61.5年ぶりの再会
僕らを迎えに来たのは30そこそこのちょび髭が特徴のおじさん。
「お初にお目にかかります。王都第一騎士団長のタージ侯爵家長男、ジェド・タージでございます」
「第一王子アルファスです。
忙しいなか出迎えご苦労様」
「ありがとうございます。
王子におかれましてはご立派に成長なされて陛下もさぞやお喜びになる事でしょう。
今後は王都にご滞在されるのでしょうか。であれば我等第一騎士団が御身をお守り致しますので何かあればすぐにご連絡頂ければ王子の手足となりますので気兼ねなくお申し付けください。
おぉそうだ。城内の王子の身辺警護も我等第一騎士団にお任せくだされば24時間ねずみ1匹近づけさせない事をお約束致しましょう」
なかなかの饒舌っぷりだ。ホッソリとした身体付きと相俟って騎士よりも弁舌師として働いた方が活躍出来るのではなかろうか。
「分かりました。
とは言っても騎士の皆様のお陰で城の警備は万全のはず。
それに騎士の皆様も忙しいでしょう。
身辺警護ならここに居るティーラに引き続きしてもらいます。
聞けばティーラも第一騎士団の所属。その功績は騎士団長のタージ殿へと繋がるでしょう」
「ははっ。そう言う事であれば」
一瞬だけどタージ騎士団長が恨みの篭った視線をティーラに向けた。きっと上手い事潜り込みやがってとか考えているんだろう。言葉と態度からありありと出世欲とか顕示欲とかがにじみ出てるし。
「では僕は一度自室に戻ります」
「はっ。では私が先導を」
「道は分かりますから必要ありません。
それよりタージ殿は父上に僕が帰還したことを伝えておいていただけますか?」
「……わかりました」
若干「売り込み切れなかったか」と悔しそうにしている騎士団長を残して僕らは城内へと向かった。
城内の様子は何となくではあるけど5年前とそれほど変わっては居ない気がする。遠くに聞こえるメイドたちの話声とか巡回の兵士の足音とかね。
僕の後ろではキャロとエンジュが興味深げにキョロキョロと見回してるし、フィディもこっそり辺りを確認している。
と、そこでエンジュが慌てた声を出した。
「あ、キャロさん! 花瓶に近づいては駄目なのです。危ないのです!」
「なに、そうなのか!?
襲ってくるのか?喰われるのか?」
いやここは物語に出てくる魔王の城とかではないから。飾ってある花瓶が実は魔物の擬態で通りがかる人を襲ったりとか、そんなことは無いよ? まぁネタとして魔道具で仕込もうと思えば出来なくはないけど。でもエンジュがそんな冗談をこんな迫真の演技でする訳がなかった。
「いえその、前に住んでいたお屋敷で、花瓶を傷付けたり割ったりすると物凄く怒られたんです。
いっぱい叩かれて1週間ご飯抜きにされるんです」
「1週間ご飯抜き!?
