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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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32.アルフィリア教の方から来ました

 無事に薬草を送り届けて、代わりに出来た分の薬はサラに持たせて一足先に戻ってもらい僕は残りの時間でティーラと一緒に街の様子を見て回る。

 そういえば新アルフィリア教の司祭を名乗ってる人が居るって話だったね。その人と接触しようと思ったら、多分目立つことをしていれば向こうから声を掛けて来るんじゃないかと思ってる。なにせそういう人って金や権力にコネが欲しいはずだから。

 だから珍しく目立つ行動を取ってみようかなと思ったんだけど。


「アル様はいつも通りにされていれば大丈夫です」


 という謎に確信の籠もったティーラの意見を取り入れて、僕はいつも通り街の視察を行う事にした。その帰り道。


「そこなお子よ。少しよろしいか」


 脇道から現れた、正しくは待ち伏せしていた黒いフード付きのローブの人が僕に声を掛けてきた。正直怪しさ満点だ。ローブから覗く見た目は40歳くらいの禿げたおじさん。その頭は別に剃っている訳ではなく天然に見える。

 警戒するティーラを押し留めて僕は努めて明るく返事をした。


「こんにちは。どうかなさいましたか?」

「いやいや、私はアルフィリア教の方から来た者なのですがね」

「はぁ」


 いやどこなの、そのアルフィリア教の方って。アルフィリア教は総本山もないし、明後日の方向から来たっていうのと同レベルだ。表現をぼかすにしても雑過ぎると思う。

 でもそんな事はおくびにも出さずに笑顔を作った。


「それで、アルフィリア教の方の人が僕に何かご用ですか?」

「いやなに。君はタリスマンを持っていないようだったので心配になってね」

「タリスマン?」


 またよく分からない単語が出てきた。話の流れからして信者なら持っているものなんだろうけど一体何の話をしてるのか。ちなみにアルフィリア教にはタリスマンはもちろん、ロザリオや数珠といった祈りを捧げるときに使う道具というものは存在しない。他所の宗教だと衣装とか色々あるみたいだけどね。


「おお、知らないとはなんということだ!

 それでは今まで祈りを捧げても神の御下まで届かなかったのではないか?」

「え、そうだったの?」


 素直に首を傾げる僕に大袈裟に嘆いてみせる黒ローブの男。何とも芝居くさい。


「そうに違いない。いや、きっとそうだ!

 何故なら女神フィリスに祈りを捧げるにはタリスマンが必要不可欠なのだからっ!」

「なな、なんだって〜」


 まるで出会い頭に魔物に出会ったかのように驚いてみせれば黒ローブは我が意を得たりと頷いて僕を見下す。


「安心したまえ。今ならまだ間に合う!」


 いやだから何に間に合うの?

 くっ、だめだ。僕の頭の中が突っ込みたい気持ちで溢れそうだ。これが彼の作戦なのかも。ともかく今は我慢して話を合わせよう。


「一体どうすればいいのか教えて貰えますか?」

「勿論だとも。だかここではあれだから落ち着いて話せる場所に移動しよう」

「そ、そうですね」


 そこで黒ローブはちらりとティーラの方を見た。護衛兼お目付け役が居たら困るってことかな。


「ティーラが気になりますか?」

「え、いやその」

「綺麗な娘でしょう?

 だから自慢したくてこうして連れ歩いてるんです」

「は?あ、あぁなるほど。確かになかなかの娘ですね」


 何を勘違いしたのか下心満載の視線でティーラを舐め回しだした。それを受けてティーラがビクリと反応した。

 これは釘を刺しておいた方が良いかな。


「あ、この娘、僕以外の男には凶暴になるみたいだから気を付けて下さい。

 先日も久しぶりにお休みをあげたら、帰ってきた時に口の周りを真っ赤にして『僕以外の男に触られそうになったから噛み千切ってきました』とか言うんですよ。

 困ったものですよね。あははっ」

「ひぃっ」


 何を噛み千切ったかとかは言わない。それでも小さな悲鳴を上げて後退る黒ローブ。よしよし、これなら変な手出しはしてこないだろう。


「大丈夫ですよ。僕にだけは従順ですから。ね?」


 手を伸ばせばティーラも心得たとばかりにしゃがんでくれたのでその頭をよしよしと撫でる。

 うん、無害ですよアピールはこれくらいで良いかな。


「さて、余り遅くなっても家の者に心配されるのでそろそろ行きましょう」

「そ、そうですな。こっちです。付いてきてください」


 そう言われて付いて行った先は貴族街の外れの方だった。

 ふむ、なるほど。ここなら何か用が無い限り近づく人は居ないだろう。

 招かれた家はそれなりにお金が掛かっている建物だ。そもそもの話、こちら側に家を持っている時点でそれなりにお金が必要なんだけどね。


「さあどうぞ」

「お邪魔します」


 通された応接室は……うん、悪趣味。何となく分かってたけど。分かりやすく言うと成金趣味?それも金銀財宝ではなくコレクター的な意味合いで。熊の剥製とか希少価値という意味では高価なんだけどね。お金の使い道はもっと別にあると思うんだ。

 それでも僕は頑張って感動したような顔を作った。


「素敵なお部屋ですね」

「そうでしょうとも。

 ささ、そこのお席にお座りください。今お茶を持ってこさせますから。

 おいエンジュ! お客様にいつものお茶をお持ちしろ」

「は、はい!」


 黒ローブ、あ、部屋に入ってからローブは脱いだからなんて呼ぼう。

 ともかく彼が大声で呼びかければ隣室から小さな女の子の返事が返って来た。どうやら召使いが居るみたいだな。ま、それは今はいいや。


「それで、えっと、司教様、でしたっけ」

「はっはっは。そう見えますかな!

 ただまことに残念ながらまだ司祭の身でしてな」

「そうだったんですか! 博識でご立派な様子からてっきり司教か大司教なのかとばかり思っていました」

「まあもっとも、司教になるのも時間の問題ですがね」


 嬉しそうに笑う司祭は僕らの冷たい視線には気付いていないみたいだ。

 と、そこで隣室から少女がお茶を持って部屋に入って来た。



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