113.遠くに行ったあの子を想う
盾の王国に帰ってきた。馬車で迂回したり何だかんだあって1カ月近い旅行になってしまった。久しぶりの自分の部屋はやっぱり落ち着く。
先日の戦争の結果を確認してみれば、我が国の死者は12人。あれほどの大規模な戦争でたった12人しか失わなかったのは奇跡的ともいえるが、犠牲者が出たことに喜ぶことは出来ない。彼らの実家には遺体と共に十分なお金を送ってもらった。少なくとも残された家族が安心して暮らせるようになって欲しい。
重傷者に関しては千人近く居て彼らの多くはまだ治療中だ。後遺症などが残らないと良いなと思うが、片腕を失ったり走れなくなったりした者は居る。やっぱり戦争なんてものは禍根しか残さないな。
それら事後処理は父上とツビーに頑張ってもらうとして、今僕の部屋にはサラを始め主要なメンバーに集まってもらった。
「みんな今回はお疲れ様でした。
特にティーラは僕が居ない間に軍をまとめ上げてくれてありがとう。
お陰で犠牲は最小限で済んだと思う」
「はい。そう言って頂けて肩の荷が下りました」
「さて、ここに集まってもらったのは他でもない。魔王についてだ。
父上に確認したところ王都や周辺都市にも同様に魔王の声が届いていた事から全国各地にあの声は届けられたんだと思う」
僕の言葉にみんなは神妙に頷く。
「みんな、あの声の主が誰か分かったよね?」
この問いかけにもみんな頷いた。低くて渋い声に変えられていたけど、あの程度で僕らの耳をごまかす事は出来ない。
「フィディさん、ですよね?」
「うん、間違いなく」
そう、今この場に居ないもう一人の僕らの仲間。ライトエルフとダークエルフのハーフという珍しい血筋を持った魔法が得意な少女フィディ。僕が目覚める前に精霊に呼ばれて出て行ったとは聞いていたけど、それがなぜ魔王を名乗ることになったのかは謎だ。
「あの、もしかして何者かに精神を乗っ取られている可能性はありませんか?」
「無くは無いけど難しいだろうね」
フィディ自身もそう言った魔法が得意だし、当然抵抗力も高い。僕が出来るかと聞かれたら無理と答えるレベルだ。それだけの能力があるならわざわざフィディを使ったりせずに自分で魔王を名乗れば良いんじゃないかと思う。
じゃあフィディ本人だとして、どうしてフィディはこんな事をしたんだろうか。
「フィディ自身が魔王になりたかった、なんて事は無いだろうし」
「そうですね。彼女に支配者願望があったとは思えません」
「むしろ影で王を操る裏ボスとかなら似合いそうだ」
「王様になるかって聞かれたら『面倒だからパス』って言いそうです」
だいたい僕らの意見は一致している。魔王になったのはフィディの本意ではない。
じゃあ誰がそんなことをさせたかと言えば、考えられるのは1つしかない。
「精霊がやらせてるんだろう。それしか考えられない」
「しかしいくら精霊からの依頼でもあのフィディさんが素直に受けるでしょうか」
「そこなんだよね問題は。でも今回の1件、精霊が絡んでいる事だけはまちがいない」
「どうして分かるんですか?」
「世界中に放送が出来るのは精霊以外に居ないからだよ」
都市1つとかなら魔道具を使ったりして何とか声を届けることはできる。頑張れば国内の主要都市に同時中継、なんてことも不可能じゃないかもしれない。だけど全ての国に対してとなると今の人類では不可能だ。教皇だって出来ないだろう。
唯一可能となるのがこの世界のどこにでも存在する精霊だ。空を一時的に暗雲で覆うのだって精霊ならではの芸当だし風の精霊の力ならはるか遠く離れた場所に声を届けることだって出来る。
そして幾らエルフの血が流れているったってフィディのお願いで精霊がそこまで力を貸すとは思えない。だから逆にフィディが精霊を手伝っていると考えるのが妥当だ。
「精霊っていうのは本来中立の立場を貫く存在だから、ここまで明確に干渉してくるのって珍しいんだけどね。
精霊にもそれなりの事情って物があるんだろうけどそれが何かまでは分からないな」
疑問は尽きないけど仮定は成り立つ。そしてここまで分かればこれからの方針も立つと言うものだ。
「フィディを連れ戻すのは当然として、精霊もちょっとお説教が必要だね。
人探しを頼むくらいなら良いけど魔王はやりすぎだ。下手すると命の危険だってあるし」
「しかし精霊もですがフィディさんがどこに居るか分かるんですか?」
「『約束の地』とか言ってたし、何か思い入れのある場所だろうね」
一応心当たりはあるけど、確証はない。それでも邪神龍モドキが飛んでいった方向を考えればあそこかなっていう目星は付いてる状態だ。
「ま、焦らなくても今の人類で精霊がバックに付いているフィディに勝てる人はまず居ないし、近くを魔物や邪神龍モドキが囲っているとなれば、それこそかつての6英雄クラスじゃないとフィディの元まで辿り着く事も出来ないから大丈夫だろう」
教皇が直接乗り込んでくるとは思えないし、彼女が隠し持っている奥の手を出してくるとも思えない。他は今回の戦争で沈黙を保った魔法の国も、通り抜けた感じでは自国のことで手一杯って感じだったし、本来後衛職の魔法使いが率先して前に出ることもないだろう。剣の国は存続が危ぶまれる状態だし他の国だって余裕があるとは思えない。
「ということで、戦争が終わって疲れただろうし少しのんびりしよう。
フィディだって折角魔王を名乗ったのに少しもしない間に降板させられたんじゃ可哀そうだし」
「そうですね。
もしかしたら魔王ライフが気に入るって事もあるかもしれないですしね」
フィディが「はっはっはぁ~。跪け愚民ども!」とか言ってる姿はちょっと似合いそうではある。
ただやっぱり精霊が何を考えてこんな事をしでかしたのかが分からないのが不気味だ。彼らは僕らとは全く異なる価値基準で動くからいくら考えても理解出来ないことがあるからな。
いつもお読みいただきありがとうございます。
この作品はこの章で一区切りを付ける予定です。
が、最有力候補のエンディングの構想はありつつもどうやってそこに繋げるかは全く未定です。
なので全く違う最終回が待ち受けているかもしれないし、もしかしたらもう1章続ける、なんてことになるかもしれません。
その辺の匙加減は登場人物達次第です。
せっかくここまで来たので最後までお付き合い頂けると幸いです。




