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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
最終章:世界は勇者を求めている
128/131

128.帰るなら引き取って欲しいものがあります

 目を覚ませば僕は安楽椅子に座りながら精霊樹の木陰で穏やかな午後を満喫しているところだった。そこへ別の影が僕の顔を覗き込んだ。


「お目覚めですか、アル様」

「サラ?」

「はい。あなたの永遠のメイド、サラでございます」


 ちょっと冗談めかして答えるサラ。目の前に精霊樹があるってことは場所は移動してい無さそうだけど、それならどうしてサラがここに居るんだろう。


「えっと、もしかしてまたけっこう長い事寝てたのかな」

「いえ、ほんの1週間ほどです」


 1週間か。なるほどそれだけあればサラの足なら余裕でここに辿り着けるか。


「僕が寝ている間に何か事件はあった?」

「いえ特には何も。

 強いて言えば前線都市に東の連合国から使者が来たくらいでしょうか」

「使者、ね」


 サラの様子から恐らく使者とは名ばかりの痴れ者を寄越したっぽい。

 国家としては崩壊している剣の王国領内に突如建造された都市だ。今なら防衛力も低いだろうし、そこを確保できれば大陸の覇権を握ることも出来るかもしれない。なんて欲に駆られたのかな。実際には本気の戦争を仕掛けるつもりじゃないとビクともしないんだけど。


「フィディは家の中?」

「はい」


 僕はサラを連れて魔王城(笑)のログハウスへと入った。

 その内装は最初に入った時の「ザ・魔王の間」から一変して普通の木造の家になっていた。まぁ本来はこっちの姿で、魔王の間は僕を迎える為に用意した幻影空間だったんだ。


「おはよう、フィディ」

「あ、起きたんだ。流石サラね。

 昨夜ふらっとやって来てアルの寝顔を見るなり『明日には起きそうですね』なんて言うものだから本当かなって思ってたんだけど」


 それはすごいな。サラの前で何度も長期に渡って寝ているとはいえ、なにか起きる予兆があるんだろうか。今度聞いてみよう。

 さて、家の中にはフィディの他は誰も居ないようだけど。


「ご両親は?」

「アルが眠りに就いてすぐに出て行ったわよ。

 私の元気な姿も見れたしお祖母ちゃんのところに行ってくるって」

「そっか。まぁ彼らについては僕がとやかく言う必要は無いし。

 それより今度僕らもフィディのお祖母ちゃん達に会いに行こうか」

「そうね。あのふたり、アルを見てどんな顔するかしら」


 くすっと笑うフィディは悪戯を思い付いた孫の顔だ。ただまぁあの二人の事だから驚くこともなく平然と受け入れそうだけど。お尻を蹴られる覚悟だけはしておこう。


「さて、他の皆を街に置いてきちゃったし、そろそろ帰ろうか」

「ええ。って、私も?」

「もちろん」

「私いちおう魔王なんだけど」


 ばつが悪そうに言うフィディだったけど、僕はその手を取って外へ連れ出すことにした。


「大丈夫だよ。どうせここまで来れる人は居ないし来ても邪神龍モドキが相手してくれるし。

 魔王の姿を直接見た人も居ないからフィディがそうだと思う人も居ないよ。

 それに」

「ん、なに?」


 一度言葉を切った僕を怪しむような目を向けるけど、まあ事実ちょっとした悪だくみを検討中だ。


「向こうに戻ってからだけど、ちょっと計画してることがあるんだ。

 それの為に皆の力を借りようと思ってるから楽しみにしてて」

「私には嫌な予感しかないのだけど。

 でも楽しそうね」

「少なくともこんなところで一人で居るよりよっぽどね」


 そうしていざ帰ろうとしたところでツンツンと肩を叩かれた。振り返れば精霊樹の少女が立っていた。


『これを』

「何?」

『200年前からお預かりしていたものです』


 そう言って差し出してきたのは1枚の盾。手に取って眺めてみれば200年前から全く変わらず、どこも錆びた様子もない。そして装着した瞬間、盾の表面がキラリと光った。


「アル様、それは?」

「盾の勇者時代に使っていた盾さ。

 元々は城の地下に眠ってたのを前世の僕が掘り起こして使ってたの。

 邪神龍と最後までやり合えたのもこの盾あってこそだね」

「ってアル。その盾、精霊に近い何かが宿ってるわよ?」

「みたいだね。こういうのを付喪神っていうんだっけ」


 元々はただの特殊な金属を使って鍛え上げられた盾だったはず。それが長い年月を経て意思を持つようになった。これがまた難儀な性格で使う相手を選ぶので、僕が見つけるまで誰も使えず、見つけてからは他の手持ち武器は一切使わせてくれないという徹底ぶり。僕がこの姿になってから剣などを持てなかったのも多分この盾のせいだったんだろうな。


「再会したからにはこれからこき使うからよろしく!」

キラッ!


 僕の言葉を聞いて反応を返す盾。しゃべることは出来ないけどこっちの言葉は分かるみたいなんだよね。付喪神も精霊に近い存在だろうし、もしかしたら精霊樹の少女に迷惑を掛けてたんじゃないだろうか。ちょっと心配になったけど少女はニコニコしてるし、大丈夫だったのかな?まあ問題なかったならいっか。

 さてじゃあ今度こそ帰ろうかと思ったけど、歩いて帰るのは面倒だな。


「邪神龍モドキに送って行ってもらおうか」

「あれを乗り物がわりにするのはどうかと思いますが」

「まぁまぁ。それとフィディ。毎回、邪神龍モドキって言うのも面倒なんだけど名前とか無いの?」

「えっと、一応私はジャモって呼んでるけど」

「ジャモか。良い名前だね」


 3人でジャモの所まで行くと、ジャモは僕を見て若干怯えた様子を見せるけど襲っては来なさそうだ。


「ジャモ。心配しなくても僕や僕の大切な人を襲わなければ僕は君を攻撃しないよ」

『ガウ?』

「うん、よしよし」


 体格差があり過ぎるから僕は飛び上がってジャモの鼻の頭を撫でてあげる。お、意外とすべすべしてる。ジャモも気持ちよさそうだし良かった。


「それで先日行った街まで僕らを届けて欲しいんだけどお願いできるかな?」

『ギャオオオッ』


 元気よく叫び声をあげる。これはOKのサインだね。その証拠に身体を低くして僕らが乗りやすいようにしてくれてるし。

 僕らがひょいっと背中に飛び乗ると、ジャモは元気よく飛び上がり南へと向かってくれる。やっぱり空を飛ぶなら翼のある生き物がいいね。この風を髪に受ける感じが気持ちいい。

 なんて思ってたら早くも僕らの街が見えてきた。


「ところでアル様。ジャモで向かったら街の皆さんが驚きませんか?」

「言われてみれば。エンジュの矢とかが飛んできてもおかしくないね」

「でもないみたいよ。

 ほらあれを見て。こっちの姿はもう気付いてるはずなのに私達そっちのけで東側に軍を展開してるわ」


 フィディの言う通り、僕らがやってきた北側には見張りが数人居るだけで、残りは東側に居る。


「東と言えば連合国か。

 あ、確かに居るね」


 空から見れば万を超える軍隊が街に接近しているのが良く分かる。どうやら本気で戦争を仕掛けてきたようだ。

 


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