60.王都に到着
「おお、凄いな。人がいっぱいだ」
「人族はどうしてこんなに密集したがるのかしらね」
王都に入ってすぐ、キャロがお上りさんみたいな事を言ってる。フィディはふーんって感じだ。僕らと出会う前は一人で旅をしてたのだろうし見飽きてるのかもしれない。
僕も顔には出さないけど実はキャロの感想に近い。一所にこれだけ大勢の人が居るのって戦争を除けば無かったから。200年前の王都はまだここまで賑わってなくてどちらかというとバックラー領都くらいの規模だったし。
通りを進む僕たちはとある果物屋の前で止まった。別に顔見知りとかではないんだけどちょっと気になるものがあったから。
「すみませ~ん。このリンゴ1袋ください」
「まいど!って、坊主。そのリンゴは」
「知ってます。すっぱい品種なんですよね」
「おう、知ってるならいいさ」
代金を支払い真っ赤に実ったリンゴが10個入った袋を受け取る。それを前に抱えながらみんなに1つずつ配って行った。
「アル様。このリンゴに何か思い入れがあるのですか?」
「ん?あ、そっか。ティーラも知らないのか」
ティーラもサラと同様ずっと一緒に居てくれてたから、てっきり王都に住んでた頃から居たのと勘違いしてしまった。
「このリンゴは僕が小さい頃に病気で寝たきりになっていた時に優しい妖精さんが時々お見舞いに持ってきてくれたんだよ」
「妖精、ですか」
まぁ妖精っていうのはただの例えだけど。
のんびりと大通りを進みながら手に持ったリンゴに齧りつく。すると口の中いっぱいに広がる酸味。その味にキャロとエンジュがびっくりしているけど、食べ物を粗末にする選択肢は無いのでそのまま2口3口と食べ続ける。すると不思議な事に段々美味しく感じられるようになってくるんだ。
気が付けば全員種も残らず食べきってしまった。
「サラも種ごと食べるのはちょっと意外だね」
「本来であればアル様こそ慎むべきだと思いますけど。
マナーの先生が見たら目を回しそうですね」
「ま、まぁ。こんな街中で咎める人も居ないよ」
現行犯で無ければ証拠は何も残って無いし問題なし。完璧だね。
なんて話している間に城門に辿り着いた。門の前に佇みじっとしていると門番の人が僕たちを怪しいものを見る目で見てきてるけど、さて。
「どうやって入ろうか」
「え、アル様。先触れとかは出していないのですか?」
「うん、ないね」
「あらまあ」
あっけらかんとした僕の回答に呆れるサラ。だけどすぐに気を取り戻して「これはメイドたる私の落ち度でした」とひとりでガックリしてる。いや別にサラは悪くないと思うよ。
「おいお前達。そこでなにをしている」
そうこうしている間に仕事熱心な門番さんが声を掛けて来た。
「ここは女子供の遊び場ではない。
用がなければ早々に立ち去るが良い」
その言葉を聞いて、その目を見て、僕はぽつりと呟いた。
「良い人だね」
「なに?」
「真面目に仕事をしていて、なおかつ頭ごなしに相手を否定するのではなく、話を聞く余裕を持っている」
「いや少年。褒めても通してはやらんぞ」
「うん」
それは当然。別にそんな意図があったわけじゃないし。ただ、職務怠慢だったり、ぞんざいな応対をする人も多い中、ちゃんと真面目に仕事をしているってだけで僕としては評価が高い。
さて、こういうちゃんと仕事をする人が相手ならティーラが適任かな。
「ティーラよろしく」
「はい。それでは。
失礼。私は第1騎士団所属ティーラ・ペルタです。
本日は長期の護衛任務から帰還したところ。
第1騎士団長にお取次ぎ願いたい」
言いながら持っている盾をみせる。それをじっと見た門番さんは慌てて姿勢を正した。
「失礼しました!
おい、伝令を頼む」
「了解です」
少し離れて様子を窺っていた同僚に指示を出す。ってことは若干偉いのかな。門番さんは待機所に僕らを案内しつつ質問を投げて来た。
「あのペルタ殿。失礼ですがこの中に護衛対象の方がいらっしゃるのですか?」
ちらりと失礼のない程度に僕らを見る。ってそうだよね。余りにみんな異色過ぎて誰が貴人なのかは見ても分からない。強いて言えばエルフのフィディが1番それっぽいかな。
ここで誰でしょうって問いかけても良いんだけど、彼は職務に忠実なだけだしあまり邪魔するのも良くないか。なので僕は一歩前に出る。
「こんにちは。僕はアルファス。他のものは僕の護衛や側近です。今後は多分頻繁に出入りすることになるから顔を憶えておいてくれると助かります」
「ごほんっ」
サラが後ろでジトってるのが見なくても分かる。本来王子っていうのはそんなに頻繁に出入りしないのかもだけどほら、視察も重要な仕事だしね。
そして門番さんは僕の名前を聞いて首を傾げる。
「アルファス様。はて、どこかで聞いたことがあるような。
失礼ですがフルネームをお聞きしてもよろしいですか?」
「うーん、先におじさんの名前を聞いても良いかな」
平民だと別に気にする人は居ないけど貴族社会になると目上の人に先に名乗らせるのはかなりの失礼に当たる。職務上なら仕方ないけど今はちょっとした興味本位。だから言外に僕の方が上だよって伝えてあげる。
門番さんもすぐに理解したようで背筋を伸ばして名乗った。
「はっ、失礼しました。
私は王都守備隊所属、バリタン・パルマ小隊長です」
「うん。では改めて。
僕はアルファス・アイギスです」
「アイ、ギス……っ!?」
僕の名前を反復して、一拍遅れてその名前の意味を理解したパルマさんは後ろに飛び跳ねながら最敬礼を取るという離れ業をしてみせた。
「しし、失礼いたしました。まさか王家の方とは露知れずこれまでのご無礼をどうかお許しください」
「うん、そもそも何も不快に思っていないから安心して欲しい」
「はっ、ありがとうございます!」
「それと見ての通り、お忍びに近い形だから言い触らさないで欲しいかな」
「この命に変えましても」
「いやそこは命を大事にしてね」
「ははぁーっ」
個人的にはさっきまでの距離感の方が嬉しいんだけど、流石にそれを求めるのは酷かな。今も何か粗相をしないかとビクビクしてるし。
若干居心地の悪い空気を堪能したところで連絡を受けて迎えがやって来た。




