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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
最終章:世界は勇者を求めている
114/131

114.各国からの使者

 邪神龍モドキと魔王の誕生で戦争がすぐに終結したのは良かったのだけど、それですっぱり終わり明日からは仲良くしていきましょうね、などとはならないのが大人の政治の世界。なのに1週間と経たずに槍の王国から停戦と和平を申し込む使者が送られてきたのは驚異的とも言える。


「そちらから一方的に仕掛けておいて今度は和平をなどと良くも言えたものだ」


 ツビーはその行動に不満を漏らしているけど僕としてはよくぞ決断出来たなと褒めてあげたい。それと使者としてやってきたのは戦場で僕が話した将軍が直々に来ていた。


「お怒りはごもっとも。

 そして槍の王国としても対等な話し合いが出来るとは思っておりませぬ。

 まずは国王からの書状に目を通して頂けないでしょうか」

「ふむ」


 父上とツビーと3人で書状の内容を確認する。そこには時候の挨拶から始まってつらつらと懇切丁寧に今回の事態のあらましが包み隠さず書かれていて、要するに長い。誠意は分かるんだけどもうちょっと要点を絞って書いて欲しいものだ。

 そして要約すれば今回の戦争は剣の王国に唆されたとは言え全て自分たちに責があり、賠償出来るものは全て賠償したい。代わりに魔物から国を護る為に支援をお願いしたいそうだ。いざとなれば従属することも視野に入れているというのだから相当なものだ。


「それほど槍の王国は逼迫した状況だということですか?」

「お恥ずかしながら。

 現在、槍の王国は西側の領土の1/3を放棄し戦力を集中することで何とか魔物の侵攻を食い止めている状態です。

 それに加え、先日の魔王誕生の話で国民に不安が広がり人類滅亡説を唱えて扇動を行う輩まで現れて混乱を極めています」


 うん、それは盾の王国でもあった。

 あの魔王の放送は人が住むほぼ全ての街や村に届けられたけど、事情を何も知らない人達があんなものを聞かされたら明日には魔物の大軍が押し寄せてきて世界は亡びるんじゃないかと考えてもおかしくない。

 僕らも各領地に戻る騎士達に今まで通りで何も心配要らないと告げて回るようにと伝令を出したほどだ。まあ幸いにして僕らの護りの理念が功を奏して「魔物が攻めて来ても護りきってやるぞ!」という国民の団結が生まれて混乱には至っていない。これが血気盛んな国なら自分たちで魔王を倒すぞって国民が暴走しだすところもあるかも。まぁ言い出すとしたら東の連合軍くらいだけど。


「しかし前半の謝罪はともかく、後半の支援はなぜ我が国に?

 あなた方の国なら魔法の王国に頼る方が自然ではないですか」

「はい、魔法の王国にも同盟の使者は送っています。

 ですが最終的にどの国が一番信用出来るかといった議論をした結果、盾の王国であると結論に至りました。

 ですので、命を預けるならば盾の王国へ。

 もちろん先の戦争の件を許して頂けるのならばですが」

「ふむ」


 別に僕らとしては先の戦争についてどうこう言うつもりはそれ程ない。しかし実際に戦場に立った騎士や兵士たちはどうだろうか。命を落とした兵士の家族達に「昨日の敵は今日の友」と言って納得してもらえるだろうか。正直厳しいだろう。


「残念ながらまずは謝罪と賠償を受け入れつつ相互不可侵。これが今すぐ受け入れられる限界でしょう」

「はっ。それだけでも受け入れられること感謝致します」


 槍の王国としても従属や支援は虫の良い話だと思っていたようですぐに引き下がった。これでひとまず使者の方との会談は終わりかな。

 細かい賠償額の調整などは文官にお任せすることになる。お金のあれこれは時間が掛かるしね。


 そして槍の王国の使者が来てから半月後。今度は魔法の王国から使者が来た。若干偉そうな態度が気になるけど、話の内容としては魔物に対抗するために力を合わせて行きましょうというものだった。

