63.王都で朝練
父上と話をした翌朝。僕達は揃って第一騎士団が普段使っている訓練所へと来ていた。
「……誰も居ないぞ。場所間違えた?それとも今日は休みか?」
「いや、場所はここで合ってます。騎士団が丸ごと休みということもありえません」
だけどキャロの言う通り誰もいない。ちゃんと日の出を確認してからゆっくり来たので早すぎたってことも無いだろう。昨日の内に今日の朝練に僕も参加すると伝えてあるので入れ違いで遠征に行ってしまったということも考えられない。
ではこの状況は、まさか全員夜逃げした?
「あの、アル様。単純に早すぎたんだと思いますよ?」
「え、だってもう朝もだいぶ過ぎてるし。
父上だって起きてる時間なのに」
「むしろ陛下が激務過ぎるのだと思います」
王様って物語の中だと華やかなイメージがあるけど実際には国の最終決定機関なので責任も重く仕事量も並の文官数人分はある。華やかなのは極々一部、それも楽しくない公務の場合がほとんどだ。
そんな王様よりも騎士団が重役出勤するとかありえるんだろうか。
「まあいいや。先に始めてたらその内来るよ」
「そうですね」
そうして誰も居ない訓練所でランニングして素振りして組手して。つまり一通りいつもの朝練のメニューを終えた頃にようやく騎士団の所属と思われる男たちがやってきた。
そしてやって来た男たちは僕たちを見て怒鳴り声をあげる。
「おいお前達、ここで何をやっている!
ここは女子供の遊び場じゃないぞ!!」
「僕達は昨日のうちに今日ここに来ると伝えてあったはずだけど?」
「知らん知らん!
とにかく早々に立ち去らないと叩き出すぞ」
そう言われて顔を見合わせる僕たち。サラとティーラは既にその顔に怒りを滲ませて臨戦態勢だしどうしたものか。まあ別に喧嘩しに来た訳じゃないしな。
「分かった。じゃあ僕らは帰るよ。そろそろ朝食の時間だし」
軽く手を振って何かを言われる前に彼らが入って来たのとは別の出入り口から訓練所を出た。
「良かったのですか?あのままにして」
「気にしなくて良いよ。それより皆で朝食にしよう」
「「は~い」」
王城に住むようになってから食事は基本部屋で食べてたから、こうして皆で揃って食事っていうのもちょっと久しぶりな感じだ。
食事を摂りながら近況を確認しておこう。
「皆はここの生活には慣れた?」
「うーん、不便は無いのだけど、城の中は息が詰まるわね。
出歩くにしても気軽にとは行かないし」
フィディの言葉にキャロも頷いてる。
やっぱりそうか。2人とも自然派だからね。こう、石造りの建物に押し込められるのは嫌だと思ってた。
「そう言うだろうと思って、離れが使えないか今交渉してるから。
そっちにみんなで移り住めば行動は楽になるはずだよ」
「離れ?」
普通は隠居した王族なんかが使う屋敷だ。それ以外にもお忍びで街に出たり誰かに会う場合にも使われる場所だったりする。
「あの、アル様。
そこってあれですよね。
私達が使ったら変な噂が立ちませんか?」
変な噂か。どういうのかと言えば僕が愛人を囲ってるとかそういう類のもの。10歳の子供に何を想像してるのか悩ましいけど。
「それだったら手遅れですよ」
「て、手遅れ」
「皆噂好きですから。メイド達の間では誰が本命なのかという話題で持ち切りです」
「わ、わたしも、ご主人様の愛人なのって聞かれました」
給仕してるメイドは当然みんなと何度か顔を合わせてるけど、同じメイドのエンジュはともかくフィディ達には話し掛けたりは出来ないので余計に想像、というか妄想を掻き立ててるんだろう。
と、そんな話を呑気にしてたら廊下のほうが騒がしくなってきた。入口の方を見れば見覚えのある人達が飛び込んできた。
「あ、アルファス王子。
先程はうちのものが大変失礼致しました!」
「王子とは露知らず、申し訳ございませんでした!!」
激しく謝罪してくるのは先日会った第一騎士団長と、さっき僕達を訓練所から追い出した人だ。
対して僕は冷めた返事を返す。
「今、食事中なんだけど」
「ははー。これは重ね重ね失礼致しました」
言葉では謝ってくれるけど欠片も悪かったなんて思ってないのが僕でも分かる。気付いてないのはキャロくらい。と言ってもそもそもキャロは彼らに見向きもしてないな。
彼らを無視して食事を続けてもいいんだけど、あれに見られながらでは飯が不味くなる。
「10分。いや15分後に訓練所に行くからよろしく」
「はっ。それでは準備してお待ちしております」
一体なんの準備をするのか、気にしても仕方ないな。
僕らは手早く朝食を済ませると再び訓練所へとやってきた。そこには第一騎士団の人なんだろう。200人程が綺羅びやかな衣装を纏って整列していた。
「お待ちしておりました王子。
ささ、壇上にて皆に挨拶をお願いいたします」
……なぜと問い掛けても良いのだろうか。一体いつ僕が挨拶をするためにここに来たことになったんだ?
まぁ聞いても時間の無駄か。
僕は壇上に上がり、静かに皆を見渡してから口を開いた。
「皆さんこんにちは。
僕は第一王子のアルファスです。
故あって長い間王都から離れていたので初見の人もいるでしょう。なので王都に戻ってから今に至るまでの事は特に問題にするつもりはありません」
そう言うとチラホラと安堵した声が聞こえる。さっきの事やこの数日で出回ってる噂などを気にしてたんだろう。
「先に注意しておきますが、僕の後ろにいる女性陣は僕の側近です。
僕以外の命令は聞きませんし、彼女らに何かしようものなら物理的に首が飛びますので気を付けて下さい」
今度は小さく笑い声がする。冗談だと捉えたのか噂は本当だったと思ってるのかは知らない。でもちゃんと伝えたからね。
「さて、既に聞き及んでいると思いますが、僕は近日中に数十名の騎士と共に魔物の討伐遠征に出ます。
その連れて行く騎士の選抜をこれからしたいのですがよろしいでしょうか」
「「はいっ」」
えっと。なぜ突然髪を整えたり胸を反らしたり偉そうにしたりしてるのかな?
選抜の基準は顔や見た目じゃもちろんない。
「選抜の方法は単純に、僕より強いこととしましょう」
「ぷっ」
今度はなぜか後ろから笑い声が聞こえた。今のはフィディだな。騎士団員たちも笑ってるしきっと自信があるのだろう。




