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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
最終章:世界は勇者を求めている
117/131

117.ここは前線基地です

 前線基地の建設は、体力も魔力もあり余っている騎士団が行っているお陰で通常では考えられない程のスピードで進んでいた。もっとも、作っている区割りに比べて人口が少ないのでスカスカだ。なのでついて来てくれた騎士団の皆には開拓者特典として好きな住居区画の所有権をプレゼントした。

 また保護した女性陣に対しては何らかの店舗を経営するという条件の元、タダ同然で1区画を貸し与えることにした。今の所、申請が出てるのは宿屋や飯屋、雑貨屋なんかが中心だ。珍しい所で洗濯屋なんてものもある。そして、うーんこれはどうなんだろう。娼館。まあ申請してきた本人が客を取って商売するというのだから良いのか。現状の見込み客は騎士団の皆なんだけど。ま、仲良くやってもらおう。


「で、それは良いんだけどさ」

「何か問題がありましたか?アル様」


 僕の質問にしれっと答えるサラ。これは全部分かってて言ってるっぽい。


「僕は皆に前線基地を造るようにと指示を出してある程度の区割り図を渡して建設はお任せしてた訳だけどさ。

 そのどこにも城を造れなんて書いてなかったはずなんだけど」


 今僕らの目の前には盾の王国の王城と見比べても遜色のない規模の城が建築されている。しかもなぜか他のどの施設よりも最優先で作業が進められているっぽい。

 要塞ならともかく城は求めてないんだけど。


「ご安心くださいアル様。確かに区割り図にはあります」

「いつの間に?」


 一緒に区割り図が張られている看板を見に行けば、城が建てられている所には大きくこう書かれていた。


『アルファス王の住居』


 あ、なるほど。僕の家だったのか。確かに僕の家は適当に日当たりのよい場所に作っておいてと伝えてた。建設中の城は、まぁ確かに日当たりは良さそうだな。

 それで、これはツッコミ待ちなのかな。


「いつから僕は王様になったんだろうね」

「剣の王国がまともに機能していない今、ここは空白地帯と言っても過言ではありません。

 そこへこれ程大規模な基地を建設したとなれば周辺領地を含めて所有権を主張しているようなものです。

 また先日アル様の指示で、近隣の町や村に対してここに基地を建設中であることを告知したところ、魔物の討伐をして頂けるならどうか傘下に入らせてくださいと頭を下げて来たそうです」


 僕としては単純にご近所に挨拶して回って、これから仲良くしましょうねっていうだけのつもりだったんだけど。


「移住希望者と思われる集団が多数こちらに向かっているのが確認されていますし、アルファ商会の動向を察知して他の商会も動き出しているという話もあります」

「そうなのか。

 ここ、北に少し行ったら凶悪な魔物が多数生息している森があるし、その先には魔王が居るはずだから安全かと問われたら全くそんなことは無いんだけど良いんだろうか」

「真面な自警団もない町に比べたら立派な外壁があるだけでも十分安全かと思われます。

 それにアル様がいらっしゃる間は何が来ても心配はないでしょう」

「いやそうなんだけどね」


 たとえ今、千を超える魔物の大軍が押し寄せてきたとしても僕と騎士団の皆が居れば余裕で撃退出来る。軽傷者は出るかもだけど、死者が出ることは無いだろう。

 ただ一番の問題は、僕は王様になるつもりはないって事だろう。なにせ王様になったらこの場所から動けなくなってしまうから。それじゃあ騎士団の皆を引き連れてここに来た意味が無い。


「僕の代わりにティーラに女王になって貰ったらダメかな」

「ティーラさん、発狂しそうですよ」

「騎士団の統率とは訳が違うからなぇ。

 宰相とか執政が得意そうな人かぁ……あっ。ラバックなら行ける気がする。

 というかこのネタ仕込んだのはラバックか」


 元裏の騎士団長のラバックは騎士団長でありながら酒場のマスターもやってたし、荒くれ者たちの手綱をしっかり管理出来ていた事からもカリスマがあることが分かる。彼なら僕に気付かれずに騎士団を動かす事だって出来ただろう。ティーラだって出来なくはないけど、彼女が僕の意を無視して行動するとも思えないし。


「という訳でラバック。今日から君を宰相に任命する」

「えっと。いきなりやって来て何事ですか」


 休憩所でのんびりお茶を飲んでいたラバックの所にやってきた僕は開口一番に要件を伝えた。ラバックは普段冷静沈着だからこうしてちょっと驚いた顔は新鮮だ。

 って別に驚かせるために来たんじゃなかった。


「いつの間にか僕が王様に仕立て上げられたり、王城を建設するように作業が組み替えられてたんだけど何か心当たりはないかな?」

「さあ~知りませんなぁ~」


 白々しいまでのとぼけっぷりだ。まぁ隠す気はないんだろうけど。それにラバックがさっさと僕を王にしたい理由も何となく分かっている。何事も足元が安定していないと簡単に崩れるのと同様に首が据わってないと簡単に倒れるものだ。

 だから僕を玉座に腰を落ち着かせて安寧を得ようとしたんだろう。

 だけど残念。僕にその気はない。


「悪いけどラバック。僕はお客さんの出迎えが済んだあたりでここを発つ予定だ」

「お客さん?誰か招待していたんですか?」

「いや、向こうが勝手に来るだけさ。早ければ1月以内には来ると予想している。

 僕が出ていった後のここの管理は任せるよ」

「良いんですか、そんなことをして。

 アルファス様が居ない間に私が王に成り代わってるかもしれませんよ?」

「うん、それでいいよ。むしろ王になってくれると僕が楽だ」


 ニヤリと笑って問いかけるラバックに僕はあっけらかんと答えた。別に善政を敷いて僕の邪魔をしないなら誰が王様でも良いんだよ。そもそもの話、国にする気なんて無かったんだから。

 ここはあくまで魔王の居城への最前線基地で、魔王軍の侵攻を食い止めることと勝手にどこかの軍が魔王に攻撃を仕掛けないようにすることが主目的だったりする。


「まあそれは追々考えてもらうとして、ちゃんと基地として防衛力の強化を優先してね」

「はっ。そちらも抜かりなく進めています」


 まったく良い返事なんだから。これでラバックの場合、返事だけじゃなく実を伴ってるから文句も言いづらい。

 そうして、予想通りそれから3週間後にお客さんがやってきた。



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