「皆には表立って報酬とか出せないんだけど、代わりに帰ってきたら僕から美味しいごはんとお酒を提供するよ」

「ははっ。彼らには何よりの報酬です」


 笑って快諾してくれるけどどこまで本気なんだろう。

 と、そこでラバック団長が真面目な顔をした。


「ただ王子、一つお気を付けください」

「なにを?」

「『どんなに馬鹿でも大事な我が子』という言葉があります。

 今回の遠征で多数の死者が出た場合、貴族連中の恨みを買う事になりかねません」

「まあそうだろうね。

 今でもツビーを次期王にする為に僕の足を引っ張ろうと暗躍している人達がいるのに、僕が主導した案件で死者が出て失敗したとなると風当りが厳しくなるか」


 仮に第一騎士団の遠征が成功して第二騎士団の方は失敗したとなっても、僕がわざと難しい方を第二騎士団に回したんじゃないかって言われることになるだろう。僕としてはツビーが悪く言われないなら大して問題じゃないんだけど。



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