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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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27.街に帰ろう

 僕は吹き飛ばした男の後を追って走る。これがグントだったらこの隙に逃げ出すだろうしね。そうして木を数本なぎ倒してやっと止まった男を静かに見下ろした。

 男は上手く身体が動かせないのか苦しそうに呻いていた。


『ぐっ、何が起きたというんだ。身体が言う事を聞かん。

 まさか今の1撃が俺にそこまでのダメージを与えたというのか』

「違うよ。ただの時間切れ。魔力切れと言った方が分かりやすいかな。

 あなたの魔力じゃその姿を維持できなくなったんだよ」


 さっきからの彼の様子を見ていて分かったことがある。あの薬は恐らく強制的にその人の魔力を引き出して鬼人化に使わせるものだ。別に無から魔力を生み出していた訳でも無ければその人の魔力量の底上げをしてくれるものでもない。

 そして、供給が滞れば満足に動けなくなるのは当然の話だ。これが普通の強化なら少し休めば動けるようになる。だけど鬼人化はダメなんだ。変質した肉体はそのままでは元には戻らないし動かなくても維持するだけで大量の魔力を消費してしまう。その魔力を賄えなければ待っているのは死だけだ。


『なぜだ。実験の時は問題なかったのに』

「幾つか考えられるけど、その実験を行った場所は瘴気溜まりだったんじゃない?

 瘴気も元は魔力だから」

『ああ……そうか』


 どうやら心当たりがあるらしい。それはそうか。この強化ウェアウルフの量産は間違いなく瘴気溜まりを使ったものだろうし、鬼人化の実験もそこで行っていたんだろう。

 男はもう起き上がることも諦めて視線だけ僕に向けてきた。


『ひとつ聞きたい。少年は、結局何者なんだ?

 ただの子供が鬼人化した俺の攻撃を何度も受けて生きていられるはずがない』

「あれは単純に殴られるのに合わせて自分で飛んでただけだよ」

『そんなことが出来る人間がこの世に何人もいるはずがない。

 むしろ君は人間なのか?君こそが本当の新人類ではないのか?』

「ないない」


 今の世は分からないけど、昔はこれくらいできる人って結構居たから。鬼と平気で力勝負をする槌の勇者とかね。彼に比べたら僕なんて全然普通だし。

 それでもまぁ、何者かと聞かれたら答えは決まっている。


「僕は2代目盾の勇者アルファスだよ」

『盾の……勇者……そうか、これが……』

「ん、何か知ってるの?」

『いや……ただかつて、そういう……が居た、と。

 ふふっ、俺はとんでもない…………だな……』


 それだけ言って彼は息を引き取った。結局ほとんど何も聞けず仕舞いだったな。まぁ仕方ないか。

 それよりも大丈夫だとは思うけど街の安否も確認したい。振り返ればティーラとサラ、そしてグントの手によってここに居たウェアウルフは壊滅していた。ゴンはぼろぼろながらも少女の手を取って盾を構えている。


「みんな無事かな?」

「はい、大丈夫です」

「ゴンも、見事その子を助けられたんだね」

「まあな。と言ってもアルがこの盾を渡してくれなかったら無理だったよ」

「その盾はゴンにあげるから、これからもアルファス騎士団として大切な人を護ってね」

「おう!」


 力強く頷くゴンに頷き返しながら僕らは街へと戻ることにした。途中、ゴンと少女が体力切れになってしまったのでグントとティーラがそれぞれ背負って歩く。

 そうして歩く事1時間。街道に出た僕らの前には壮絶な光景が広がっていた。

 街道を埋め尽くすように倒れるウェアウルフを中心とした魔物の死体。まるで戦場跡だ。でも幸い人の死体は見当たらない。

 その場はそのままにして街に向かって歩けば、丁度街の門を出てこちらへやってくる一団が見えてきた。ってあれは。


「ティース団長!」

「その声は、アル坊か。無事だったようだな」

「うん、そっちも被害はない?」

「ああ。怪我人は出たが死者はなし。俺達はこれから魔物の死体の処理をしに行くところだ」


 言いながら手に持った油壷を持ち上げてみせてくれた。

 魔物の死体も1体2体ならどうってことは無いけど、これだけ大量となると病気の温床になったり死肉漁りに魔物が集まって来たりもする。それらを防ぐには簡単なのは燃やしてしまうことだ。魔法だけで済めば低コストで良いんだけどあれだけの数を処理しようと思ったら魔力が足りないので油も使って処理するのだろう。

 団長たちを見送り僕らは街の中に入る。街はちょっとしたお祭り状態だ。通りのあちこちで大人たちが酒を片手に笑い合っていたり屋台も何台も出てみんなに無償で料理を振る舞っている。


「はっはっはぁ。見たか儂の弓の腕を。まだまだ若いものには負けはせんぞ」

「俺なんて斧で奴らの頭をかち割ってやったんだぜ」

「ばかね。あんたは危なっかしいのよ。私がサポートしてなかったら今頃魔物の胃袋の中よ」

「そうだな。俺にはやっぱりお前が必要だ」

「ちょっ、いきなり真顔になるのやめなさいよ」


 なぜか向こうでメロドラマやってるし。

 あれはともかく街全体が魔物を撃退出来たことを称え合っているようだ。多分これのお陰でこの街は治安が良いんだろうね。

 そうやってちょっと嬉しくなってた所で僕ら、正確にはグント達に背負われてるゴン達を見つけたスラムの子供たちがやってきた。


「あ、ゴンにいちゃん!エナも!!」

「ほんとだ~」


 わっと集まって来てあっという間にゴン達を取り囲んだ。ゴン達も降ろしてもらって皆と無事を喜び合う。


「おっす、皆。帰ったぞ」

「ただいま」

「ゴンにいちゃん凄いぼろぼろ!」

「おうよ。これは名誉の負傷って奴だぜ」

「凄かったんだよ! 怖い魔物たちをこの盾でばったばったとなぎ倒してくれたの!」

「俺はアルファス騎士団だからな! はっはっは」


 若干誇張も入ってるけど問題ないだろう。少なくともゴンがあの女の子を助けたって言うのは本当の事だし。

 僕らはゴンたちをその場に残して領館に戻ることにした。ティーラ達は大量のウェアウルフを相手にして疲れているだろうし、早めに休ませてあげたいからね。



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