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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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23.救援

 街の外に出た僕達は真っ直ぐに南西を目指して走っていた。ただし僕はティーラにおんぶされる形でだけど。


「ごめんね、ティーラ」

「いえ。今回は頼って頂けて嬉しいです。

 それにアル様は軽いですから大盾1つ担ぐよりも楽です」


 まあ確かに。なんだかんだ言ってまだ5歳の子供だからね。もしティーラに弟がいたら実家にいた頃に同じようにおんぶしてたのかもしれない。

 ちなみにおんぶされてるのは別に走れないからではない。本気で走るとなると魔力強化をすることになるので出来れば避けたいってだけ。いわば魔力の温存だ。


「ティーラ、もうちょっと右」

「はい」


 時々方向を指示しながら走り続ける。

 ゴン達は魔力強化も覚えたての子供の足だから直ぐに追いつくと思ったのに、なかなかどうして速いじゃないか。


「ティーラ、もっと右。

 この感じだと追跡から逃走に切り替えたみたいだ。急ぐよ」

「分かりました!」


 僕の言葉に疑う事無く従ってくれるティーラは実にありがたい。面倒な人だと一々自分で納得しないと動かない人も居るからね。

 そうして走ること15分。


「追い付いた!」


 僕達の視線の先にはゴン達は見えず、ウェアウルフ達の後ろ姿だけが見えた。ただこれは……狩りを楽しんでいる?

 本当ならもっと早くゴン達を殺せた筈なのに疲れて動けなくなるのを待っているようだ。通常のウェアウルフにそんな習性はないはずだけど。でもそのお陰で間に合った。


「ティーラ。肩借りるよ」

「はい。っ!」


 ティーラの背中をよじ登り、その肩に足をかけて跳び上がる。すると魔物の向こうに木の根に足を引っ掛けて転んだ女の子とそれを庇うように立つゴンの姿が見えた。

 木の枝を構えたゴンを生意気とでも思ったのか、1体のウェアウルフがゴンに飛び掛かった。それを見て僕の左手が動く。


「ふっ」

バコッ!


 ウェアウルフの爪がゴンに届く前に、僕の投げた盾がその頭に叩きつけられた。

 頭を陥没させながら倒れるウェアウルフと地面に落ちる盾。


「な、なんだ!?」

「「ガルッ!?」」


 突然の事にゴンも周囲のウェアウルフ達も驚いて周囲を見渡してる。この辺りは戦闘経験の少なさが露見したな。熟練の騎士や老練な魔物ならその場で無防備に辺りを見るような事はしない。


「ゴン、盾を取れ!」

「その声はアルかっ?」

「良いから早く盾を取れ。ウェアウルフが正気に戻るぞ」

「お、おお!」


 僕の言葉を聞いてようやく盾を取って構えるゴン。その間にウェアウルフ達の動揺は治まり、新たに現れた獲物である僕とティーラを視界に収めていた。

 この3人の中だと明らかにティーラだけが武器を持った大人であり、ウェアウルフも全体の半分以上がこちらを警戒している。それでもゴンの所に5体って、子供2人にどれだけ群がってたんだか。

 不安げに僕の方を見るゴンに僕は声を掛けた。


「ゴン、僕達は目の前の敵を倒さないとゴン達の所まで行けない。

 だからそれまでその子を護れるのはゴンしか居ないからね!」

「あっ」


 僕に言われて改めて後ろにいる女の子を見れば怯えた目がゴンを見ていた。

 ゴンはそれに対しにっこりと笑いかける。


「安心しろエナ。エナの事は何があっても俺が護るからな!」

「うんっ!」


 ゴンの言葉に力強く頷く女の子。それを見たゴンの目も闘志を漲らせて敵を見据え、腹の底から大声を出した。


「俺はアルファス騎士団のゴン。

 護るものが後ろにある限り、アルファス騎士団は決して負けない。

 命が惜しくば去るがいい。

 だが向かってくるのなら容赦はしないぞ!」

「「グルルッ……」」


 ゴンの啖呵に魔物達は一瞬たじろぐものの、すぐに持ち直してゴンに襲い掛かって行った。

 っと、ゴンの方にばかり気を取られてる場合でもないな。こちらにも多数の魔物が迫っているのだから。


「アル様、お下がり下さい」


 左腕に盾を付け右手に槍を持つティーラは油断なく敵を睨み付けた。その立ち姿は自然で、特別強敵を前にしたという感じではない。


「一応、通常のウェアウルフよりも強いから気を付けて」

「大丈夫です。日々アル様にして頂いている訓練に比べればなんて事はありません。

 せいやっ!」

ドスドスッ。


 ティーラが気合を入れて槍を突き出せば、目にもとまらぬ速さで2体の胸が鮮血に染まった。なるほど、先日見た時よりもだいぶ上達しているようだ。

 返り血を頬に受けつつティーラは二ッと笑う。


「さあ死にたい奴から掛かってきなさい」

「おや、新たに獲物が掛かったと思ったら随分と威勢が良いじゃないか」

「誰だ!?」


 横手の茂みから第三者の声が聞こえてきた。そちらを見れば黒尽くめの男と3体の人型の魔物が立っていた。周囲のウェアウルフが彼らを狙わないことからして、関係者のようだな。


「あなたが魔物たちを操っている黒幕か」

「黒幕とは人聞きが悪い。

 確かに魔物を増やし強化したのは我々だがな。残念ながらそいつらは操れる程頭が良くないんだ。精々獲物を指し示してやるのが関の山だったよ」


 まあ確かにウェアウルフは犬ほど賢くない。頑張れば指示を聞かせられるかもしれないけどそれなりに時間が掛かるだろう。

 黒幕の男はどこか楽しそうにこちらに尋ねて来た。


「それよりそこの少年のことだろう?この街にやってきたおかしな貴族の子供というのは」

「それ、あんまり頷きたくないね」

「いやいや、この状況で冷静でいられる時点で十分おかしいからな」

「あ、なるほど?」


 ちょっと納得してしまった。

 普通の子供は魔物に囲まれて、しかも悪の親玉まで出てこれば恐怖で震えるか、逆に子犬のようにキャンキャン喚くかのどちらかだろう。まるで近所のおじさんと会話しているような今の状況は普通とは言わないか。

 ただ、別に困ってない訳でもない。

 僕はゴンに盾を預けてしまったし、ティーラはウェアウルフの相手をしてもらわなければならない。あと1つ2つ手駒がないと勝てないか。



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