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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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25.鬼人化

 僕が敵の親玉と対面している間もティーラは魔物達を次々と倒していた。うん、やっぱりかなり上達しているね。ただちょっと飛ばし過ぎだ。魔物は親玉登場と共に倍以上に膨れ上がったし、今のまま全力で戦って大丈夫だろうか。

 まぁ、それでもこの状況で気負わず戦えというのは難しいかな。ここに居る全員の命が自分の頑張りに懸っていると思えば。

 ともかく僕は僕の仕事をしよう。そう思い、敵に質問を投げかける。


「それにしても魔物を操って何が目的なの?」

「ふっ、冥土の土産に教えてやろう……などと言うとでも思ったか。

 お前は得体のしれない少年だからな。用心するに越した事はない。

 代わりに良いことを教えてやろう。

 人に何かを尋ねる時はな。頭を下げるか相手を屈服させるんだ。こういう風にな」


 バッと黒幕が右手で僕を指せば、それまで大人しく待機していた魔物3体が動き出した。その魔物の姿には心当たりがある。


「それ鬼人化、だよね」

「おいおい。禁術のはずなんだがな。子供のくせにお前何処でそれを知った」

「人に対して過剰に身体強化魔法をかけ過ぎた結果の成れの果て。全身の筋肉は肥大化し行き場を失った魔力が角という形で具現化した姿、だったかな」

「ふっ。博識な事だ。

 そこまで知っているなら分かっているだろう?

 この3体は元は人間だ」

「やっぱり」


 その3体はバックラー騎士団で使っている鎧を着ている事から恐らく先日脱走した人達だと思う。だけどその姿は全身の筋肉が肥大化して頭からは角まで生やしていて人間というよりも鬼のような姿になっていた。

 彼等は虚ろな瞳を僕に向けながら襲い掛かってくる。


「があっ」

「よっと」

「うあぁー」

「ほいっと」

「でりゃあ!」

「お?」


 向けられる拳を避けながら一人だけ元気に動いてる事に感心しつつ、諦めずに二度三度と振るわれる拳を避けていく。

 いや、決して遅くは無いんだけどね。ただなんというか単調な攻撃だ。やっぱり鬼人化すると思考力が低下するのか、それとも別の理由か。ともかく騎士団で行った訓練がまるで意味を成してない。

 その戦いの様子を見て敵の親玉は鼻を鳴らす。


「ふんっ、素手とはいえ3人掛かりでかすりもしないか。

 ま、それは予想の範囲内だ。

 お前達、遊びは終わりだ。そろそろ武器を使え」


 言われてようやく腰の剣を抜く3人。それは良いんだけど、どうして盾を持ってないのか。敵に捕まった際に無くした?僕なら剣を無くしても盾を無くすことはないのに。

 それはともかくチラリと横を見れば、今もウェアウルフを3体同時に相手しているティーラはこちらに来る余裕は無さそうだ。


「ご無事ですかアル様。くっ!」

「こっちは大丈夫だからティーラはウェアウルフをお願い」


 肩で息をするティーラに答えつつ、僕は襲い来る剣を避け続ける。拳が剣に変わっただけだ。ちょっとリーチが伸びただけで、普通に考えればどちらも当たれば必殺の攻撃に変わりはない。だけど周りから見たら余裕が無くなったように見えるようだ。


「ふむ。やはり元人間相手では攻撃しずらいか」


 僕が攻撃する素振りを見せないので何か勘違いされた。確かに武器は持ってないけど攻撃魔法の1つや2つ使えるけどね。でも僕が攻撃しないのは別の理由だ。

 敵の親玉は何か思いついたのか愉しげに口を開けた。


「そんな少年に良いことを教えてやろう。

 ここに鬼人化を直す薬が1人分だけある。

 もしお前がその3人の内、見事2人を殺せばこの薬で生き残った1人を元の姿に戻してやろう」


 そう言う男の手元には1本の薬瓶。本物かどうかは見ただけでは分かる訳も無い。僕は避ける動きを止めることなく彼に問いかけた。


「……本当に?」

「ああ、こんなことで嘘は言わないさ」


 もしそれが本当なら頑張ってみても良いかもしれない。僕の知る限り200年前にはそんな薬はなかった。当時は魔物に対抗するためにと治らないと分かっていながら敢えて鬼人化する人も居た。そうして魔物の群れに突撃して帰って来た者はほとんど居なかったし、帰って来てもまともに生活できずに死んでいった。

 当時そんな薬があればと癒しの勇者があれこれ研究を続けていたはずだけど、もしかしたら邪神龍討伐後に発明していたのだろうか。だとしたら嬉しい。

 だけど。


「手遅れだよ」

「んん?」


 短く答えた僕の声に首を傾げる。けどその意味はすぐに伝わった。なぜなら鬼人化した3人が至近距離で僕を囲み手に持っていた剣を振り下ろしてきたからだ。

 流れるように剣の軌道を避けた僕は彼らの腕をそっと押して軌道を調整した。すると。


ザシュザシュザシュッ。

「「「ガフッ」」」


 3人の剣がお互いを刺し貫いた。その口からは押し出されるように空気が吐き出されたが血の1敵も出てはいない。そしてそのまま倒れて動かなくなった。

 よし、魔力の温存成功。

 そして僕は血の流れない彼らの死体を見ながらため息交じりに答えた。


「手遅れだよ。だって彼らは既に死んでいたんだから。

 仮に元の姿に戻っても生き返ったりはしないよ」


 一目見た時から3人が呼吸をしていない事は分かっていた。鬼人化の影響で血色は分からなかったけど心臓だって動いている様子は無かった。生きているなら鬼人化したって呼吸も脈動もあるはずなのに。

 だから考えられるのは殺されてから傀儡にされて鬼人化されたってことだ。殺したのが誰かは考えるまでも無いだろう。


「敵討ちは趣味じゃないけど、あなたを生かしておくと犠牲者が増えそうだからここで倒させてもらうよ」


 そう静かに伝えて拳を突き出す。すると何が面白いのか男は笑い出した。


「ハハハッ。たかが傀儡を倒したくらいでいい気になるなよ少年。

 お前には真の鬼人化というものを見せてやろう!」


 そう言って男は持っていた薬瓶の中身を飲み干した。

 ってそれ、鬼人化を治す薬じゃないの!?



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