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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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50.治療の結果

 目が覚める。えっとここは、どこだ? 分かるのは木造の民家のベッドの上という事くらい。だけどまぁ心配することはなにも無さそうだ。なぜなら少し視線を横に動かせばいつものように僕の様子を窺っているサラの顔があったから。


「おはようサラ」

「はい、おはようございます。アル様。ご気分は如何ですか」

「うん。ちょっと懐かしい夢を見ていたよ」

「懐かしい、ですか?」


 あれは今から300年以上前の出来事。あの頃はまだ治癒魔法も今ほど発達はしてなくて世界各地で怪我や病気に苦しむ人が大勢居た。魔物だって多かったしね。特別戦う事が得意では無かった僕らは旅をしながら各地で薬草を集め、当時は不治の病と言われていた病気の幾つかは治療することに成功していた。

 その経験は200年前にも大いに役に立ってくれたし、そして今もこうして生きている。残念ながらその治療法の多くは失伝されてしまったようだけど。代わりに治癒魔法が発達したのだからそれはそれで良かったのかもな。


「それより僕は何日寝ていたの?」

「まる5日です」

「予定通りだね。良かった。それで、村人に生還者はいる?」


 敢えてこう聞いてみた。昔の記憶の通りに薬は作ったけど、もしかしたら当時と今で薬草に含まれる成分が変わっているかもしれないし、村人の体力や抵抗力が下がり過ぎていて発熱に耐えられずに全滅したってことも考えられるから。

 だけどその心配は杞憂だったようだ。


「ご安心ください。薬を飲んだ者は9割近くが病気から快復しています。

 その多くは体力の低下からまだしばらくは起き上がれないだろうとバーラさんが仰っていましたが、少なくとも黒斑病の症状は完全に消えたようです」

「そうか。それは良かった」


 全員を助けたかったというのが正直なところだけど、それが叶わない願いだという事もわかってはいた。むしろ8割以上が快復したのは奇跡に近い。


「ということは、村人の死者は全体の約3割くらいか」

「……はい」


 サラは1割近くは薬を飲んでも助からなかったと言った。他にも僕たちが到着する前に既に亡くなっていた人もいるだろう。症状が悪化し過ぎて薬を飲むことも出来なかった人も。そして僕の言葉を信じずに薬を飲まなかった人も何人かは居たと思う。

 デルタには無理強いはしなくていいと伝えてあったから、起きてみたら最悪誰も薬を飲んでなかったって可能性もあると思っていた。


「よし、じゃあ僕は起きるからサラ」

「はい」

「交代」

「はい?」

「どうせ僕が倒れてから看病で碌に寝てないんでしょ? だから交代。

 サラが寝ている間はエンジュにお世話してもらうし護衛にはグントも居るしね」

「いえですが」

「問答無用。これは命令だよ」


 難色を示すサラをちょっと強引にベッドに引き入れて寝かしつける。

 まったくやつれた顔を見れば心配で寝れてなかったのはすぐ分かった。流石に5日まるまる起きてたって事は無いだろうから一部はティーラとかが看病してくれたんだろうけど。

 僕は寝室を出て外へと向かった。


「さて、と。ふむ」


 村の様子は、活気に溢れているなんてお世辞にも言えないけど、それでも最初に来た時のような死んだ村って感じでもない。

 幾つかの建物からは炊事の煙が上っているのが見えるし、人々の喧騒も聞こえてくる。怒鳴り声とか泣き声は聞こえないから概ね峠は越えたと見て間違いなさそうだ。

 村の様子を眺めながら歩いてたら通りの向こうからフィディがやってきた。


「あらアル。起きたのね」

「おはようフィディ。苦労を掛けたね」

「私は良いわよ、別に。ま、サラとティーラは随分心配してたからちゃんと労ってあげなさい。

 で、そのサラは? 一緒じゃないのね」

「うん。寝かせておいた」

「そう、まぁそれが良いでしょうね」


 フィディとは付き合いは短いものの、よく気が回る質だし、それとなくサラ達の事を気に掛けてくれていたんだろうと思う。多分今も僕のお見舞いついでにサラの様子を見に来てくれたんだろう。


「デルタは野営陣地に居るんだよね。ちょっと様子を見てくるよ」

「なら一緒に行くわ」


 野営陣地は、半分救護施設として利用するように伝えてあり、僕が倒れた後で病人への投薬とその後の看病が行われていたはずだ。薬による発熱は長くても3日。でもその後2日で体力が回復出来る人は元々症状が軽かった人だけだ。なので今も大勢の村人で賑わって、はいないか。

 僕がやってきたことをいち早く見つけた騎士団の人が慌てて奥に走って行った。恐らくデルタを呼びに行ったのだろう。と思ったらデルタと、一緒にほとんどの騎士団が詰めかけてきて僕の前に膝をついた。その後ろには比較的元気そうな村人も居る。

 って、なんで?


「みんなおはよう。僕が寝ている間、苦労を掛けたね」

「アル様におかれましては無事なご帰還、心よりお喜び申し上げます」

「うん、ありがとう。で、これは何の騒ぎ?」

「それがその。私は兎も角、他のものはアル様が王子であることを知らずに何かご無礼をしていないかと思い、また一度正式にご挨拶すべきとこうしてはせ参じた次第です」


 あー、えっと、そうか。まいったな。村の人達が進んで薬を飲んでくれるようにと敢えて言ってみたけど、その後の反応までは考えていなかった。うーん、今から撤回出来るか?


「はぁ。みんな騙され過ぎ!」

「「は、いったい何を」」

「よく考えてみて。一体どこの国の王子が、こんな辺境の村で病気が発生したからって救援に駆けつけるのさ。

 しかも自ら危険な薬を飲んで見せるなんてすると思う?

 仮に王子がそんな危険な真似をしようとしたら従者全員が止めに入るのが普通でしょ」

「「い、言われてみれば」」


 いやまぁ、実際にはサラもティーラも裏で必死に止めようとしてくれてたんだけどね。村人を説得するには他に方法がないって言って押し切ってしまったんだ。

 僕の言葉に頷くみんな。デルタだけは本当に僕が王子であることを知っているけど、僕の言いたい事を咄嗟に理解して率先して頷いてくれている。それでも騎士団の皆は半信半疑っぽいけど、村の人達が納得してるからいいや。


「だから。僕なんかに挨拶する暇があったら早く持ち場に戻って。

 ほらあっちの人が水飲みたそうにしてる。すぐ行ってあげて。

 病気の症状と薬による高熱が収まってもまだ予断の許さない人は何人もいるでしょ?

 折角気力を振り絞って峠を越えたんだから、ここからは誰一人死なせないからね!」

「「はいっ」」


 みんなは最後に僕に一礼して患者たちの所に散っていった。

 よし、じゃあ僕もちゃんと皆の病気が治ってるか見て回ろう。



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