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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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51.治療後のケアも大事

 野営陣地内の様子は、僕の予想に反して明るかった。てっきり村人の多くが亡くなったのだからもっと怒りや悲しみなどの負の感情が渦巻いているんだろうなと思っていたけど意外だ。流石にはしゃぎまわったり笑い声が聞こえたりはしないけれど、今だ横になっている患者と付き添いの家族と思われる人達、どちらも穏やかな表情をしている。

 村人たちは僕の姿を見ると一様に驚き、慌てて姿勢を正そうとしてきたけどその必要は無いとそっと押し留める。


「みなさん、僕に気を使う必要はありません。

 既に聞いた人も居るかもしれませんが、5日前の演説で僕が王子だと名乗ったのはみなさんに薬を飲んでもらいたかったからなんです。

 突然他所の子供が毒薬を持ってきて『これは薬だ』なんて言っても信じてはくれなかったでしょう。

 つまりそういうことです。

 今の僕はバックラー伯爵領から来たアルフィリア教の伝道師のアルです。それ以上ではありません。

 あ、それと。

 もし後日外の人に今回の事を聞かれても決して王子が来たなどと言わないでください。

 王子の名を騙るのは重罪ですからね。今回の事はここだけの秘密です」


 そう説明すれば村の人達はなるほどと頷いてくれた。騙したのかと怒る人が居なかったのは幸いだ。多分王都で同じことをしたら『この詐欺師め!』と罵倒してくる人が少なからず居ただろう。もちろんその場合でもちゃんと処理するけど。

 ただ、やはりというか、野営地の外れの方に視線を向ければそこには何人もの村人が静かに眠っていた。中には僕よりも小さい子供も何人もいる。確か子供たちから先に病気になったと言っていたし、僕たちが来る前にも何人も亡くなっていたことだろう。

 僕たちがもっと早く来れていれば、などとは言わない。僕たちは神様ではないから時間をさかのぼることも出来なければ世界中の全てを知ることも出来ない。僕たちは出来る限りの事を尽くした結果がこれなのだから。

 それでも家族を失った人たちは、その悲しみや苦しみをどこかに吐き出さないと心が潰れてしまうだろう。過去にもそうして何度も人殺しと呼ばれたり石を投げつけられた事があった。だから今回もそうなるかもと思ったんだけど。


「皆さんは僕たちに怒ったり恨み言を言ったりしないのですか?」


 ついそう聞いてしまった。それを聞いた村人たちはお互いに顔を見合わせ首を傾げる。まるで僕が言っている事の意味が分からないとでも言うように。


「仰ることの意味が分からないのですが。儂らは皆さんに感謝しております」


 代表して老人のひとりが僕に話しかけて来てくれた。


「お陰様で儂の息子夫婦も一命を取り留めました。皆さんが来てくださらなければ助からなかったでしょう。

 それに、あなた様は覚えてはいらっしゃらないかもしれませんが、薬を飲んだ後のあなた様はそれはもう酷いうなされ様で、お世話をしていた少女たちも大変そうでした。

 ですが儂らが少しでもと差し入れを持って行った時におうわ言で『生きろ。諦めるな』と呟き続けていたのを多くの者が聞いております。それにどれだけ励まされた事か」


 そうだったのか。あ、でも確かに夢の中でも患者に何度もそう言ってた気がする。

 僕はその老人にお礼を言って再び回診を続け、無事にみんなの病気が治っているのが確認できた。症状が軽かった人は薬を飲みつつ村の方で休んでもらっているはずだけど騎士団のみんなが巡回してるから大丈夫だろう。

 なら今の僕に出来るのはあれくらいかな。


「騎士団員の中で手の空いているもので比較的魔法が得意なものを集めて欲しい」

「はっ、直ちに」


 近くに居た騎士にそうお願いして僕は村の中央にある広場へと向かった。


「アル様。手の空いている者を集めました」

「ありがと。あと僕の事は今まで通り『アル坊』でいいよ」

「しかし」

「いいの。変に畏まられたり距離取られるのもいやだし」

「わかりました」


 集まってもらった皆には円を描くように立ってもらい少し離れて僕を囲むように立ってもらった。またその際にみんなにはある物を渡しておいた。


「これから魔法を発動させるんだけど、みんなの魔力を少しずつ分けてもらうね」

「「はい!」」


 深呼吸をして周囲の魔力を捉える。

 ……うん。大丈夫だ。みんなに渡した吸魔のタリスマンを通じてこの場に魔力が満ちて行くのが分かる。これだけ魔力があれば問題なく広域魔法も使えるだろう。


「『聖域サンクチュアリ』」


 手を合わせて静かに魔法を口にすれば、村全体を包み込むように僕の魔法が広がって行く。僕たちの様子を遠目に窺っていた村の人達からも魔法の効果を感じて驚いたような声を上げていた。


「おぉ、なんだこの光は。まるで春の陽だまりのような心地よさだ」

「体の疲れがすっと抜けて行くような感じだな」

「あら、さっきまでグズっていたうちの子が笑顔になったわ」


 僕の使った魔法は名前こそ聖域なんていうけど、要するに広範囲の治癒魔法だ。病気や怪我の人は治りが良くなるし、そうでない人も疲れが取れたり腰痛が治ったり。欠点としては魔力消費が大きい事と、別に魔物には効果が無いとかそんなことはないってこと。

 今回の黒斑病は体内に入り込んだ小さな魔物が原因だったから、それを取り除く前にこれをやっても魔物ごと元気になってしまい返って病気を悪化させることになっていたので使えなかった。


「……ふぅ。今の魔力量だと10分が限界だね」

「お疲れ様でした」

「うん。みんなもありがとう」


 これを時間を空けて何度かやればみんな元気になってくれるはずだ。

 後ここでやるべきことは、あれか。



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