なんて恐ろしい罠なんだ」
先日の病原体の魔物以上に畏れながら距離を取るキャロ。エンジュも一緒になって化物を見る目で花瓶を見ている。ご飯抜きの所だけ反応してるのはキャロらしいな。
そんな2人を楽しそうに見ながらフィディがサラに尋ねた。
「実際の所どうなの?」
「そうですね。1月給料なしになったりはあるそうです。体罰まではない、と思いますよ」
メイドの先輩からはそんな回答が返って来た。花瓶の値段を考えれば妥当なところかな?そこまで高価なものは来客が通る場所とか応接室に集中してるだろうし。今僕たちが歩いてるのは王族の私室に向かう通路だから大したものは置いていない。はずだ。
そしてそんな場所だから、巡回の兵士とはちょいちょいすれ違う。というか呼び止められる。
「失礼。皆さまどのような方々かお伺いしてもよろしいでしょうか」
すぐに不審者だと判断はされないのは僕たちが堂々と歩いているせいだろう。けどメイドのサラと騎士のティーラを除けば明らかに不思議な集団だからね。職務上彼らが僕らを呼び止めるのは仕方がない。その度にティーラに答えてもらうのも面倒になってきたので僕は奥の手を出すことにした。
「お仕事ご苦労様です。これが何かは分かりますね?」
そう言って見せたのは左手の中指に嵌めた指輪。
「え、はっ!? それは王家の指輪。それを嵌めているという事はまさか……」
「5年ぶりですからね。顔を知られていないのは仕方ない。
僕は第一王子のアルファスです。この者たちは僕の側近です」
「ははっ。失礼致しました」
深々と頭を下げて道を譲る兵士さん。
僕の取り出した指輪は一種の魔道具になっていて、特定の人物、この場合は僕にしか嵌められないようになっている。要するに身分証明書の代わりだってことだ。王家お抱えの職人のみがその製法を知っているので偽造も難しいらしい。
そうして歩いていると今度は4人程の団体が通路の向こうからやって来た。お互いに隠れてはいないので向こうもすぐに僕たちに気が付く。その先頭を歩くのはどこか面影のある同い年の少年。なので僕の方から声を掛けた。
「やあツビー。元気そうだね」
その言葉に一瞬、ムッとなるけどすぐに僕が誰か分かったようでハッとした顔をした。
「まさかアル兄……」
「おい貴様。この方をどなたと心得る!」
ツビーが話そうとしたところで後ろに居た男が割って入って来た。歳の頃は15前後かな。というかどなたも何も今名前呼んだじゃん。間違えて読んでたらそりゃ怒るのも仕方ないけど、ツビーの反応からして人違いって事も無さそうだ。その隣にいた男も便乗してくる。
「しかも神聖な王城にそんな亜人など連れ込んで。恥を知れ!」
「あ、お前達」
慌てるツビーだけど後ろの取り巻きはそれに気づく様子は無いな。
どうしよう。ここはツビーの顔を立てるべきか。いやでも皆を侮辱されて黙っている訳にはいかないか。
「ツビー。取り巻きの人選は気を付けないと主の人格が疑われるよ?」
「……」
「何だとこのガキ。俺達を誰だと思ってるんだ」
「それ以上無礼を働くと許さんぞ」
ツビーが何か言う前に勝手に反論してくるお供AとB。誰だと言われても名乗られても居ないのに知る訳がない。
ついでに残り1人はといえば、騒ぐ取り巻き達を諫めるでもなし1歩下がって自分に飛び火しないようにしてる。恰好からして護衛騎士といった所かな。ツビーの様子を見て危険は無いと判断したんだろう。
そんな馬鹿な取り巻き達に構う理由も無い。僕は持っていた袋からリンゴを1つ取り出すとツビーに向かって投げ渡した。危なげなく受け取るツビーと碌な反応も出来てない取り巻き。もしこれがリンゴじゃなくてナイフだったらどうするつもりだったんだか。
「これは?」
「餞別。城下で売ってたから懐かしくて買っちゃった」
「そうか。……いつもながら酸っぱいな」
「つ、ツバイク王子。いけませんそんな誰とも知れぬ男が渡したものに口を付けるなど」
「そうです。毒だったらどうするのですか」
うーん、落ち着いてるツビーと慌てる取り巻きのギャップが酷いな。これじゃあどっちが年上なのか分かったものじゃない。気にせずリンゴに齧りつくツビーの姿に目を細めながら、これ以上廊下で騒ぐのも良くないので僕は軽く手を振ってお暇を告げた。
「じゃあツビー。またね」
「ああ。いや、アル兄。元気そうで良かった」
「うんツビーもね」
「ちょっとま、ごあっ」
「話はま、ぶげっ」
兄弟でにこやかに挨拶をして別れようとした所に水を差そうとする馬鹿2人にもリンゴを投げつけてあげたらなんと顔面で受け止めていた。おまけで残り1人にも投げたらそっちはちゃんと手でキャッチしてるからちゃんと受け取れる速度だったはずで僕は悪くない。うん。




