122.懐かしのあの場所へ
お待たせしております。
だいぶ日常生活が落ち着いてきました。
といっても全くストックが出来ていない状態なのでもうしばらくお待たせすることになります。
頑張って忘れられない内に更新していきます。
ぶっ飛ばした邪神龍モドキを追いかけて空を駆け抜ける僕を地上の騎士達は畏怖の眼差しで見送っていた。
「すげぇな」
「ああ。何をどうやったらあんな巨大な魔物を軽々と弾き飛ばせるんだ」
「ブレスとかも防ぐどころか撃ち返してたしな」
「俺達じゃあ爪撃を防ぐので精一杯だろうか」
「いやまずは空を走ってる所を突っ込めよ」
そんな雑談をしながらもきっちりと迫るレッドドレイクを処理しているのは流石だが、激戦を繰り広げる中でその声を聞きつけたティーラは彼らを叱責した。
「お前達。良い事を教えてやる。
アル様は以前私にこう言っていたことがある。
『常軌を逸した力は感動ではなく恐怖を生み出す。だから僕は皆の前では誰でも研鑚を積めば出来ることしかしないようにしてるんだ』
つまり私達も己を磨き続ければあれが出来るようになるという事だ。
羨む暇があったら己を鍛えよ」
「「はっ!!」」
「私もアル様に出会うまではただの一兵卒に過ぎなかったが今ではこれくらいは余裕だ。とうっ!」
ジャンプ1つで軽く5メートル飛び上がったティーラが地上の魔物達を睨みつける。次の瞬間、槍を持つ右手が消え、同時に半径20メートル以内に居たレッドドレイクの頭が吹き飛んだ。ドレイク達は自分の頭が無くなったことに気付かないかのように数歩突進を続け、それからようやく地面へと倒れて行った。
それを見て古参の騎士団員が色めき立つ。
「うおおぉぉ。ティーラ団長が目に物見せたぞ!」
「続け~。というか、急がないと獲物全部取られるぞっ」
「魔物ももう残り半数も居ないしな。
最初の勢いが無くなって、もう少ししたら逃げるんじゃねえか?」
「おいおい、そしたら肉の配分が減るじゃないか!」
そう言っている彼らの後ろには既に毎日焼肉パーティーしても食いきれない程の肉の山が出来上がっているのだけど。
そしてふと空を見上げればワイバーンもまばらにしか居ない。もっとも、空を飛ぶ関係上、向こうの方が戦闘領域は広いから今いる場所からでは見えないのも居るとは思うが。
だけど地上と空とどっちが先に戦闘を終えられるかは微妙なところか。
「お前達。人数はこっちの方が多いのに空の魔物の討伐に後れを取ったとなったら、明日からの訓練量は3割増しだ!」
「「ええ~~~っ」」
「う れ し い だろう?」
「「い、イエッサー―!!」」
ティーラの発破を受けて気合を入れなおす騎士団。魔物の討伐終了まではもう少しだ。
一方、邪神龍モドキの方はどうかと言えば、森の奥地に墜落した後、再び反撃してくるかなと期待してたんだけど違った。
「ギャウゥゥゥ」
「逃げちゃうのか」
一目散にとか這う這うの体でって言葉が似合うくらい大地を四つ足で北へと走っている。飛んだ方が速いんじゃないかなって思ったけど、ちらっと僕の方を見上げたのを見ると空には僕が居るから飛んだらまた叩き落されると思ってるのかもしれない。
このままあいつの逃げる先を追っても良いんだけど、あれじゃあちょっと遅いし万が一誰かに見られたら邪神龍モドキの評判が下がってしまう。
「よっと」
「ウギャッ!?」
僕は邪神龍モドキの頭の上に着地した。ゴツゴツして座り心地が悪かったので空気の盾を敷いて調整しつつ、ぺしぺしと邪神龍モドキの眉間を叩いた。
「ほら飛んで。飼い主の所まで案内しなさい」
「ギャオオオッ」
僕の言葉を理解したのか、邪神龍モドキは慌てて翼を広げて飛び上がり北へと向かった。
深い森と低い山、正確には昔邪神龍のブレスによって山頂部分が吹き飛び低くなった山を飛び越えた先にあったのは、再びの森とその森から突き出る1本の巨大な木。そしてその隣には空き地とログハウスが建っていた。
「ログハウスって。魔王城って感じじゃないなぁ」
どちらかというと森の別荘とか言った方が似合う佇まいだ。
だけど。その代わりに明らかにあそこが目的地だと分かるものが鎮座していた。何かと言えば巨大な白骨。そう、邪神龍の骨だ。200年の時を経て強靭な邪神龍の肉や鱗も土に還ってしまったんだな。まぁ死んで魔力が流れなくなったらそれも仕方ないか。
バサバサと飛ぶ邪神龍モドキはその骨の傍らにゆっくりと着地した。どうやら骨であっても自分の元となった存在だということは分かるのだろう。だからこそここに住む者に飼われているという説もあるのかもしれない。
ふぅっと息を吐きながら辺りを見渡す。ここは200年前に僕と邪神龍が最期を迎えた場所だ。当時は戦闘の余波でこの辺り一帯、草一本生えない死の荒野となっていたので残念ながら懐かしさは無い。てっきり今もそのままかなと思ってたけど緑に覆われていて一安心だ。
ふと、視線を感じて振り向けば上空からも見えていた大木。
「……もしかしてあの時の若木?」
『(さわさわ)』
僕の呟きに答えるように枝を揺らして見せる大木は、200年前に1本だけ残っていた若木が成長した姿だろう。なるほど精霊樹だったのか。それにしてもたった200年で凄い成長速度だと思うけど、その栄養はどこから?って邪神龍の遺体があったか。
そして精霊樹があるならこの一帯に森が出来たのも納得がいく。以前は瘴気が渦巻いて普通の人なら立ち入ることすら出来なかったと昔の書物には書いてあったのに今は爽やかな魔力の風が吹いている。その風に乗って嗅ぎなれたというと語弊があるけど彼女の魔力も流れてきた。
僕は邪神龍モドキをその場に残してログハウスへと向かった。そしてノックと共に扉を開ければそこは石造りの謁見の間だった。盾の王国の城にもあったけど、広場の奥に数段高くなった場所がありそこに王の座る椅子が用意されている。……何でこんなものがログハウスの中に用意されているのか。
入った時は薄暗かったが僕が部屋に入ると同時に扉が閉じられ、壁に掛けられていたロウソクに火が灯って行き室内を明るくしていった。
そして奥の椅子、玉座にはいつの間にか魔王が座っていた。