 ただし具体的にこうしようという話はしてこない。それは下手に言質を取られて責任を押し付けられない様にするためだ。力を合わせようと言いつつも何かと無償の支援をかすめ取ろうという下心が見えて気を許す気にはなれない。

 あ、そうだ。折角使者が来てくれたんだから確認しておこう。


「ひとつお尋ねしますが、魔法の王国は魔王についてどのように対応するのが良いと考えていますか?」

「はい。早急に討伐隊を編成し滅ぼすべきです」

「そうですか。ありがとうございます。ではお帰りはあちらです」

「兄上?」


 急に冷たい態度を取った僕に驚くツビー。あ、公式の場だからいつものようにアル兄ではなく兄上と呼んでくれている。これはこれで新鮮でいいな。じゃなくてだ。


「使者殿。もう2点お聞きしたいのですが、なぜ早急になのですか?」

「それは、誕生したばかりの今ならまだ魔王も力を付ける前だと考えられるからです。

 それに魔王が誕生したとなれば魔物の活動も活発になり、このまま放置すれば人類は更なる窮地に立たされるでしょう」

「その不確定情報はどこから出てきたのでしょうか。

 一体いつ誰が魔王が誕生したばかり、などと言ったのですか」

「え、いえ。それはその、先日の一件以前は魔王などという存在は風の噂にも聞きませんでしたし」


 ここで『流石魔法の王国は風の精霊の声が聞けるんですね』などと揚げ足を取ったら話が進まないか。というかこんな大事な話を噂話を元に判断しないでほしい。


「僕としては先日のあれは『こちらは準備万端だ。いつでも掛かって来い』と言っているように聞こえました。

 それに過去の文献を読み返しても魔王が現れたら魔物が活発に人間を襲うようになったという記述はありません。

 もっとも、魔物は元々人間を襲う存在ですけどね」

「それでは魔王とは一体……」

「人族の王と同じように一国の王というだけでしょう。

 たった1人の魔王が世界中の魔物を管理出来るとも思えませんし特定の地域、つまり国内の魔物を統べる王ってだけじゃないですか」


 これは例え誰が魔王だったとしても同じことだ。

 魔王などと仰々しく呼ばれても遠く離れた魔物に影響を与えることは出来ないし近場でも末端の魔物の一挙手一投足まで管理することなんて出来る訳がない。


「そしてもう1つ。討伐隊をと言いましたがそれは一体誰が派遣するんでしょうか。

 最強と名高い魔法の王国の魔導士様方が向かわれるのですか?」

「もちろんその際には我が国からも幾人か派遣させて頂きますが、魔導士とはつまり後衛。ここはやはり先日大国2国を相手に圧勝された盾の王国の精兵に前衛を務めて頂くのが最も被害が少なくなると考えます」


 つまり僕達を当て馬にしてヤバそうだったら尻尾を撒いて逃げるって事じゃないか。ここに至って父上もツビーもこの使者の話を一切聞く気がなくなっていた。


「情報を制する者が戦を制するとも言う。

 まずは相手戦力が分かるまでは我が国は動く気は無いと魔法の王に伝えて頂きたい」

「そんな悠長なことを言って手遅れになっても知りませんぞ」


 捨て台詞っぽい言葉を残して魔法の王国の使者は帰って行った。あの様子を見るに、槍の王国の使者が言ってたようにあまり信用は出来なさそうだ。

 おまけで、癒しの王国からは使者ではなく書状が届いた。そこには今は剣の王国の治安が悪化していて真面な使者が送れないことの謝罪と、僕らが倒した魔物のお礼、あとはお互い大変だけど頑張っていきましょうという激励が書いてあった。教皇の事だから自国の防衛にのみ専念するつもりだろう。

 剣の王国?働き盛りの大人を大勢失って大変だと思うけど頑張って欲しい。噂では東側を連合国に齧られたとか首脳陣が例の結社の傀儡と化してるとか聞くけど、こちらに干渉してこないなら勝手に滅んでくれれば良いとさえ思ってる。



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