129.鬼に金棒、勇者に盾
「ご主人様~」
ふわりと街からエンジュが飛んできた。遠目で見ればこちらは邪神龍モドキが接近してるようにしか見えないと思うんだけど。あぁそうか。向こうにはキャロが居るからな。僕の気配に気付いたのか。ジャモもエンジュから僕の匂いを嗅ぎつけたのか攻撃する素振りも見せない。よしよし。
「ただいまエンジュ」
「はい、おかえりなさいませ。
フィディさんもおかえりなさい」
「ええ。またお世話になるわ」
フィディのところに辿り着いたエンジュはそのまま頭を撫でられて気持ちよさそうにしてる。横で見てる僕やサラもにっこりだ。
ずっとこの光景を見ていたい気もするけどそうもいかないか。
「それでエンジュ。あの軍隊は?」
「あ、はい。先日、連合国からこの街を譲渡しろっていう使者が来たのを突っぱねたのですが、今度は実力行使に来たみたいです」
「じゃあ敵だね」
『ギャウ?』
ジャモが「殲滅する?」って感じで聞いてきたけど、それやるとまるで僕がジャモを使役してるように見えるかもしれない。そうすると僕らを魔王の尖兵だと言う人が出てくるかもしれない。それは面倒だ。
「うーん。あ、そうだ」
「なにか閃きましたか?」
「うん! ジャモ。僕らが降りた後、全力のブレスを街に放ってほしいんだ」
『ギャ!?』
「大丈夫大丈夫。ちゃんと僕が防ぐから」
『……』
僕の言葉を聞いてジャモがちょっと残念そうな顔をしてるけど、どうしたんだろう。
「アル様。そんな簡単に全力攻撃を防がれるのは戦士にとって屈辱的な事ではないでしょうか」
「あっ。それもそうだよね。ごめんな。
でもジャモはまだまだ成長期で過去に存在した邪神龍と比べれば赤子も同然なんだから、これからだよ。
これから瘴気や魔力や美味しいお肉を沢山食べて技を磨いて行けばもっと強くなれるんだから、今回は今の自分の力量を測ってみようくらいの気持ちで良いんだよ」
普段はなかなか全力のブレスなんて撃つ機会は無いだろうし、今時代であれば僕以外に受け止められる人も居ないだろう。
「今後もこの前みたいに魔物を率いて遊びにおいでよ。
いつも僕が居るとは限らないけど、あの街も簡単には落ちないように強化しておくからさ」
『ギャオッ』
「じゃあまたね」
今度は嬉しそうに鳴いたジャモの頭を最後にひと撫でして、僕らはその背中から飛び降りた。
街の外壁に降りたつとティーラとキャロが僕らを出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。アル様。
フィディもお帰り」
「今回は意外と早く帰って来たな。
てっきり向こうで数年は寝てくるのかと思ったぞ」
「あ、はは。そう毎度毎度寝ても居られないさ」
キャロの言葉に苦笑しつつ、その頭を撫でる。
と、まったりしている場合じゃないな。
「ティーラ。今から邪神龍モドキ、ジャモが全力ブレスを吐くから、騎士団の皆には街の中に避難するように指示を出して」
「はっ。畏まりました」
「サラとエンジュとキャロは街の人達が混乱しないように声掛けをお願い」
「「はいっ」」
僕の指示を受けてみんなが颯爽と駆け出していく。
「アル。私は?」
「フィディは僕と一緒にここでジャモの全力を見届けよう」
「分かったわ」
見上げればジャモがブレスを放つべく溜めに入っていた。光る口元はまるで第二の太陽が生まれたかのようだ。
当然それは街の人達や騎士団、そして接近してきている連合国の軍隊にも見えている。街の方は特に混乱の兆しが無いのはサラ達の声掛けが功を奏しているから、なんだろうけど、あれで良いのだろうか。
「皆さんご安心ください。アル様がご帰還されました」
「みなさ~ん。私達にはご主人様のご加護がありますから大丈夫ですよ~」
「みんな!またアルが何かやらかすらしい。これは見ものだぞ!!」
その声を聞いて皆、避難するどころか見物しようと家の外に出てくる始末。まあ結果として家事の手を止めて広場に集まるのだから、火事の心配も減って振動で崩れる何かの下敷きになる人も居なくなるのだから良い事か。
対して連合国軍はと言えば、足を止めこちらの様子見を始めた。そりゃあジャモの標的はこっちの街だ。変に近づいて巻き添えを食らったらたまったものじゃないし。ブレスを受けて混乱したところを攻めれば楽に占領できると考えてるのかも知れない。
「さて、ジャモの方の用意が出来たみたいだね」
言いながら僕は一歩外壁から飛び出す。
「さあ再会してからの初仕事だ。行けるね?」
キランッ
僕の呼びかけに応えて光る盾を掲げた僕にジャモがブレスを放った。
『ギャオオオオオッ』
先日の襲撃の時よりも更に強力で、防がなければ街がまるごと更地になりかねない一撃だ。
そんな一撃に対して僕はいつものように盾を持つ手に軽く力を籠める。
「『パリィ』」
ぺしっ
やっぱり本物の盾があるのとないのとでは護りの質が大きく違う。この前はちょっと腕が痺れたけど、今回はまるで抵抗なく弾き飛ばせてしまった。
そして弾かれたブレスは街から大きく逸れて、東の連合国軍の居る場所に落ちた。
ドドドーーンッ!!
「「「ぎゃあああああっ」」」
直撃。一応魔法を使える人たちが防御魔法を展開したっぽいけど、まるで意味をなさず吹き飛ばされていた。
全体の1/3が消滅し、残った軍も爆発の余波だけでズタボロだ。あれではこっちを攻めるどころではないだろう。
「くそう、撤退。撤退だ!」
慌てて撤退していく。けど、重傷者はその場に放置か。酷い奴らだ。
ただこれで、この街を占領しても邪神龍モドキの脅威に曝されることが明確になったので、今後は手を出そうとは考えないだろう。
「ティーラ。あの馬鹿どもが逃げ去ったら負傷者を回収してあげて」
「分かりました!」
さっきまで敵だったとはいえ、戦意喪失した負傷者だというのなら助けなくはない。その見返りに元気になったら街の発展の為に働いて貰えば良いだろう。
ジャモは、ブレスを吐き終わってすぐに北の空に帰って行ったか。今度お土産持って遊びに行ってあげようかな。




