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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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44.急報

 その後、例の司祭がどうなったかというと、僕とは全く関係の無いところで捕縛され領都から追放されていた。なんでも最初僕と会ったあの超怪しい恰好で街中を徘徊し、更には食い逃げなどをしようとして逃げきれなかったらしい。


「申し訳ございません。アル様。どうやら押収し過ぎていたようで」

「……あぁ。まぁ仕方ないよ。忘れよう」


 ギント達が裏取引の証拠物件を押収する際に一緒にしまってあった金品も回収してきたんだけど、どうやらそれが司祭の全財産のほとんどだったようだ。それで食費にも困って食い逃げとか。


「芋づる式に彼の仲間が捕まったら良かったけど高望みし過ぎだったね」


 ま、上手くいけばラッキーくらいの気持ちだったし。それにこれでやっと以前のように気楽に街の視察に出れるようになったしね。

 そうして2週間ほどは何事も無い日々が過ぎ、キャロ達も朝練に慣れてきたころ事件は起きた。

 それは午前の勉強を終え今日も街に出ようかなと考えてた所にやって来た。


「伯爵に急報です!」


 そう言って駆けこんできた連絡員に胸騒ぎを憶えた僕は手紙を預かった執事長に続いて執務室へ向かった。手紙を受け取った伯爵は、その内容を見て顔色を悪くしていた。


「伯爵。僕が聞いても良い内容ですか?」

「え、ええまぁ」


 執務室の入口で様子を窺っていた僕を見て、一瞬逡巡したものの伯爵は話してくれた。


「北西にあるギュッテン村で原因不明の伝染病が発生し、既に村の2割以上が病床に伏しているそうです」


 2割って。それは感染が早い事を意味しているのか、それとも発見が遅れたのか。報告書が書かれる前で2割なのだからもう既に村の半数が罹患していてもおかしくは無いかもしれない。


「症状については書いてありますか?」

「はい。治癒魔法もあまり効果が無く、下痢や嘔吐、発熱、症状の重い者は数日で亡くなる場合もあるとのことです」


 困った。その情報だけだと該当する病気は幾つもある。感染力が低くて比較的治療が簡単なものなら良い。でもその逆だった場合、僕らが取れる手段は1つだけになる。そう、他の村に伝染する前に村ごと焼き払うことに。出来る事ならそれは最後の手段だ。


「あと全身に黒い痣のようなものが幾つも出来るそうです」

「!!」


 全身に黒い痣が出来て下痢や嘔吐が激しく死に至る伝染病。それは僕の中で1つしか心当たりがない。過去にもあったものと同じ病気なら治し方にも心当たりがある。治癒魔法が効かないというのも原因が同じならそうなるだろう。放置すれば、間違いなくその村は全滅する。


「伯爵。その病気には心当たりがあります。今ならまだ軽症の人は助かるかもしれない。

 僕に騎士団をお貸しいただけませんか?」

「いけませんぞ王子。御身に何かあってはどうするのですか。

 治療法が分かっているなら騎士団だけで向かわせましょう」


 うん。普通の病気ならそれで良いんだ。でもこの病気の治療薬は特殊だから。


「大丈夫です伯爵。これはまず間違いなく特定の条件でしか伝染しない病気です。知っていれば伝染しません。

 そして僕が直接赴かなければ助からないものが大勢出るでしょう。

 本当なら僕だけで行きたいところですが、村人全員を治療するには人手が必要です。

 どうかご決断を」


 そう言って僕は頭を下げる。王子とは言っても僕が動かせる人間なんて両手で数えられる程だし、ここ伯爵領の主はバックラー伯爵だ。その伯爵を無視して僕が強権を発動することは出来ればしたくない。

 伯爵は、ジッと考え、そして正しく決断してくれた。


「王子。必ず無事に帰ってくると誓って頂けますね」

「はい。アイギス王家の誇りに掛けて」

「分かりました。バックラー騎士団全軍を王子に預けます。

 それと長男デルタを副官としてお連れください」


 きっと伯爵自身が一緒に行きたかったのだろう。だけど領主たる伯爵がここを離れる訳にはいかない。だから名代として次期伯爵、候補というには既にほぼ確定で今でも伯爵の仕事を半分手伝っている状態だ。


「いいな、デルタ」

「勿論です」


 隣の机で僕らのやり取りを聞いていたデルタさんも二つ返事で答えてくれた。


「必ず共に無事に帰還します」

「必要なものがあれば仰ってください」

「であれば、空の酒樽を10個ほど。それと知り合いの薬師を1人連れて行きたいと思いますので馬車の用意をお願いします。騎士団は全員を連れて行くのは問題がありますのでティース団長に100人程選抜してもらい連れて行こうと思います」

「分かりました」


 さあ忙しくなったぞ。僕はすぐさまサラ達を招集して必要なものを取り揃え、ティース団長には同行者を選抜してもらい、僕は薬師の方の所に走った。


「という訳で今から2週間ほど同行をお願いしたいんです」

「なんだい来て早々、藪から棒に」


 僕の突然の来訪に呆れるバーラさん。


「こんな年寄りが一体何の役に立つっていうのかね。

 薬作りのノウハウなら、あたしよりあんたの方が上だろう」

「いえ。僕にはバーラさんが必要なんです」

「そういう言葉は後ろで控えてる娘達に言ってやるものだよ。

 ったく、最近の子供は困ったもんだねまったく」


 言いながらどっこいしょと腰を持ち上げるバーラさん。そして店の奥に向かって声を掛けた。


「ホーリン。ちょいと出かけてくるから後は頼んだよ!」

「はーい」

「ほら行くよ。顎足枕、全部用意してくれてるんだろうね」

「もちろんです。よろしくお願いします」


 ちなみに顎足枕っていうのは、食事と移動手段と宿泊のこと。ここを出てから帰ってくるまで賓客として持て成すことを意味している。

 そうして僕たちは何事かと集まる街の人達に見送られながらギュッテン村へと出発するのだった。



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